こらぼでほすと 一撃4
「今夜は、俺んとこで寝ろ。」
「イヤですよ。」
「愛想のない女房だな。」
「何を言いだすんだか・・・・うちの亭主は。」
ふたりして、くくくっと笑って、しばらく飲んでいた。
二週間なんて、あっという間だったなあ、と、シンは実家のソファで寝転んで、窓の外
を眺めていた。今日は、休講があって時間が空いたから、実家で昼ご飯を食べた。いつも
なら、お寺で、おやつを食べるのだが、今日は、ちと気分的に行けなかったのだ。
ゴールデンウィークは楽しかった。『吉祥富貴』の仲間と、騒いで目一杯遊びまくった。
今回は、フェルトも一緒で、妹がいたシンは、フェルトが退屈しないように気をつけてい
たが、これが、久しぶりに楽しかった。
楽しかったのだが、その後、休暇明けに、どよんと落ち込んだ。たまに、こうなること
がある。楽しかったり満足したりすると、この後、この楽しさの分のしっぺ返しが来ない
かと不安になる。
あっけらかんとしていると思われがちだが、シンも、どこか、そういうところがあって
、レイが、なるべく落ち込まないように気付いて、いろいろとしてくれるのだが、フェル
トとの記憶が強烈すぎたらしい。
『吉祥富貴』に所属している限りは、フェルトは敵ではない。だが、ザフトへ復帰した
ら、フェルトは、テロリストという枠内の人間になる。下手をすれば、掃討作戦に借り出
されることになるかもしれない。そう考えるだけで落ち込む。現実に、シンは、まだ学生
で、そんなことは有り得ないのに、考えてしまうのだ。
一瞬で全てが変わることを、シンは知っているから、突拍子もない不安を感じたりする
らしい。幸せだった分、不幸せもやってくるんだ、と、そんなことを、ぼんやりと考える
。
「レイが心配してたぞ? 」
食事の片付けをしたトダカが、居間にやってきて呆れたという態度で、シンに声をかけ
る。なんで、そんなに泣きそうな顔をするんだか、と、苦笑する。
「俺、フェルトが可愛いけどさ。・・・・・軍人に戻って、あいつと戦うことになるのは
イヤだなあ、って思うんだ。あいつらの考えは、わかるけど、それで喧嘩ふっかけられた
ら、やっぱ、プラントとしてはさ、戦って排除するしかねぇーもん。」
シンは、今のところ、これといってやりたい仕事はない。レイが、軍に戻るつもりをし
ているから、自分も、それでいいかな、と、考えている。
「シン、命令に則って戦えるのが、一流の軍人だ。CBの掃討作戦に応じられたら、シン
は一流の軍人で、最低の人間だと評価してやる。」
すぱっと、義父は、とんでもない台詞を、さらっと吐いた。ぎょっとして、そちらを見
たら、仁王立ちで義父は笑っている。
「とうさんっっ。」
トダカの言葉に、ひでぇーと起き上がったら、髪の毛をくしゃくしゃで撫でられた。
「そうなる前に、衝突しないように、できるだけのことはするんだ。それでも、どうにも
ならなくても、可能性を諦めない強さがあればいい。・・・・・どうして、私の息子と孫
が戦う羽目になるようなことを想像するんだかね? シン。そうなる前に、私がキラ様た
ちと、どうにかするに決まってるだろ? うちの子たちは、どっかネガティブだ。」
しっかりしなさい、と、トダカは、ぽんとシンの撫でていた頭を叩く。シンが、ザフト
に戻ったから、と、いって、『吉祥富貴』との関係まで断ち切れるわけではない。突然に
、接触して交戦することはあっても、掃討作戦なんてものは、させるわけはないのだ。
「けどさ、現体制なら、そうだけど。」
「頭を挿げ替えても、体制は変えさせない。イザークとディアッカが、ラクス様と、そう
話し合っているから。・・・・CBは、プラントとオーヴも協力者として取り込んだ。そ
して、そのCBを、ラクス様は呑み込むつもりだ。・・・・・最終的に、かつての第三勢
力のように増殖させて、それだけで、大国と同等の力となるようにな。」
地球連合が、平和に纏まらないなら、いずれ、破綻する。それは、そう遠いことではな
い。もう一度、解体されて再編成する段階で、それらも組み込むつもりで、歌姫たちは動
いている。今度は、三大大国の思惑だけで纏めないつもりだ。
「それ、いつ決まったんだよ? とうさん。」
「アローズが、まともじゃないと判明した時に。」
まったく知らされていなかったシンとしては、驚く内容だ。まあ、これについては、シ
ンたちには、報告されていない。まだ、そうなるまで何年もかかるし、シンとレイは、そ
こまで、『吉祥富貴』の意向に左右されなくてもいいだろう、ということだった。
「隠してたわけじゃない。キラ様が、シンが進路を選ぶ妨害になってはいけないから、と
、おっしゃって伝えなかったんだ。」
「え? 」
「おまえが知ったら、手伝わないといけないって思うだろうからね。それで、やりたいこ
とを曲げられたら、キラ様は迷惑だと、おっしゃった。」
シンは、恨みを果たすために、軍人になった。もう、それは晴れたのだから、軍人をや
る必要はない。だから、血なまぐさいことに頭を突っ込ませるのは、どうか、と、キラは
考えている。
・・・・・そうか、あの人は、もう、そこにいなけりゃならないんだもんな・・・・・・
・
キラは、スーパーコーディネーターで、自分のような歪んだ存在を創り出す社会を否定
する。戦いのない平和な世界を作るために、努力すると、宣言した。だから、その戦いか
らは退かない。
「僕は、何度でも花を植えるよ。枯れても萎れても、何度でも。」
平和にするための努力をする。それが、キラの戦いだ。全世界とまではいかなくても、
キラの周辺だけでも戦いがない世界にしようと努力している。それが、『吉祥富貴』の存
在理由でもある。参加しているものは、それを手助けしているわけだが、シンとレイだけ
は、まだ、将来を確定させていなかった。他は、すでに、自分の行く先を決めているもの
ばかりだ。
「普段は、のほほんとしてるくせに。キラさんはさ。そういうとこだけ男前だ。」
「キラ様だって、おまえのことを考えてくださってのことだ。」
「わかってる。」
「だから、フェルトちゃんと戦うことはない。」
「ああ。」
「ついでに、オーヴともない。」
「うん。」
「そういうことだ。・・・・シン、明日の予定は? 」
がしっとシンの頭を掴んで、ぐりぐりと揺らしてトダカは微笑む。シンも、頬を歪めた
。
「休みだよ。」
「じゃあ、明日、エアポートでニールを拉致してきてくれないか? 」
「いいよ。うちに帰って来るの? 」
「どうせ、あの子は落ち込んで、ぐだぐだするんだから、うちでゆっくりさせておこうと
思ってね。おまえとレイも相手してやってくれ。」
ああ、そうでした。と、シンもニールの様子を想像して、ニヤッと笑う。子猫たちが帰
ってしまうと途端に、落ち込むのだ、それはもう見事なくらいに。深く落ち込ませないた
作品名:こらぼでほすと 一撃4 作家名:篠義