こらぼでほすと 一撃3
木曜金曜は、店は通常営業だった。フェルトがやってきたので、ニールは店のほうは休
んでいる。キラが、木曜日にカリダから預かったというお菓子を、寺に配達し、さらに、
店にも持ってきた。悟浄たちには、馴染みの菓子だ。それを、事務室で女房の手伝いをし
つつ、食していてタバコを切らしていたことに気付いて、ちょいとコンビニまで、と、店
の裏から出た。そこで、アスランが携帯端末で、どこかへ連絡を取っているのと出くわし
た。その内容と花の種類で何が行われるのか、察知した悟浄は、何食わぬ顔で戻ってきて
、こっそりと女房にチクった。
「え? またですか? 」
「ああ、そうみたいだ。・・・・で、モノは相談なんだがな? 八戒。」
「はあ。」
なんか思いついたらしい。悟浄は、人の悪い笑みを浮かべている。
「子供たちは全部ぶっちぎって俺と雲隠れしてみないか?」
そう言って、ちゅっとバードキスをかまして、店表から出て行った。女房のほうは、唐
突な行動なんてものには慣れているから、まあ、とんでもなかったら力付くで阻止すりゃ
いいでしょう、と、暢気に構えてパソコンの入力を続けた。
明けて翌日の金曜日。仕事が終わって、二人は深夜営業の焼肉屋さんにいた。金曜日の
深夜だと人は割りといるもので、それなりに客は入っている。
「トントロ好きだよな? 」
「なーんか気に入ってるんですよね。こっち、焼けました。」
「おう、ミノとタンも焼いてくれ。」
金曜日、仕事が終わると、一端、マンションに帰った。そして、そこでレンタカーに乗
り換えて、出てきた。子供たちから雲隠れするという誘いは、嘘ではなかった。その証拠
に、深夜も廻った時間に腹ごなしだ。黄身と桜肉のユッケをぐっちゃらぐっちゃと混ぜて
、まぐっと悟浄は食べる。そして、いつもなら生ビールなとこだが、運転するからウーロ
ン茶で我慢している。
「うめぇー牛より馬のほうがあっさりしてていいな。」
「カッパのくせに、ナマモノ好きですねー悟浄。」
「それ、差別だと思いマース、八戒さん。おまえだって、イノブタのくせに、豚好きじゃ
ねぇーか。」
「そう言われれば、そうですね。」
一口食べたユッケの皿を女房に渡し、肉を裏返す。厚切りのタンは、いい具合にジブジ
ブと焼けている。チシャ菜に、味噌をつけて熱々のタンを口に入れると、ジューシーな肉
汁が口内に滴ってくる。同じのを作って女房に渡す。日頃の家事の代わりのご奉仕といっ
たところだ。
「食べ過ぎて居眠りしないでくださいよ。」
「それはない。昼寝したからさ。」
おまえは寝てていいぞ、と、亭主は言うのだが、女房は鼻で笑った。そんなことしたら
、どうなるかよおーく知っている。
「サービスエリアの片隅で、悪戯されるのはイヤなんで、ちゃんと相手をさせてもらいま
す。」
「するどいなー。けど、ちょっと違う。そこだと、おまえが逃げられるからな。正解は、
非常停止帯または高速バスの停留所。」
「さすが、元ジゴロは心得てますね。」
端っこでじわじわと焼いていたウルテが、くるりりと丸まって焼きあがる。それは、レ
モンでこりこりと食べるといい感じだ。
「車内って狭くて面倒だから非常事態的な行動だろうな。それなら、いかがわしいホテル
へ直行するほうが、俺としては楽しい。」
「僕も、そっちがいいですねー後でシャワーを浴びたい。まあ、眠くなったら、そういう
ことにしましょう。」
「そうだな。急ぐ旅でもないし、チェックインは三時半だ。」
女房は、さらにトントロを焼く。かなりの煙と炎なので、氷を網に置いて沈静化しつつ
裏返す。
「なあ、冷麺頼むけど? 」
「一口ください。」
はいよ、と、亭主が追加を頼む。そんなに空腹ではなかったから、〆に冷麺ぐらいで済
ませた。
「五時間、いや六時間くらいかな。」
道路マップを広げて目的地までの距離を、ざっと目を通す。適当に休憩しつつだが、こ
の深夜だと輸送トラックぐらいしか走っていないから走りやすい。
「考えましたね。確かに。これなら足はつかない。」
「だろ? うちのクルマだと料金所でチェックされて、すぐに行き先がバレちまうからな
。レンタカーなら、その心配はねぇーからさ。乗り捨てて帰りは飛行機とくると、さすが
にわからんだろうさ。」
日曜日にサプライズイベントを仕掛けようとしているので、それから逃亡することにし
た。まあ、サルは仕方がない。何年も保母をしているから認めよう。だが、それ以外は多
すぎる。というか、俺のだから勝手に権利を主張するな、と、悟浄は言いたくなった。今
までは逃げたら、対象者が一人だったから、子供たちががっかりしてもいかんか、と、供
応してきたが、新たに寺に「おかん」が、できたから、あっちでやってくれ、と、言える
ようになった。もっとも、子供たちにしてみると、「吉祥富貴」のおかんは、やはり、自
分の女房で、おかんであることは確定ではあるらしい。
「月曜日に飛行機なら、楽々、店に間に合いますしね。」
「それに、連休明けで、どこでも空いてた。」
で、まあ、連休は、本当にのんびりだらだらだったから、ちょっとだけ温泉旅行に行き
たくなったというのも、その理由だ。トダカが、温泉に入ったら、若返ったよ、と、冗談
交じりに言ったからだ。同じ場所というのも情けないから、逆向きに走ることにした。さ
すがに桜前線には追い着けないが、新緑は綺麗なはずだ。せっかく休みなのだから、こう
いうのも入れとこうと女房孝行のつもりもある。
「そんなに、二人がいいんですか? ニールは、悟空が帰ってきて嬉しそうだったのに。
」
「そりゃ、坊主と二人は気しんどいだろ。」
「そうでもないそうです。それはそれで、静かでゆっくりできたけど、静か過ぎて寂しい
んだそうですよ。根っからのおかんですよね? 」
「あいつ、寂しがり屋なんだろうな。三蔵も、まんざらでもねぇーみたいだしな。」
運ばれてきた冷麺を女房に渡し、先に食べさせる。その間に、残った肉をさらった。腹
八分目という具合に膨れたので、冷麺できっちり満腹だ。
「二泊だから、観光は考えておいてくれ。」
「させてくれるんですか? 」
「盛り上がり方と、おまえのフェロモン垂れ流し具合に拠り、行動予定は決定。」
「・・・・僕は自覚はしてませんのでね。」
「それが、あなたのいいところ? なーんつって。」
ほら、行くぞ、と、立ち上がる。会計は女房の仕事だ。さすがに、こんな時間だと肌寒
いから、エンジンをかけて車を暖める。男二人だと、用意も大したことはないし、ペット
もいないから、決めたら速攻で動ける。
「こっちだぞー。」
レンタカーはわかりづらいのか、女房が迷ったので声をかける。助手席に女房が納まれ
ば出発だ。
「これは喫煙オッケーですか? 」
「ああ、そういうの借りてきた。」
そして、高速道路に昇り、誰もいない四車線の道路を走っていると、ふたりして笑えて
んでいる。キラが、木曜日にカリダから預かったというお菓子を、寺に配達し、さらに、
店にも持ってきた。悟浄たちには、馴染みの菓子だ。それを、事務室で女房の手伝いをし
つつ、食していてタバコを切らしていたことに気付いて、ちょいとコンビニまで、と、店
の裏から出た。そこで、アスランが携帯端末で、どこかへ連絡を取っているのと出くわし
た。その内容と花の種類で何が行われるのか、察知した悟浄は、何食わぬ顔で戻ってきて
、こっそりと女房にチクった。
「え? またですか? 」
「ああ、そうみたいだ。・・・・で、モノは相談なんだがな? 八戒。」
「はあ。」
なんか思いついたらしい。悟浄は、人の悪い笑みを浮かべている。
「子供たちは全部ぶっちぎって俺と雲隠れしてみないか?」
そう言って、ちゅっとバードキスをかまして、店表から出て行った。女房のほうは、唐
突な行動なんてものには慣れているから、まあ、とんでもなかったら力付くで阻止すりゃ
いいでしょう、と、暢気に構えてパソコンの入力を続けた。
明けて翌日の金曜日。仕事が終わって、二人は深夜営業の焼肉屋さんにいた。金曜日の
深夜だと人は割りといるもので、それなりに客は入っている。
「トントロ好きだよな? 」
「なーんか気に入ってるんですよね。こっち、焼けました。」
「おう、ミノとタンも焼いてくれ。」
金曜日、仕事が終わると、一端、マンションに帰った。そして、そこでレンタカーに乗
り換えて、出てきた。子供たちから雲隠れするという誘いは、嘘ではなかった。その証拠
に、深夜も廻った時間に腹ごなしだ。黄身と桜肉のユッケをぐっちゃらぐっちゃと混ぜて
、まぐっと悟浄は食べる。そして、いつもなら生ビールなとこだが、運転するからウーロ
ン茶で我慢している。
「うめぇー牛より馬のほうがあっさりしてていいな。」
「カッパのくせに、ナマモノ好きですねー悟浄。」
「それ、差別だと思いマース、八戒さん。おまえだって、イノブタのくせに、豚好きじゃ
ねぇーか。」
「そう言われれば、そうですね。」
一口食べたユッケの皿を女房に渡し、肉を裏返す。厚切りのタンは、いい具合にジブジ
ブと焼けている。チシャ菜に、味噌をつけて熱々のタンを口に入れると、ジューシーな肉
汁が口内に滴ってくる。同じのを作って女房に渡す。日頃の家事の代わりのご奉仕といっ
たところだ。
「食べ過ぎて居眠りしないでくださいよ。」
「それはない。昼寝したからさ。」
おまえは寝てていいぞ、と、亭主は言うのだが、女房は鼻で笑った。そんなことしたら
、どうなるかよおーく知っている。
「サービスエリアの片隅で、悪戯されるのはイヤなんで、ちゃんと相手をさせてもらいま
す。」
「するどいなー。けど、ちょっと違う。そこだと、おまえが逃げられるからな。正解は、
非常停止帯または高速バスの停留所。」
「さすが、元ジゴロは心得てますね。」
端っこでじわじわと焼いていたウルテが、くるりりと丸まって焼きあがる。それは、レ
モンでこりこりと食べるといい感じだ。
「車内って狭くて面倒だから非常事態的な行動だろうな。それなら、いかがわしいホテル
へ直行するほうが、俺としては楽しい。」
「僕も、そっちがいいですねー後でシャワーを浴びたい。まあ、眠くなったら、そういう
ことにしましょう。」
「そうだな。急ぐ旅でもないし、チェックインは三時半だ。」
女房は、さらにトントロを焼く。かなりの煙と炎なので、氷を網に置いて沈静化しつつ
裏返す。
「なあ、冷麺頼むけど? 」
「一口ください。」
はいよ、と、亭主が追加を頼む。そんなに空腹ではなかったから、〆に冷麺ぐらいで済
ませた。
「五時間、いや六時間くらいかな。」
道路マップを広げて目的地までの距離を、ざっと目を通す。適当に休憩しつつだが、こ
の深夜だと輸送トラックぐらいしか走っていないから走りやすい。
「考えましたね。確かに。これなら足はつかない。」
「だろ? うちのクルマだと料金所でチェックされて、すぐに行き先がバレちまうからな
。レンタカーなら、その心配はねぇーからさ。乗り捨てて帰りは飛行機とくると、さすが
にわからんだろうさ。」
日曜日にサプライズイベントを仕掛けようとしているので、それから逃亡することにし
た。まあ、サルは仕方がない。何年も保母をしているから認めよう。だが、それ以外は多
すぎる。というか、俺のだから勝手に権利を主張するな、と、悟浄は言いたくなった。今
までは逃げたら、対象者が一人だったから、子供たちががっかりしてもいかんか、と、供
応してきたが、新たに寺に「おかん」が、できたから、あっちでやってくれ、と、言える
ようになった。もっとも、子供たちにしてみると、「吉祥富貴」のおかんは、やはり、自
分の女房で、おかんであることは確定ではあるらしい。
「月曜日に飛行機なら、楽々、店に間に合いますしね。」
「それに、連休明けで、どこでも空いてた。」
で、まあ、連休は、本当にのんびりだらだらだったから、ちょっとだけ温泉旅行に行き
たくなったというのも、その理由だ。トダカが、温泉に入ったら、若返ったよ、と、冗談
交じりに言ったからだ。同じ場所というのも情けないから、逆向きに走ることにした。さ
すがに桜前線には追い着けないが、新緑は綺麗なはずだ。せっかく休みなのだから、こう
いうのも入れとこうと女房孝行のつもりもある。
「そんなに、二人がいいんですか? ニールは、悟空が帰ってきて嬉しそうだったのに。
」
「そりゃ、坊主と二人は気しんどいだろ。」
「そうでもないそうです。それはそれで、静かでゆっくりできたけど、静か過ぎて寂しい
んだそうですよ。根っからのおかんですよね? 」
「あいつ、寂しがり屋なんだろうな。三蔵も、まんざらでもねぇーみたいだしな。」
運ばれてきた冷麺を女房に渡し、先に食べさせる。その間に、残った肉をさらった。腹
八分目という具合に膨れたので、冷麺できっちり満腹だ。
「二泊だから、観光は考えておいてくれ。」
「させてくれるんですか? 」
「盛り上がり方と、おまえのフェロモン垂れ流し具合に拠り、行動予定は決定。」
「・・・・僕は自覚はしてませんのでね。」
「それが、あなたのいいところ? なーんつって。」
ほら、行くぞ、と、立ち上がる。会計は女房の仕事だ。さすがに、こんな時間だと肌寒
いから、エンジンをかけて車を暖める。男二人だと、用意も大したことはないし、ペット
もいないから、決めたら速攻で動ける。
「こっちだぞー。」
レンタカーはわかりづらいのか、女房が迷ったので声をかける。助手席に女房が納まれ
ば出発だ。
「これは喫煙オッケーですか? 」
「ああ、そういうの借りてきた。」
そして、高速道路に昇り、誰もいない四車線の道路を走っていると、ふたりして笑えて
作品名:こらぼでほすと 一撃3 作家名:篠義