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風邪引きの恋

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 男子寮は学校から徒歩で十数分圏内にある二階建ての小さなアパートの集合体だ。
一つのアパートに六つの部屋があり、それぞれサッカー部やバスケット部などで
グループになって生活している。
入口から一番手前のアパートが共有スペースになっていて、
一階の奥に寮母の部屋があり、その横は二部屋をぶち抜いて食堂になっている。
二階は洗濯機などが置いてあり、休日にはよく混み合うそうだ。
生活している生徒の数は少ないものの(そしてその大半をサッカー部が占めている)、
子供の共同生活施設としては申し分ない設備だと思う。
ずっと両親祖父母と暮らしている俺としては、こういう生活は少し、憧れる。
親元から離れる寂しさも、すぐ隣に友人がいれば平気な気がした。

 サッカー部の住処は三号舎で、一階に源王、大鯉、水前寺先輩が住んでいて、
二階に蛇丸先輩、風魔、そして才次の六人が暮らしている。
御影から来た都築は元々家庭の都合で雷門へ転校してきたから、寮には住んでいない。
一人一部屋なんて豪勢だと思ったが、これから人が増えれば相部屋になる可能性があるという。
他の部も大方こんな様子で、むしろ六人もいるのは多い方だとも言われた。
前、陸上部で同じ距離の選手だった速水も外来生で、確か五号舎に住んでいたはずだ。

 制服のズボンから携帯を取り出し、フリップを開くとまだ四時半だった。
見慣れない時間を映す小さな画面。いつもなら皆と一緒にボールを追いかけている時間だ。
 二時間目の休み時間に才次のことを思い出してしまってからというものの、
どうも様子が気になってしまってつい部活を休んでここへきてしまった。
休む旨を伝えると、円堂は何もわかっていない様子で「大丈夫か」と心配したが、
源王は俺が才次を気にしている事に気付いたようで、
少し含んだように笑って「いってらっしゃい」と言った。
その時は何がなんだか分からなかったが、
今更になって理解して気恥ずかしさに顔が赤くなる。
 どうも、源王は他人の感情の動きに聡いところがある。
豪炎寺もその類ではあるが、またどこか趣が違う。
豪炎寺が気付くのが他人の負の感情だとすると、さしづめ源王は色恋だろう。
いや、別に、それに限ったことではない。
現に俺は恋愛感情とかそういうもので才次を心配しているわけではないし、
もっと、なんというか、嫌な気持ち以外のことに機敏だということを言いたかったんだ。
頭の中で否定をしていると余計に怪しい感じになってきた。
そもそも、寮の入り口で立ち尽くしている俺はちょっとした変人みたいじゃないか。
二、三回頭を振って、ようやく敷地内に足を踏み入れた。
少し様子を見たら帰ろう。
話なんて、回復してから学校ですればいいのだから。

 寮母に訳を話して才次の部屋の鍵を借りた俺は、
もしかしたら寝ているかもしれない部屋の主に気を使いながら静かにドアを開けた。
もう暗くなるというのに、電気の一つもついていない。
小さな声でおじゃまします、と呟いて、物音を立てないように靴を脱ぐと部屋へ上がった。
こういう時の自分の足音というのはどうしてこうも耳につくのだろうか。
フローリングが軋む音が緊張しきった胸に痛い。
 寝室の戸を開けると、予想に反して、部屋の中は実にこざっぱりとしたものだった。
綺麗に整頓された室内は、外来生の手本のようで、
この部屋があの天衣無縫な忍者のものだということを一瞬忘れさせる。
空間の使い方が上手いのか、デッドスペースが一つもない。
荷物が少ないせいかとも思ったが、それでも普通はこうはいかない。
ふと俺は荒れ放題な自分の部屋を思い出して、気後れしたような妙な気持ちになった。
少しは才次を見習おう。自分のだらしなさが嫌になる。
 生活臭の薄い部屋の、右側にベッドがあり、丸まった布団の中から静かな寝息が聞こえる。
薬が効いているのだろう、少々楽そうなそれに安堵の息が漏れた。
ベッドのすぐそばに添えつけられた卓の上には、飲みかけの水が入ったコップと、
粉薬の袋が三個、空になったまま置いてある。
この調子なら、じきに良くなるだろう。
俺は手土産に買った林檎を台所にあった小さな冷蔵庫へしまおうと、寝室から離れた。




作品名:風邪引きの恋 作家名:さまよい