こらぼでほすと 一撃4
「でも、愛人はたくさん欲しいんだな。」
「まあ、そりゃ、僕だって男だもん。綺麗な愛人は一杯欲しいよ。でも、皇后はひとりだ
から。」
「くくくく・・・・ホスト歴が長くなると、俺にも口説き台詞か? 」
「口説いてないよ。アスランは、もう僕のものだから、これは当たり前の確認。それより
花束は?」
「トランクの中。家に帰るまでに種明かししたら興ざめだろ?」
毎年、アスランはキラに花束を贈る。それは、アスランがキラのためだけに考えて用意
するものだ。これだけは毎年、欠かさない。キラは、毎年、違うものだが、朴念仁なアス
ランには、キラの喜ぶものなんてわからないから、そう決めている。希望品は事前に教え
てもらうから、それはプレゼントするが、花束だけは、真夜中の12時まで教えない。
12時になったら、一番に、「おめでとう」 と「ありがとう」 と、伝えて、花束を渡
す。いろんな種類で毎年、コンセプトも変えている。ひとつずつ、花の説明をして、コン
セプトを教えて、その花束を渡す。渡した花束は、キラが解いて、ベッドにばら撒く。毎
年、その花の噎せ返る香りの中で身体を合わせる。
今年も無事に一緒にいられるように、けっして離れないように、毎年、初夜みたいだ、
と、アスランは笑う。だが、キラは真剣に願っている。
アスランのいない生活なんて考えられないからだ。そうしたのはアスランだし、アスラ
ンもキラのいない生活なんて考えられない。
『吉祥富貴』の世界を護り通すには、互いに互いが必要だ。力だけではない。合わされる
想いがあればこそ、辛いことも乗り越えられると思うからだ。
「来年か再来年くらいは、花束は貰えないかもね? 」
「残念だが、俺は、どんな最中でも花を取り寄せるぞ。それだけはやめないから。」
渡せる距離にいること。それが大切なことだ。だから、どんな状況になっていても、ア
スランは花を贈るつもりだ。もし、宇宙空間だったら、紙で作った花でもいい。キラに渡
して、「おめでとう。」 と 「ありがとう。」 が言えればいいのだ。
「僕もリボンだけでもいい? 」
「いいよ。中身くれるんだろ?」
「もう、全部あげたじゃない。まだ、どっか残ってる? 」
「毎年、初夜だからさ。毎年、その年の分をもらってるつもりなんだ。」
「バカじゃないの? アスラン。」
「ああ、俺は自他共に認めるキラバカだ。」
そう宣言して、クルマはマンションの駐車場へ入る。だが、トランクは開かない。まだ
、一時間以上ある。
「ほんと、律儀。」
「いいだろ? 」
「とりあえず、お風呂入ってアイスでも食べたい。」
「はいはい、お姫様。」
「ただし、お風呂エッチは禁止。」
「でも洗うけどな。」
「洗うだけだから。それ以上に、いろいろとやらないっっ。」
びしっっと人差し指を突きつけ、降りてきたエレベーターに乗り込む。それなのに、エ
レベーターの扉が閉まった瞬間に、キスを仕掛けていたりする。アスランのほうは、その
悪戯に笑顔で応対だ。降りる階数のボタンを押して、キラのキスに答える。そっと啄ばむ
ようにアスランの唇にキスをするキラも微笑んでいる。触れるだけのキスは柔らかい。お
互いに、その感触を楽しんでいる。
静かな振動でエレベーターは止まり、ゆっくりと扉が開く。この時間に他人がいること
はない。唇を離したが、まだ抱き合ったままだ。開閉ボタンは、アスランが押している。
「煽るな。花束が渡せなくなるだろ? 」
「くくくくく・・・・理性と仲良くお付き合いすれば? 」
「悪魔の誘惑は抗いがたいな。」
「誰が悪魔だ? 悪魔はアスランだろ? 僕の貞操を奪って穢したのは、きみ。」
「だが、俺も穢されたんだが? 」
「楽園追放? 」
「それは、ちょっと違う。楽園に追放だ。」
ふたりして、顔を見合わせて、くすっと笑って、キスをする。それから、エレベーター
は降りた。
マンションの部屋は、空調を効かせてあったので、ひんやりとしいる。明かりをつけて
、ソファへキラはダイブする。かなり顔が火照って、気持ちよい心臓の高鳴りがある。
「真夜中まで、キスしていようか? キラ。」
「その前に、お風呂入りたい。それから、アイス食べたい。それで、きみは、花束を持っ
てきて。」
「承知しました、お姫様。なんなりと、あなたの御心のままに。」
まるで、執事がするように恭しくお辞儀したアスランが、お風呂の準備に消える。もう
、ほんと、律儀なんだから、と、キラは微笑んで、クッションに顔を埋めた。これから、
毎年のイベントが待っている。それだけで、とても嬉しくて、ドキドキする気持ちは治ま
らない。
作品名:こらぼでほすと 一撃4 作家名:篠義