Last Love
放課後、重たい気分のまま玄関を出る。歩みも何処となく遅い。
すると隣を歩いていた二人の女子が交わす会話が、ふと耳に入ってきた。
「ねぇねぇ、あの門に立っている人、すっごくかっこよくない?」
「うん!誰か待ってるのかなぁ…」
その声に釣られて歩みを止めて、視線を上げる。視線の先、門に背を預け空を仰いでいる人がいる。
その姿を認めて、それこそ僕は呼吸が止まったんじゃと思うほどに混乱した。
忘れるはずなどなかった、ずっと僕の心を占めていた。苦しいのに辛いのに、どうしても忘れられなかった。
どんなに避けても、逃げても。もう、もう。
そこにある漆黒を、僕は消すことが出来なかった。
(ど、しよ)
誰かを待っているのだろうか、妹達だろうか。それとも――、とそこまで考えて頭を横に振る。
自意識過剰だ、そんなわけない。でもずっと連絡を無視しているから、それに対して怒ったのかもしれない。
(とりあえず、教室までもどっ…)
今来た道を戻ろうと、振り返ろうとした時、臨也さんの赤い瞳が此方を向いた。
その瞳とかち合って、どくんと心臓が大きく音を立てる。
今まで見たことないほど、そこに浮かぶ表情は怖くて、冷たかった。
臨也さんが門を通り抜け、此方にやってくる。ざわつく周りを気にすることもなく、早く、速く。
来る間も、視線を外すことはない。逃げようとしたけれど、足がまるで縫い付けられたように動かなかった。
(こ、わい)
怖い、恐い、どうしよう。どう、しよう。掠れた息だけが口から零れていく。
名前だけでも呼ぼうと、口を開いたその瞬間。
僕の腕は、臨也さんのその手に捕まえられた。
「………来い」
「っ、」
酷く低い声で告げられて、強い力で引っ張られた。抵抗らしい抵抗も出来ず、されるがままになる。
掴む力は強くて、痛くて、涙で視界が微かに滲んだ。まともに名前も呼べない。
(臨也さん、)(臨也さん、いざやさん)
忘れたかった、忘れたくなかった。
好きだった、本当は、本当に好きだった。
本当は、本当は、ただの我侭だって分かってるけど。叶うはずないって分かってるけど。
この恋を終わらせたくなんて、なかったんだ。
「いざ、や……さっ」
漸く出た声も無視され、ただ只管連れて行かれる。
こわかった、だけどそれ以上に、僕は。
この手を離さないでって、愚かな願い事をしていたんだ。