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風の想い

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「お荷物になりたくないの。たまにしか来ない人に振り回されたくなし。振り回したくない。」
不本意ながらその気持ちは良くわかる。
「おれが頼りないってことだね。」
「頼られても困るでしょう?」
今しか側にいられないのは確かだ迎えに来られたら帰らなくてはいけないし。
「側にいるときぐらい頼ってくれても。」
「そんな半端なことは好きじゃないし。もう十分よ。」
「らしいけど…。また拒否されたのかな。」
「あらそんな事無いわ。この先子供がまた出たなら幾らでも引き受けるわよ。」
「子供は引き受けるけどおれは拒否されてるような気がするけど。」
「孫は可愛いもの。」
「…そんなに子供いないと思う。」それじゃ節操なし。
「あら甲斐性ないわね。」
「…ご期待に添えませんで。」また額をはたかれる。
「馬鹿ね。単なる意地悪よ。」
「息子苛めて楽しいの?」
「だって可愛くないんだもの。」
「はいはい。」
呑気な事言って部屋に戻ると影が動いたような気配がする。ドアの影からぬっと手が出てきて腕を掴む。
「楽しそうだな…。」
「うわ…。」びっくりした。
「何でいるの。」
「勿論迎えに。」
「こんにちは。」にっこりして
「お邪魔してます。」
「お茶でもいかが。」
「いただきます。」
その空々しい笑顔を止めてくれないかなあ。二人とも怖いよ。強引に隣に座らせてお茶を受け取る。
「ちょっと腕を離して。」一睨みしてから放してくれる。
「あなたはお相手してなさい。わたしが荷造りするから。」
「かーさん。」寝室の方に行ってしまう。二人とも人の言うこと聞いてくれない。
「まだ早いって言ってなかった?」
「心配だったから。」
「何が?」
「忘れられそうで。」
「目の前のことに集中する性質なんだよ。まだ心配なのに。」母が鞄を運んできた。
「きりがないから行きなさい。」
「かーさん。」
「また来ればいいわよ。私はお墓守っているし。」
「どこに作るの?」
「知りたかったら連絡寄越しなさい。」
「え。」
「便りがないのは元気な証拠とは言え限度があるわよ。何年かに一度しか寄越さなかったのに急に付きっ切りになられても。」
「ごめん…。」隣でやつが微妙な顔してる。
「あの子は口に出さなかったけどあなたに会いたがっていた…。だから来てくれて良かったのよ。」
「でももういらない?」まだ泣いてるのに。
「ばかね。泣き終わるのを待っていたら何年もかかるわよ。それとも居てくれるの?」
「かーさん。」溜息つくしかない。
「荷物に写真入れておいたから。」
「そんなに追い立てなくても。」
「かーさん少し一人になりたいし。あなたもあたしの心配より自分の面倒見なさい。」
きつい事を。でも言い出したら引かないんだよな…。
「わかったよ。落ち着いたらまた来る。」
「そう?当てにしないで待っているわ。」あんしんしたように微笑む。
「で?何時出れるの?」
「直ぐでも。」そういう訳にも行かないだろう。挨拶もなしに。と思ったら母に急きたてられる。それほど二人で居るのを見てるのが嫌なんだなと大人しく従う。車に乗る前に
「あの子のお母さんはあの子に八つ当たりした上にあなたに押し付けたの?」
と言われる。そういう納得の仕方をしたわけか…。それも嫌だな…。
「そんな様なものだよ。」
「軍に入らなければ…。」
「かーさんそれは偏見…。」
「今度来る時は孫連れてきてね。」止めを刺さないで欲しい…。

                 ◆◇◆

ああ…ぐったり…。あんまり役に立ったとは思えないうちに追い返されてしまった。うちの母はきつい。セイラさん達に碌にお礼もいえなかったし。手紙でも書くか…。ボーつとして道中話をする気にもならない。
気を使って放っておいてくれてるので半分寝て過ごす。遅い時間に屋敷について軽い食事を出してもらう。食べ終わってお茶を飲んで途中から記憶が無い…。朝おきたらもう居ないし…。
元気だなあ…。溜息つきながら荷物の整理。
洗濯物を片付けて行くときは持たなかった物を膝に置く。もっと小さいものかと思ってたらまともに一冊分のアルバムと小さなビンに入れた遺灰。
これそのまま持っていていいのかな?部屋の中で見たくなくてベランダに出て開く。
食べてる姿・笑ってる姿・走ってる姿。ベッドに寝てるところしか見てないから新鮮だ。何日か前は息をしていたんだな。と思うと気が重くなる。これを死んだ子の年を数えるというんだろうか…。ちと違うか…。

当然とは言え自分の子供時代の写真にそっくりだ。家にあったやつ。あまり覚えてないけど。気のせいか着てる服に見覚えがあるようなないような…。もしかして同じ服着せてたり…。やりそう…。我が母ながら離れてる時間が長い所為かようわからん…。扱い方を間違えたみたいだし…。過保護の自覚があるので母の言うとおり離れた方が良かったんだろう。どう考えてもこの顔で側にいるのは良くないか…。

「自分の事か…。」それは一番考えたくないかも。思い出したくないことを思い出しそうだし。それと切り離して考えられないと悲しむのも無理か…。情けない。ダメージが蓄積したような…。
「気長に構えるしかないか…。」どのみち忘れられないのだし。

夕食前に帰ってきた。じっと見てしまう。
「仕事ちゃんとしてきたの?」
「…勿論だ。」目を逸らすな。目を。駄目だなこれは。お茶の用意をしてると
「少しは落ち着いたか?」と聞いてくる。カップを出しながら
「明日から仕事行くよ。」と言うと
「大丈夫なのか?」
「仕事してる方が楽。」
「無理しなくても。」と言ってくれる。苦笑しながら
「母にそう言ったら頼りたくないと言われたよ。」
「気丈な方だな。」物は言いよう。
「ブライト夫人がついていてくれるんだから大丈夫だろう。」
「う…ん。」そうじゃなきゃ嫌がられてても帰ってこなかった。
「アムロ。二人ともきみの心配をしていたぞ。」
「そんなに酷いかな…。」自覚は無い。
「顔色だけみても。その顔色で仕事に行ったらナナイに帰宅を命じられるぞ。」溜息。
「食べて寝ることだ。眠れないならいくらでも寝させてやるぞ。」
「寝れないことはないんだ。夢も見ない。ただ気が重いから…。仕事したいんだよ。多分おれは混乱してるんだ。自分と違うのは頭でわかってるんだけど…。ちゃんと連絡して子供の様子を聞いておけば良かったのに…。」
そうすれば別の人間としての認識がきちんと出来てちゃんと悲しむことも出来ただろうに。今更言っても自業自得。
「写真を見せてくれるか。」
「持ってくる。」
写真を見ながらこれはどこと聞いてくる。子供の頃のことを思い出しながら近所の公園とか動物園とか図書館とかわかる範囲は答える。流石に色々変わってるな。変化か。冷静に見れば母親が一番変わってる。髪型も服装も。頭冷やさないと駄目だな。
「わかったよ。大人しく2・3日休めば良いんだろ。」
「そうしてくれればこっちも安心だ。」
「じゃ仕事はきちんとしてくれ。」
「大丈夫だ。きみが帰ってきたから安心して寝られる。」人の事言えないんじゃないのか…。

◆◇◆

いい年して何やってるんだろう。こんなんだから追い返される。母が持たせてくれた写真を見ながら話してくれたことを思い出す。
作品名:風の想い 作家名:ぼの