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Last Love

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『俺、結婚するんだ』


彼の瞳のように真っ赤な空を背に、淡々とした声でそれは呟かれた。
顔は俯いているため、今彼がどんな表情でそれを言葉にしたのかは分からない。
分からない、が。決して冗談でも、遊びでもなくて、それが真実だということだけは、嫌というほど分かった。
だから、だから。僕が取るべき行動は。




『そう、ですか』
『おめでとうございます、臨也さん』


上手く笑えていただろうか、噛まずに言えただろうか。それさえも分からない。
息苦しくて、頭がくらくらして、そして『失礼します』とだけ告げて逃げるように退室した。


(どう、して)(こんなに、苦しいんだろう)
(僕は…臨也さんのことを、どう、思って……)


臨也さんが後ろから呼んでいた気もするけれど、立ち止まる余裕なんて無かった。
ただ、臨也さんに見っとも無い姿を見せたくなかった。
面倒だって、重たいって、思われたくなかった。


(思われたく、なかった?)
(あ、)(そっか)


気付けばそれは、単純なことで。あまりにもあっさりと答えは現れた。


(そっか、僕)
(臨也さんが、好きだったんだ)


何時からなんて分からない、何処がなんて分からない。
だけど臨也さんが好きなんだ。好き、だったんだ。それだけしか、なかった。
気付かなかったのか、気付かないふりをしていたのか、だけどそれすらも今更だ。


「ばか、だなぁ…僕」


僕の恋は、もうとっくに終わってしまったのだから。




***




臨也さんに「結婚する」と告げられた日から、もう臨也さんとは会っていない。
いや、避けていると言った方がいいかもしれない。
池袋の街にもずっと行っていないし、メールも着信も無視しているからだ。
後者については申し訳ないと思っていたが、ちゃんとした返答をできる自信がなかった。
いっそメールアドレスや番号を変えてしまおうかとも考えたが、何だか億劫でする気になれず、結局そのまま放置していた。
このまま嫌ってくれたら、それでいいとさえ思っている。


(ごめん、なさい)(臨也さん)


ちかちかと光る携帯電話のランプから逃げるように、僕は布団に潜り込んだ。





「先、写…(先輩、写真持ってきた…)」
「これがイザ兄の結婚相手だよ!」


何だか憂鬱な月曜日の、学校の昼休み。舞流ちゃんと九瑠璃ちゃんが携帯電話で撮った写真を見せてくれた。
勿論、臨也さんと結婚相手の人の。


「でもさー私すっごくびっくりしたんだよ!そりゃあ結構この人とも付き合い長いみたいだけど、てっきりイザ兄は帝人先輩、ラブ!とか思ってたのに」
「同…不(私も…分からない)」
「そんなわけないよ、臨也さんが僕を好きなんてこと…」
「だってだって、帝人先輩と一緒にいる時のイザ兄…私達も見たことない顔していたんだよ!?あんなイザ兄見たことないもん!」


舞流ちゃんと九瑠璃ちゃんの話を複雑な思いで聞きながら、渡された携帯電話のディスプレイに映る写真に目を落とす。
写っている女性はとても綺麗な人で、優しい笑顔を浮かべている。話によれば臨也さんよりも一つ年上らしい。
とても敵わないと、敵うわけがないと思った。


臨也さんと女性が何時出会ったのかとか、どういう経緯で結婚まで至ったのかとか、聞きたい気もしたけれど。
写真に写る真実だけでもう、僕の心は限界を訴えていた。


(だって、ほら)


写真(そこ)にいる臨也さんは、僕しか知らないと思っていた優しい笑顔を、その人の隣で浮かべていたのだから。



作品名:Last Love 作家名:朱紅(氷刹)