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ぐらにる 流れ3

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徒歩五分なんてものは、あっという間のことだ。ぶらぶらと歩いて辿り着いたら、やはり、そこにはエーカーが立っている。
「用事があるって言ってなかったか? 」
「済ませてきた。」
 手荷物にしては大きなガバメントバッグとボストンバックが足元に置かれている。仕事で帰国することにでもなったのか、と、思った。
「帰るのか? 」
「どこへ? 」
「あんた、ユニオンの軍人さんだろ? ユニオンにだよ。」
「まさか、一ヶ月は有給扱いで処理させている。今のところ、私は溜まりに溜まっていた休暇を消化中だ。」
「じゃあ、その荷物は? 」
「ホテルをキャンセルしてきた。ここに住むことにした。」
 ここ、と、指差されたのは、自分の部屋のドアだ。どこをどうしたら、そういう結果になるんだろう。昨日は、確かに助かった、とは、思ったが、同居するなんて言ってない。
「俺は許可してないぞ? 」
「私の独断で決めた。私の姫が毎夜、魘されるなら、それを阻止してやるのが、恋人の私の務めだろ? 」
「だから、俺は、あんたの恋人じゃないし、付き合うつもりはない。」
 人の話を聞かないエーカーには言うだけ無駄だ。鍵を開けて、入ろうとしたら、ドアの隙間に足を挟まれた。
「折るぞ? 」
「できるものならな。」
 現役の軍人とはいえ、俺よりは体格的には小さい。力ずくで、どうにかなるだろうと足を持ち上げようとしたら、逆に、その足で脛に蹴りこまれた。痛いと感じた瞬間に、ドアを掴んでいた手は緩んで、全開となる。優雅な足取りで入り込んだ彼は、どかりとカバンを廊下に放り込んだ。すまない、と、軽く会釈して、俺の前にしゃがみこむ。
「一応、現役の軍人なので、正体不明のSEくんに負けるわけにはいかない。それに、入れてくれないなら、それでも構わない。ここで野宿するつもりだ。とりあえず、荷物だけは預かってくれ。」
 それだけを言うと、また、ドアの外へ出て、パタンと閉じられた。一瞬の出来事で、理解するのに時間がかかった。つまり、我慢比べということだ。そんなもので懐柔されないとは思ったものの、もしかして、また食事もせずにやっているのではないか、と、疑問に思った。ドアチェーンをして、それから扉を少し開いた。ちゃんと、そこには座り込んで、テキストに目を通しているエーカーがいる。
「なあ、エーカー。メシは? 」
「忘れていた。」
「はあ? 」
「ホテルをチェックアウトして、あっちこっちに連絡を入れていたからな。所在をはっきりさせておかないと、煩いんだ。緊急呼び出しには、休暇中でも応じなければならないんでね。」
 呼び出し自体は、携帯端末に着信するが、所在も報告義務がある、という。とりあえず、ここの住所にしておいた、と、事も無げに言うのが腹立たしい。
「どこか別のホテルを取ればいい話だろ? 」
「それで、きみが夜中に魘されるのを無視しろと言うのか? 」
「入れてやるつもりはないから、ここに居たって、あんたは、俺を起こすことなんてできないだろ? 」
「くくくくく・・・・きみの魘される声が聞こえたら、このドアを蹴破ればいい。」
「おいおい、ここは借りてるんだぞ? そんな乱暴されたら、俺が追い出される。」
「そうなったら、ふたりで生活できる場所を確保する。ここは少し手狭だ。」
 だから、何も心配しなくていい、と、微笑まれたら脱力した。人の話を聞かないのの相手は慣れているつもりだった。だが、さらに上手がいるとは思わなかった。
「世の中って広いな。」
「唐突だな? 姫。」
「あんたみたいな俺様気質の人間とは、それなりに折り合いが付けられると自負していたんだが、なんだか、その自信をへし折られた気がする。」
「姫に認めてもらえるとは光栄だな。」
 たぶん、俺は我の強い人間に弱いのだ。絶対に曲げないものがある人間ほど厄介なものはない。扉は少し開けたままで台所で手早くサンドイッチを作り、それと、ミルクティーを、その隙間から差し出した。礼を言う声を無視してシャワーを浴びる。諦めてくれれば、という願いも空しく、バスタオルで髪を拭きながら玄関を覗いたら、隙間から食器は内へ入れられていて、その向こうに背中が見えている。放置すれば、あのまま朝まで、あそこにいるんだろう。
・・・・なぜ、俺の周りには、こんなのばっかりなんだろう・・・・・
 何かしら因縁でもあるのか、と、思うほどに頑固なのが多い。刹那にしてもティエリアにしても、一見温厚そうなアレルヤにしても、皆、頑固だ。やると決めたら、絶対に退かない。
・・・どうせ、後二週間のことだ。それに、これから、俺はサボタージュするつもりだしな。・・・・
 これから二週間経過すれば、会うこともない相手だ。そう考えたら、気が楽なのは確かだ。どんなことがあったとしても、それを知っている男は、二週間後に周囲から消える。
 ドアチェーンを外して、扉を開いた。好きにしてくれ、と、そのままにして奥へ引き込む。住み着くなら住み着けばいい。抱きたいなら勝手に抱けばいい。どうせ、彼は二週間の期間限定の同居人でしかない。
 扉の閉まる音がして鍵をかける音がする。それから短い廊下を進んでくる。勝手にしろ、と、ベッドに潜り込んだ。
「姫、ひとつだけ私の願いを聞き届けてもらえないだろうか? 」
 じゃあ、今までのは、なんだったんだ、と、怒鳴りたいのを堪えて、黙り込む。
「きみの本当の名前を教えて欲しい。ファーストネームだけでいい。・・・姫の本当の名前を呼びたいんだ。」
 長いこと呼ばれたことがない。その名前で呼ぶことができる人間は、すでにこの世にない。いや、残っているが、会うことはない。
「二ール」
「・・・ニールか・・・・ニール、きみを深く想う事を許してほしい。」
 なぜ、許可を求めるのだろう。誰が、どう思うおうと、それは個人の勝手というものだ。欲しいというならくれてやる。ベッドの脇に屈みこんでいたエーカーの後頭部へ手をやって引き寄せて、強引に唇を合わせた。上顎を舌で舐めて、絡めるように相手の舌を吸い上げる。しばらく、強引にキスをして、身体を離した。
「熱烈だな? ニール。」
「俺が魘されない様に寝かせろ。」
「承知した。毎日、これからは、きみの安眠を確保させていただこう。」
 どうせ二週間、されど二週間、別れたら、次に遭うのは戦場で、それでも、二週間だけは、彼に、自分の安眠を確保してもらおうと、また、キスを繰り返した。





 翌日、ふたりして、研究施設の学習プログラムを休んだ。どちらも加減をしなかったので、やれる限りのことをやってしまったからだ。
「生きてるか? ニール。」
 先に起きだしてシャワーを浴びたエーカーが、俺を覗きこむ。空腹だと、かっつくのだということを思い出して、俺は肩を震わせた。あの食事風景と、まったく同じ展開だったからだ。
「・・・生きてる・・・それより、あんた、施設へ今からでも出向けよ。」
「一日くらい構わない。それより起きられるか? ニール。」
「ああ、それほど、ヤワじゃねーよ。」
作品名:ぐらにる 流れ3 作家名:篠義