こらぼでほすと 一撃4
ウィークデーの午後の水族館というのは、とても空いていた。のんびりと、あっちこっ
ちの水槽を眺めていても、静かなものだ。表の展示に、可愛いカワウソの子供が、よちよ
ち歩いているのを飽きることなく見ていた。ちゃんと、親かわうそが、それらを保護して
危ないところに行かないようにしている。
「可愛いね。」
「和む光景だなあ。」
慌てることもないから、かなりの時間、それを見ていた。それから、長いエスカレータ
ーに乗って、大型水槽の見学コースに入る。
目の前には、その水槽が広がって、中では大きなジンベイザメが二匹、悠々と泳いでい
る。それから、マンタと呼ばれるエイだとか、名前の判らない大型魚が泳いでいる。この
大きな水槽の周辺を、ぐるぐると回るように見学すると、その逆側にも、水槽がある。こ
ちらには、単種の動物が展示されている。
「ペンギンだって、動かないね? 」
「そうだな。」
「ラッコは、泳ぐのすごい早い。」
「なんか犬みてぇーだな。」
「スナメリ? なんか、ぷくぷくしてそう。」
「あ、フェルト、ほら、ジンベイザメが、こっちに近寄ってるぞ。」
ふたりして、のんびりと水族館を満喫した。海洋生物というのは、データで見ることは
あっても、実際に目にすることは少ない。よほど、フェルトは海でのシュノーケリングが
楽しかったとみえて、夢中で水槽を眺めている。やれやれ、と、休憩用にソファに座って
、その熱心に魚を眺めているフェルトを観察して、ニールも微笑む。こういう普通のこと
は、やはり地上でないと体験できない。
・・・・・刹那もティエリアもアレハレルヤも珍しがってたもんな。・・・・・
何度か、ここへ来ているが、マイスターたちも、フェルトと似たような反応だ。データ
で知っていても、実際に目にするのは違うからだ。そろそろ、夕刻なのだろう。展示の照
明も、それによって徐々に落とされていく。静かで、ほとんど人のいない薄暗い空間とい
うのは、眠けを誘う。軽く目を閉じて、うとうとしていたら、ぽふっと自分の頭が横に引
っ張られた。お? と、目を開けたら、桃色子猫が笑いつつ、自分の肩に親猫の頭を凭れ
させていた。
「起こした? 」
「ごめん。次行くか? 」
「ううん、ちょっと休憩。なんか静かで気持ち良いよね。」
「たぶん、人間っていうのは、こういう海の風景っていうのが、原風景なんだろうな。海
と胎内は似てるっていうからな。」
目の前には、たくさんの魚が、ゆらゆらと泳いでいる景色がある。流されているBGM
は、海中の水音だ。
「お母さんのおなかの中か・・・・」
「残念ながら、俺の腹の中にはないけどな。おまえさんは、いつか、これを自分の子供に
見せてやったり聞かせてやったりするんだろうな。」
胎内で子供を育てる母親だけが与えられるものだ。そう思うと、世界は、まだ温かいと
思える。
閉館時間ギリギリまで遊んで、隣の商業施設で食事をして戻って来た。カワウソが可愛
いと、桃色子猫が言うので、かわうそのヌイグルミをひとつプレゼントした。そして、ニ
ールは、ジンベイザメのも買った。
「なあ、フェルト、これ、ティエリアに届けてくれるか? 」
それほど大きなものではない。フェルトのカワウソと同じ位の大きさものだ。フェルト
のカートに楽々収まるサイズだから、フェルトも頷く。
「いいよ。」
「誰かの代わりにしろって言っておいてくれ。くくくくくく。」
「アレルヤのこと? 」
「うん、あいつ、吐き出すのは、アレルヤのとこだったからな。とりあえず、代理。」
それを聞いて、フェルトも、ぷっと吹き出した。確かに、ティエリアは、何事かあると
、大抵、アレルヤにつっかかって、ヤツアタリしていたからだ。
「小さすぎない? 」
「とりあえずな。どうせ、あいつも降りてくるだろうから、その時にでも大きいのは用意
するさ。」
「あんな感じ? 」
フェルトが指差した先には、人間くらいの大きなのテディベアが鎮座していた。それを
見て、ニールもぷっと吹き出す。大きさといい、ぬぼーっとしたキャラクターといい、ど
こかの誰かを彷彿とさせるものだ。
「うんうん、ナイスチョイスだ、フェルト。そうそう、ああいう感じだな。」
「あれなら、蹴っても叩いても大丈夫だね。あはははははは・・・・ほんと、似てる。」
今はいないが、そのうち戻ってくるが、合い言葉になっている。だから、居ないことは
嘆かない。逆に、さんざん、悪口言ったり文句を言えばいい、と、ニールが提案してから
、アレルヤについての扱いは、とっても酷い。だが、お陰で、いつも、どこかにアレルヤ
たちは居るんだ、と、ティエリアもフェルトも思えるようになった。
「じゃあ、次はティエリアと来てね? 」
「そうするよ。」
商業施設のほうも閉店時間に近くなってきた。半日たっぷりと遊んで、ふたりしてご機
嫌で帰った。
桃色子猫を風呂に入れて、先に寝かせると、台所の片付けをするつもりだったのだが、
どうも、アスランが来ていたらしく、洗い物はなかった。時刻は、深夜枠に近い時間だ。
亭主と亭主の連れ子が帰って来る。夜食は入用だろうか、とか、考えつつ、寛いでいたら
、ほどなく、二人が帰って来た。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
「寝てりゃあいいのに。」
「夜食は? 悟空」
「今日はいいや。俺、風呂に入ってくる。」
明日も学校だから、悟空は、さっさと寝支度に入る。坊主のほうは、着替えて、とりあ
えず、卓袱台に座る。
「三蔵さんは? 」
「俺もいらん。どうした? 」
付き合いも長くなってくると、ちょっとした表情の変化というか気配で、なんとなく、
女房が気落ちしているのがわかる。
「ちょっと付き合いませんか? 」
「・・・・・ああ。」
すいません、と、苦笑して、女房が冷酒をコップで二杯と塩を運んで来た。それで、と
りあえず寝たいんだな、と、坊主のほうも気付く。酔ってしまえば、前後不覚に眠ってし
まえるので、たまに、女房も寝酒をする。
くいっと煽るのではなく、ちびちびと飲んで、もう一度、「すいません。」 と、女房
は謝って苦笑した。
「厄介なヤツだな? おまえは。」
「はははは・・・・本当に。」
絶対に、子供の前では見せないが、まあ、いろいろと神経に障ることはある。まだ、ア
レルヤたちのことを口にすると、それだけで、ちと眠れない。だが、こちらが、そう振舞
わないと、子猫たちも落ち込むから率先して、口にする。で、眠れないから亭主と寝酒と
いうことになる。それらを判っているから、坊主も何も言わないで付き合うようにしてい
る。
ちびちびと飲んでいると、悟空が風呂から上がって、冷蔵庫に麦茶を取りに来た。ママ
に無茶に付き合わせるなよ、と、悟空は坊主に注意して、そのまま部屋に入ってしまった
。それも、想定内のことだ。女房が、一人で飲んでいたら、悟空は、何ごとだ? と、気
にするから、坊主が誘った体にしているのだ。
ちの水槽を眺めていても、静かなものだ。表の展示に、可愛いカワウソの子供が、よちよ
ち歩いているのを飽きることなく見ていた。ちゃんと、親かわうそが、それらを保護して
危ないところに行かないようにしている。
「可愛いね。」
「和む光景だなあ。」
慌てることもないから、かなりの時間、それを見ていた。それから、長いエスカレータ
ーに乗って、大型水槽の見学コースに入る。
目の前には、その水槽が広がって、中では大きなジンベイザメが二匹、悠々と泳いでい
る。それから、マンタと呼ばれるエイだとか、名前の判らない大型魚が泳いでいる。この
大きな水槽の周辺を、ぐるぐると回るように見学すると、その逆側にも、水槽がある。こ
ちらには、単種の動物が展示されている。
「ペンギンだって、動かないね? 」
「そうだな。」
「ラッコは、泳ぐのすごい早い。」
「なんか犬みてぇーだな。」
「スナメリ? なんか、ぷくぷくしてそう。」
「あ、フェルト、ほら、ジンベイザメが、こっちに近寄ってるぞ。」
ふたりして、のんびりと水族館を満喫した。海洋生物というのは、データで見ることは
あっても、実際に目にすることは少ない。よほど、フェルトは海でのシュノーケリングが
楽しかったとみえて、夢中で水槽を眺めている。やれやれ、と、休憩用にソファに座って
、その熱心に魚を眺めているフェルトを観察して、ニールも微笑む。こういう普通のこと
は、やはり地上でないと体験できない。
・・・・・刹那もティエリアもアレハレルヤも珍しがってたもんな。・・・・・
何度か、ここへ来ているが、マイスターたちも、フェルトと似たような反応だ。データ
で知っていても、実際に目にするのは違うからだ。そろそろ、夕刻なのだろう。展示の照
明も、それによって徐々に落とされていく。静かで、ほとんど人のいない薄暗い空間とい
うのは、眠けを誘う。軽く目を閉じて、うとうとしていたら、ぽふっと自分の頭が横に引
っ張られた。お? と、目を開けたら、桃色子猫が笑いつつ、自分の肩に親猫の頭を凭れ
させていた。
「起こした? 」
「ごめん。次行くか? 」
「ううん、ちょっと休憩。なんか静かで気持ち良いよね。」
「たぶん、人間っていうのは、こういう海の風景っていうのが、原風景なんだろうな。海
と胎内は似てるっていうからな。」
目の前には、たくさんの魚が、ゆらゆらと泳いでいる景色がある。流されているBGM
は、海中の水音だ。
「お母さんのおなかの中か・・・・」
「残念ながら、俺の腹の中にはないけどな。おまえさんは、いつか、これを自分の子供に
見せてやったり聞かせてやったりするんだろうな。」
胎内で子供を育てる母親だけが与えられるものだ。そう思うと、世界は、まだ温かいと
思える。
閉館時間ギリギリまで遊んで、隣の商業施設で食事をして戻って来た。カワウソが可愛
いと、桃色子猫が言うので、かわうそのヌイグルミをひとつプレゼントした。そして、ニ
ールは、ジンベイザメのも買った。
「なあ、フェルト、これ、ティエリアに届けてくれるか? 」
それほど大きなものではない。フェルトのカワウソと同じ位の大きさものだ。フェルト
のカートに楽々収まるサイズだから、フェルトも頷く。
「いいよ。」
「誰かの代わりにしろって言っておいてくれ。くくくくくく。」
「アレルヤのこと? 」
「うん、あいつ、吐き出すのは、アレルヤのとこだったからな。とりあえず、代理。」
それを聞いて、フェルトも、ぷっと吹き出した。確かに、ティエリアは、何事かあると
、大抵、アレルヤにつっかかって、ヤツアタリしていたからだ。
「小さすぎない? 」
「とりあえずな。どうせ、あいつも降りてくるだろうから、その時にでも大きいのは用意
するさ。」
「あんな感じ? 」
フェルトが指差した先には、人間くらいの大きなのテディベアが鎮座していた。それを
見て、ニールもぷっと吹き出す。大きさといい、ぬぼーっとしたキャラクターといい、ど
こかの誰かを彷彿とさせるものだ。
「うんうん、ナイスチョイスだ、フェルト。そうそう、ああいう感じだな。」
「あれなら、蹴っても叩いても大丈夫だね。あはははははは・・・・ほんと、似てる。」
今はいないが、そのうち戻ってくるが、合い言葉になっている。だから、居ないことは
嘆かない。逆に、さんざん、悪口言ったり文句を言えばいい、と、ニールが提案してから
、アレルヤについての扱いは、とっても酷い。だが、お陰で、いつも、どこかにアレルヤ
たちは居るんだ、と、ティエリアもフェルトも思えるようになった。
「じゃあ、次はティエリアと来てね? 」
「そうするよ。」
商業施設のほうも閉店時間に近くなってきた。半日たっぷりと遊んで、ふたりしてご機
嫌で帰った。
桃色子猫を風呂に入れて、先に寝かせると、台所の片付けをするつもりだったのだが、
どうも、アスランが来ていたらしく、洗い物はなかった。時刻は、深夜枠に近い時間だ。
亭主と亭主の連れ子が帰って来る。夜食は入用だろうか、とか、考えつつ、寛いでいたら
、ほどなく、二人が帰って来た。
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
「寝てりゃあいいのに。」
「夜食は? 悟空」
「今日はいいや。俺、風呂に入ってくる。」
明日も学校だから、悟空は、さっさと寝支度に入る。坊主のほうは、着替えて、とりあ
えず、卓袱台に座る。
「三蔵さんは? 」
「俺もいらん。どうした? 」
付き合いも長くなってくると、ちょっとした表情の変化というか気配で、なんとなく、
女房が気落ちしているのがわかる。
「ちょっと付き合いませんか? 」
「・・・・・ああ。」
すいません、と、苦笑して、女房が冷酒をコップで二杯と塩を運んで来た。それで、と
りあえず寝たいんだな、と、坊主のほうも気付く。酔ってしまえば、前後不覚に眠ってし
まえるので、たまに、女房も寝酒をする。
くいっと煽るのではなく、ちびちびと飲んで、もう一度、「すいません。」 と、女房
は謝って苦笑した。
「厄介なヤツだな? おまえは。」
「はははは・・・・本当に。」
絶対に、子供の前では見せないが、まあ、いろいろと神経に障ることはある。まだ、ア
レルヤたちのことを口にすると、それだけで、ちと眠れない。だが、こちらが、そう振舞
わないと、子猫たちも落ち込むから率先して、口にする。で、眠れないから亭主と寝酒と
いうことになる。それらを判っているから、坊主も何も言わないで付き合うようにしてい
る。
ちびちびと飲んでいると、悟空が風呂から上がって、冷蔵庫に麦茶を取りに来た。ママ
に無茶に付き合わせるなよ、と、悟空は坊主に注意して、そのまま部屋に入ってしまった
。それも、想定内のことだ。女房が、一人で飲んでいたら、悟空は、何ごとだ? と、気
にするから、坊主が誘った体にしているのだ。
作品名:こらぼでほすと 一撃4 作家名:篠義