風の想い
自分と同じ顔をした自分でない子供。おれと違って走ったり転んだり出来なかった子供。何年も部屋に閉じ込められ捨てられた子供。おれに怯えていた子供。
そんな子供がこんな風に笑うなんて…。好き嫌いを言うようになって何がしたいと言うようになって。それでも苦しいとは言わなかった。
「一生頭が上がらないな…。」あー元からか。
「…ますます頭が上がらない…。」おまけに暫く会いにいけそうも無いな。泣けるようになるまで来るなと言う…。そんな感じ。溜息。
それには時間がかかる。当てにしないで待っているか…。そうだね。待っていてもらえるならいつかはあの子を見えるだろう。
帰ってきて人の顔を見るなりつまらなそうに
「なんか落ち着いたな。」と言う。
「なんだよ。顔色も良くなっただろ?何か気に食わないの?」
「慰めようと思って色々考えていたんだが…。」なにを?サボりたいのかな?
「十分慰めてもらったけど。後は時間がかかるから。ま、時々落ち込むだろうけど…。」
「わたしの手はいらないか?」
「そんな事ないよ。」おれは母ほど強くない。手を引いて抱きよせられる。
「なら良い…。」ほっとしたように言う。頭を抱えたまま
「で、親とは仲良くなったのか?」
「あー。ある意味多少は…。違う意味で避けられた。」
孫見せるまで来るなと言われたからなあ…。
「なぜだ?」わかってて聞くかなあ。溜息つくと腕を緩めてくれる。
「わざとばらしてくれたお陰で暫く会ってもらえないよ。」
「無理に合わなくてもいいだろう。」
「あのねえ…親にまでやきもち焼くなよ。」
「きみがわたしのことを忘れるのがいけない。」
「おれは今頃母が誰かに愚痴を言ってるんじゃないかというのが怖いぞ。」
「気にするな。ここまでは聞こえない。」
「何言ってる。言う相手を考えてくれよ。」一瞬目が泳ぐ。
「…直接会わないから…。」それは甘い。
「おれ知らないぞ。」
「冷たいな。」とまた抱き閉めてくる。暫く離れてたからスキンシップ過剰気味でも仕方ないか。
回された腕が暖かい。自分が思ってたより疲れてたのを感じる。心配してくれる気持ちに慰められるな。
「暖かい…。」
「そうか。」
「少しは慰められたかな…。」
「大丈夫だ。目がしっかりしていたから。」
「そう…。」気が緩んでボーつとする。
「なんか眠い…。」
「少し休むと良い…。」
「うん。ありがとう…。」
そのまま次の日の夜まで寝て過ごして目を覚ますまたかと苦笑された。
「ごめん…。」
「大分慣れたが心配させないでくれ。」と言われる。
「気が緩んだみたいで…。」
「そうか…。」嬉しそうに
「わたしのそばで安心してくれるなら何よりだ。」そういう事になるのかな。
「じゃそのうち悲しくなるかな…。」髪を撫でながら
「もう十分悲しんでいるだろ…。」そうかな?わからない。暫くそのまま髪を撫でてくれる。
心地よい。
ああ、そうだ…。
「ピアノ弾いてよ。」
「また寝るんじゃないのか?」
「駄目?」わざとらしく溜息ついて手を差し出す。
「いいだろう。きみが甘えてくるなんて滅多にないからな。」
「ありがとう。」
クッションを抱えて眼を瞑る。
音が風になってあの子の気持ちを伝えてくれる。
最後の言葉とともに。
『おかあさん』