Zefiro torna【泉栄】
そう言って、栄口の手を握る手に力を込めた。
「オレ、は――っ」
それだけ言って、栄口は言葉に詰まる。
だって、水谷に言われたんだろ? お前の好きなヤツは水谷じゃないって。それを栄口自身も認めたから、水谷への罪悪感で、昨日は泣いたんだよな?
でも。
オレは栄口を追いつめたいわけじゃないんだ。やっぱり、最後に決めるのは栄口だから。
「――オレも、水谷も。ただ、お前に笑ってて欲しい、そう思うよ。」
少し笑って。でも泣きそうな顔、してたかもしんない。
オレは栄口に向かってそう言った。
オレが、願うこと。水谷が願うこと。……大切なヒトに願うこと。それは、幸せであって欲しいということ。やわらかな笑顔を見せて欲しいということ。
静かに栄口を見つめる。すると、今にも泣き出しそうに、栄口の顔が歪んだ。
「……栄、口?」
オレの呼びかけには答えずに。
栄口は崩れ落ちるように、がくりとオレのベッドに手をついた。
「……っ、……きっ、オレ、……い…みが、好き…ッ、だ…」
途切れ途切れに聞こえる告白。
それが言葉としてオレの身体に入り込むと同時に、オレは強く栄口を抱きしめた。
どのくらいそうしていただろう。時間なんて分からない。
ふっと腕の力を緩めて身体を離した。
何だか気恥ずかしくて、お互いに視線を合わせらんないまま黙り込む。
「あ、あのさ…っ」
先に口を開いたのは栄口だった。
オレはちらりと栄口の顔を見る。あー、まだ真っ赤だ、コイツ。しかも、こんな顔、今はオレがさせてるわけで。
「……何?」
オレは照れくささを隠すようにぶっきらぼうに訊ねる。
「えーとさ、泉は、なんでオレなんか…、」
『好きなの?』
そう言った途端、また栄口は赤くなった。
ああ、もう。栄口がオレに向ける視線が、言葉が、態度がくすぐったくて堪らない。
どこが、好きかなんてワカらない。どうして好きになったかなんてワカらない。ただ、オレのモンにしたいと思ったんだ。
「わかんねー…。」
「わかんないって――」
「じゃあ、お前は? 同じコト訊かれて、答えられんの?」
栄口を軽く目を瞠って。それから首を横に振った。
「……だろ? だけど――」
オレは手のひらを栄口の頬にそっと添える。
さっき見た夢と同じだけど、今度は栄口は泣いてないし、現実だ。
「オレがキスしたいって思うのは、お前だけだぜ……?」
一旦引いた熱が、またぶわっと広がって赤くなって。さっきから栄口が茹で蛸みたいだ。思わず頬を緩めると、栄口の手のひらが、オレの手に重なる。
「オレ、も……っ、…泉、だけだよ。」
そう言って眉を八の字にして、すげー幸せそうに笑う栄口に。
オレはありったけの想いを込めて、キスをした。
作品名:Zefiro torna【泉栄】 作家名:りひと