こらぼでほすと 一撃3
しまう。逃亡成功というところなのだろう。
「だいたいなーお母さんに感謝すんなら、お母さんの好きなものをプレゼントしろっつぅ
ーんだよ。」
「好きなもの? なんとなくオチはわかりますが、聞いてあげますよ、悟浄。僕の好きな
ものって何ですか? 」
「俺にリボンつけて、『好きにしてください。』 だろ? 」
「・・・・・・僕、アスランくんみたいな趣味はないんですが? 」
「あんた、俺以外に何かあるわけ? 」
真面目な低い声で言われると、これでちょけたら拗ねるんだろうな、と、八戒も苦笑す
る。好きなものはたくさんあるが、大切に傍に置きたいものは、ひとつだとは思う。
「好きなものって言うなら、悟空も好きだし、今の生活も好きですよ。お酒も好きな銘柄
があるし、好きなブランドの服もあります。ただねぇー、リボンはいりませんが、エロガ
ッパは一匹だけ手放せないとは思います。エロガッパは、もう好きとかの次元ではないん
で。」
真面目に尋ねるので、ちょっとふざけて、でも、内容は真面目に答えたら、亭主のほう
は笑っている雰囲気だ。
「俺もなあ、好きなものはあるんだよ。でも、イノブタ一匹だけは、もう身体の一部みた
いでさ。これがないと、いろんな意味で困りますんで、ひとつよろしく。」
「はいはい、よろしくされますよ。僕もお願いします。なんなら、悟浄のはぴばに、リボ
ンしたほうがいいですか?」
「リボンは首に巻いて、ワイシャツ一枚でベッドでお待ちいただけると、俺としては感激
しますぜ? イノブタ女王様。」
「割とノーマルなんで、覚えてたら実行させていただきます。」
「おまえは? 俺に希望はないのか? 」
「セーラー服でも着てくれます?」
「はあ? きっついリクエストするねぇー。見たいか? 」
「それなりに笑えて和みそうな気はするんですよ。どうせ、悟浄は照れて悪態つきまくる
だろうし、そういうの俗に言うツンデレってやつでしょ? 」
「・・・・八戒? 」
「はい? 」
「何目指してんの? 」
「いえ、ただの好奇心です。」
「好奇心で、亭主の女装を希望? 」
「ええ。僕がやっても、あまり笑いは取れませんからね。」
そりゃ、うちの女房なら、ちょいと身体の線を隠せば、たちまち美女に変身するもんな
ーと、悟浄は内心で、それを想像して笑う。だが、自分のは、どう綺麗に想像しても二丁
目辺りのいかついおねーさんにしかならないだろう。
「もしかして、雲隠れに反対してるとか? 」
「とんでもない。・・・・ああいうのは苦手なんで、雲隠れは助かりました。それに、こ
ういうこっそりと隠密行動っていうのも、たまには楽しいですよ。」
「本当に好奇心で、きっもい俺の女装を見たいんですかい? 」
「ええ、そうです。」
「なんか行き着くとこまで行き着いたってこと? 」
「そうでもないんじゃないですか。想像したら楽しそうだったからの提案で。それで、ど
うこうはありません。」
「あ、そーなんだ。なんだよ、てっきりは、俺は、それで押し倒されて、あれーで帯ぐる
ぐるかと思ったぞ。」
「帯ないでしょ? 」
「だから、そういう雰囲気っていうかさ。」
「それ、やりたいならやりますけど、悟浄を回すのは力が要りそうだなあ。」
「やらなくていいです。むしろ、回させろ、俺に。」
周囲にライトもブレーキランプもない道路を、そんなくだらない話で盛り上がり、沙・
猪家夫夫の雲隠れは敢行された。
ちっっ、逃したか、と、キラは携帯端末の画面を眺めつつ舌打ちした。カッパイノブタ
夫夫のところを午後から急襲したのだが、留守だった。ついでに、寝ているかも、と、携
帯で連絡したら留守電になっていて、居場所確認のため、GPSを起動したら、これまた
、とんでもないエリアで、ふたつの光点がチカチカしている。
「計画的犯行だよね? アスラン。」
「そうだろうなあ。クルマが置いてあるところを見ると、そういうことだな。」
「どうしよう? ストライクとインパルスで捕獲してこようか。」
キラは本気だ。ここから、クルマで六時間の距離も、MSを使えば、小一時間とかから
ない。だが、さすがに、それは・・・と、レイが止める。
「夫婦水入らずで温泉旅行なら、明日にすればどうでしょう? キラさん。」
のんびりしているところへ、いきなりカーネーションを渡すという用件だけで、全長十
数メーターのMSで乗りつけるのは、いかがなものか、と思う。
「てか、キラ。あいつら、渡しに行っても出てこないと思うぞ? エロガッパのことだか
らさ、しつこくいろいろといたしてるだろーから。」
悟空の適切な表現に、あーと納得して何度か頷いた。二人きり二泊となると、まあ、い
ろいろとやっているには違いない。そんなとこへ乱入したら、確実に全員がイノブタの気
功波の餌食だ。
「来年には気をつけて準備しような、キラ。」
「そうだね。ここ二年は、すらっといったから油断したね、ごくー。」
二年前と昨年は、ニールを理由にしてサプライズを仕掛けたから成功していたが、三度
目は逃げられた。
「じゃあ、この花束は、どうする? 」
「ママに渡そう。八戒さんのは、明日、違う花に変更して渡す? カーネーションじゃな
くて、蘭とかカトレアとかでも良いかな。」
「そうだな、一日遅れてで渡すのも、時期を外したみたいで嫌だから、それでいいんじゃ
ね? アスラン、手配いける? 」
「ああ、それぐらいは大丈夫。店に届けてもらうよ。」
別に、母の日のカーネーションに拘っているわけではない。店内外で、いろいろと保母
業務もしてくれている八戒に、一年に一度くらいちゃんとお礼を言う日という感覚だ。だ
から、まあ、花は飾りというだけだから、カーネーションでなくてもいい。沙・猪家のマ
ンションの下で、年少組は、やられたーと笑いつつ、次のサプライズ会場へと移動するこ
とにした。
さて、お寺には、華やかな夫婦がふた組、遊びに来ていた。こちらも、カガリの別荘へ
出かけていたので、土産の配布が主目的だが、肝心の女房が昼寝時間だったので居座って
いる。
「フェルトちゃんは? 」
「悟空と出かけたぞ。・・・・なんで、おまえらまで押しかけてくるんだ? 」
「楽しいイベントは参加しないとならんだろ? アスランには連絡しといたから、俺らの
分も配達してくれるさ。」
今夜のイベントは、こちらで仕切りますので、と、アスランから三蔵も連絡されている
。
「それ、カッパんとこの分だろ? 鷹さん。」
雲隠れ中に緊急事態が発生してもマズイから、と、悟浄は、逃げることは報告していっ
た。三蔵の携帯端末からの通信だけは、留守電にならずに繋がるように設定されているか
らだ。何事かあれば、三蔵が呼び戻すことになっている。
「なんだ、知ってるのかい? 三蔵さん。」
「俺のだけ緊急回線扱いにしてあるんだよ、虎さん。」
肉弾戦担当組のリーダーは基本、三蔵だ。なるほど、と、虎も頷く。
作品名:こらぼでほすと 一撃3 作家名:篠義