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風邪引きの恋

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 下方のベージから上方へ赤くグラデーションする林檎は、朝焼けと同じ色をしている。
丸く盛り上がった所からすうっとナイフを入れれば、
甘酸っぱい果汁を滲ませ林檎は半分に裂けた。
中心に四つか五つ、黒く小さな種を持ち、赤ぶちの皮に囲まれた肉は白く潤っている。
芯を種ごとえぐり取れば、後は食べる部分しか残されない。
四等分に切り分け、皮と肉の間へナイフを滑りこませ、ゆっくりと分離させる。
それを何度か繰り返せば、やっと食卓へ出せる後菜ができる。
空色のガラス皿にでも盛れば、なんとなく雰囲気も出るだろう。
でも、ただの白い塊になった林檎は、少し、さみしい。

 才次が学校を休んで三日になった。
初めの内は静かに過ごせることを喜んだものの、
やはりチームメイトがいないというのは少し心もとない。
 豪炎寺がソロシューターになるということが決まってから、
俺の炎の風見鶏の相方は才次になっていた。
円堂が決めたことだ、余り反感はなかったが、
才次に付きまとわれているような感覚のあった俺は一寸辟易した。
実際、他人の目から見ても俺はどうやら才次と宮坂(陸上部の後輩だ)に
取り合いをされているらしく、よくもまあ耐えてる、と松野に肩を叩かれた。
あいつもあいつで、自由人で口の悪い半田をフォローしたり、
引っ込み思案な影野を立てたりな所謂苦労人で、
俺たちはどこかお互いを慰め合っている節があった。
 作戦会議でこの炎の風見鶏の相方変更が円堂から発表された時、
俺は今までの学校生活での才次を振り返って正直うんざりしてしまった。
休み時間でも授業中でも構わず擦り寄ってくる才次は、
見様によっては可愛いのかも知れないが、俺にはそういった余裕はない。
第一、男を可愛いと思う神経は持ち合わせていないし、
才次にとっても、可愛いだなんて不本意なことではないだろうか。
そりゃあ、可愛いという言葉は好意的なものであって、
けして嫌なものではないのだろうが、男という大前提はそれを否定する。
 しかし、俺とペアになったことでまた才次がきゃーきゃー大騒ぎするかな、という雰囲気の中
当の本人はいうと、至極マジメな声で「おう」と一言応えただけだった。
驚いて振り向けば才次は作戦の内容を律儀にノートへ写していて、
円堂以外の選手の一言一言まで丁寧に書き記していた。
意外な几帳面さに面食らっていると、円堂の隣で補佐をしていた源王が寄ってきて
才次はいつもこうしてメモを取っているんだ、偉いだろうと耳打ちして微笑った。
思えば、俺はこの時から少しずつ才次を見直していたのかもしれない。
普段は人馴れした猫のようにそばで目を細めて笑っているくせに、
試合となると途端に真剣な表情で勝敗の行方を追っている。
霧隠才次という選手は、俺にとって、不思議な人物だった。

 そんな人間だから、怪我病気とは無縁のように思えていたが、
さすがにこの季節の変わり目の気温の上下には参ってしまったらしい。
無駄にぴんぴんしている風魔が言うには、戦国伊賀島中のある伊賀島村は
背の高い竹林に覆われた隠れ里とかで、年間を通してとても涼しいそうだ。
昨日と今日とで気温が五度以上差があるのは当たり前のようなこの季節は、
俺たちだって気をつけなくては風邪を引く。
過ごしやすい気候の中暮らしてきた才次にとって、
東京の冬の始まりは体調を崩すには持って来いだったのだろう。
 スポーツ引き抜きの多い雷門中は外来用男子寮があり、寮母も常駐している。
才次はそこに入居しているから、不便はないはずだと思う。
幸いなことに才次の幼なじみの風魔や、仲の良い源王や大鯉も寮住まいだから、
見舞い人も多くさみしい思いもしないだろう。(特に風魔はずっとそばにいるらしい)
だからわざわざ俺が見舞いに出向くこともないと思うのだが、
こう長い間休まれると心配にもなる。
隣の席が空席なのも、なんだかそわそわして落ち着かない。
休み時間のたびに常の癖で身構えるのだが、宮坂が他愛ない話をしに来るだけで、
いつもの二人の口喧嘩が聞こえないことに変に肩透かしを食らったような気分になる。
才次のいない三日間は、割りと、退屈だった。



作品名:風邪引きの恋 作家名:さまよい