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ぐらにる 流れ3

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 久しぶりに、ぐっすりと眠った。戦闘の後というのは、疲れているのだが気絶しているのと同じようなもので、ぐっすりという表現の目覚めは来ない。心地よい疲れというのは、こういうのだろうな、と思いながら、起き出した。
「姫、少しは恥じらいを持ってくれないか? 」
「んー? いいだろ? 昨日、さんざんなことしといて、それを言うか? 」
 全裸のままで、大きく伸びをしたら、呆れたようにエーカーが呟く。どちらも男性であるし、昨晩、余すところなく見ただろうに、まだ、そんなことを言う。汗やら何やらで、パリパリになったシーツを剥がして洗濯機へ放り込む。ついでに、脱ぎ捨てたふたり分の服も足して、ボタンを押した。それから、シャワーを浴びて、すっきりして、ようやく食事の支度に取り掛かる。
 コーヒーぐらいは入れられるというので、任せてみたら、コーヒーメーカーが使えるということで、カリタで入れられるわけではないことが判明した。たぶん、家事なんてすることがないのだろう。
「もう、いいよ。カリタしかないんだ。」
 簡単な食事を、手早く用意したら、やっぱり、俺を待たずに、がつがつと食べている。とりあえず、わかったことは、彼は、「待て」ができないらしいということだ。けど、何度か、俺が誘った時には断った。
「なあ、エーカー、あんた、淡白なほうか? 」
 何気なく聞いたら、盛大にパンを喉に詰めてエーカーはもがいた。水を飲ませて背中を叩くと、ぶはっと息を吐き出す。
「ニール、きみは直接すぎて、心臓に悪いぞ。」
「そうか? いや、昨日の感想じゃなくてな、その前まではさ、あんた、俺の誘いを撥ね付けてただろ? だから、あんまりやる気はないのかと思ったんだ。」
 昨日の感想で、淡白という文字は出て来ない。常備していたゴムが、在庫切れするほど使ったのだ。それで淡白だと言い張ったら、俺は、どんな淫乱だよ? と、自己嫌悪する。
「・・・あれは、私にとっては最大に意地を張っただけだ。きみが、あんまり簡単に身体を使おうとするから、それで流されることだけはしたくなかったんだ。」
「・・・いや、今まで言い寄られた場合は、そういうもんだったからさ。」
「私は違う。」
 まあ、そうだろう。面と向かって恥ずかしい台詞で口説かれたのは、初めてだ。それに、一夜限りでもない。ただ、二週間限定ではある。


 食事が終わって、洗濯物を乾燥機に放り込んだら、すでに夕方だった。少し雨が降っていて、外へ出る用事は作りたくない雰囲気だ。
「ニール、どこかへ出かけないか? 」
 だが、彼は違うらしい。雨であろうと外出を渋ったりしない。
「どこへ? 外は雨だぞ? 」
 結局、家事能力のない彼は役に立たないから、彼のワイシャツにアイロンをかけていた。乾燥機から取り出した、シワシワのままでいいと言うから、アイロンとアイロン台を物置から探し出した。マンスリーマンションというのは、大抵の小物も揃っているから有難い。
「明日と明後日は休みだから、少しドライブして特区の外へ行かないか? 」
「特区の外? 」
「ああ、さっきテレビでやっていたんだが、特区の外にも、景色のいい所はあるらしいし、ここにいると、きみが自分で全部やることになるだろ? それではゆっくりできないじゃないか。」
「いや、人間生きてるとさ、食べなきゃいけないし、部屋を使えば埃は溜まるだろ? それを、いちいち、面倒だなんて思わないよ。」
「その時間を、私に全部、振り分けろっっ。」
「はあ? 」
「私と居る時は、私だけに集中していろ、と、言ってるんだ。」
「してるだろ? 今だって、あんたのワイシャツのシワを伸ばしているんだぜ? 」
 私のワイシャツじゃなくて、私だ、と、どんっっと、アイロン台をエーカーは叩いた。どうやら、べたべたとしていたいという抗議だったらしい。なんと暑苦しいことを言う野郎だろうと呆れたものの、こういうヤツだから、諦めるとか引き下がるとかいうこともないんだろうな、とも、納得した。
「・・・これが終わったら、付き合うよ。」
「よし、じゃあ、クルマを借りてくるから、私が戻るまでに準備を終わらせておくこと。よろしいか? 姫。」
「はいはい、わかりました。」
 うんうんと頷いたら、エーカーはジャケットと、このマンションに備え付けられていたカサを手にして出て行った。
・・・・それなりに気を遣ってるってことかな・・・・
 俺に家事を任せっきりなのを気にしたとも考えられるし、構って欲しいから、余計なものから遠去けているとも考えられた。どちらでもいいのだが、おかしい。
 とりあえず、こちらも居所を変えるなら連絡しておかなければ、と携帯端末で刹那に繋げた。
「悪い、これから二週間、緊急以外は受け付けたくないんだが、それでもいいか? 」
 こちらには、一人で出向いている設定だから、いきなり、合鍵で刹那が現れたら、エーカーがびっくりするだろう。それに、ユニオンの軍人と同居しているなんてのは、ちょっとまずい事実でもある。
「構わない。大丈夫か? ロックオン。」
「大丈夫だ。二週間、ちょっとゆっくりさせてもらおうと思っただけだ。」
「なら、いい。俺も、ちょっと中東へ出向いてくるつもりだから、都合がいい。」
 刹那の故郷は、中東の今は統合されてしまった小さな国だ。その周辺国へでも潜り込んで、故郷の現状を把握してくるつもりだろう。
「気をつけていけよ? あそこらへんは物騒だからな。それから、パスポートとか貴重品は、絶対に身から離すんじゃないぞ。」
「いちいち、うるさい。」
「けど、今は、おまえの身体しかないからな。それは大切に守らないとダメなんだぞ? 自力で、どうにかできる程度のことにしておけよ? 」
 以前なら、危険であれば、隠蔽被膜をしたエクシアに逃げ込めたし、それで即座に脱出もできた。だが、今は、その避難所がない。いくら刹那が、身体を鍛えていると言っても、大人数を相手にできるわけではないから心配する。そういうことに疎いのだ。
「わかっている。・・・・あんたも二週間、ゆっくりしていろ。」
「そうさせてもらう。」
 刹那だから、これで済む。アレルヤやティエリアだと、居場所だのなんだのと、詮索されるが、刹那は、そういう意味では無関心だ。東京特区内だから、問題はないと思ってもいるだろう。俺は、一度、深い闇に囚われたから、刹那たちは、それを心配しているらしい。もう、それについては、考えないようにしている。相手が、どうなったかも確認していない。生きていれば、また、戦うことになるだろう。その時は、冷静でありたいと思っているが、その時が来るまで、自分でもわからない。
・・・・それで、まあ、安眠を確保するのに、ユニオンの軍人を使うっていう段階で、俺は間違っているんだろうな・・・・・
 ティエリアあたりに知られたら、また、「万死に値する。」 と、詰られること請け合いだが、二週間、彼は空の上だし、刹那が単独行動をするから、そのサポートをするほうで忙しくなる。地上で動いている俺たちのことを、ティエリアは、適度にGPSで探して確認しているので、刹那が大きな移動を始めたら、そちらに意識は集中する。
作品名:ぐらにる 流れ3 作家名:篠義