こらぼでほすと 一撃4
それで呼び出すわけにも行かない。
「じゃあ。メイクとかあるから早めに来てくれるようにメールしとくぞ。」
よし確定と、さっさと鷹がメールを打つ。その間にも、衣装合わせの終わったのが、ホ
ールにやって来て、次の衣装合わせがビップルームへ呼び出される。シンとレイが衣装の
まんま、飛び出してきた。着替えていて、トダカのところへ駆けつけられなかった。
「とうさん、どうなった? 八戒さん。」
「まだ、連絡はありませんが、ぎっくり腰には間違いないから、一週間も安静にしていれ
ば大丈夫ですよ、シン。」
シンの衣装は、漢服でゆったりとした上衣とスカートのような下裳という漢民族の袍服
という礼装だ。全体的に水色に紺で雲が描かれている。
「シン、落ち着け。」
そして、レイは真っ白な布に銀の刺繍の漢服だが、こちらは女性仕様だ。今日は、髪は
結っていないが、明日は結い上げて真珠が飾られることになっている。ちなみに八戒の旗
包は、満州族の服装で清時代から現在のチャイナ服へと変貌しているコンスタントなもの
だ。ただし、これも翡翠色に銀の刺繍で、鯉が描かれた豪華なもので、足元にはふわりと
した長いスカートを履き、スリットから覗く足は見えないようにしている。
「まあ、俺たちぐらいになってくると、あれはよくあるんだ。大丈夫だ、シン。」
まだ着替えていないが、虎も漢服だ。ただし、シンの礼装とは違い儒裙と呼ばれる軽い
ものだ。上着が短いので動き易く、活動的な雰囲気になる。
「そういや、腰が悪いって言ってたもんな。」
「俺たちも打ち合わせが終わったら、あっちに行こう。」
「うん。」
今日は、明日の打ち合わせと衣装合わせが終わったら、開放される。だから、とりあえ
ず、仕事を終えてからな、と、レイが宥めて着替えに戻っていった。
「そこじゃねーだろ? 明日は、まあいいさ。問題点は、明後日以降だよな? 」
はあーと息を吐き出した悟浄に、周囲の大人組は、軽く頷いて同意する。通常営業時の
お客様へのカクテルが問題なのだ。お客様によって、微妙に配分の違うものを用意してい
るから、それが作れるのはトダカだけだし、カクテルの種類も作り方も、一番多く知って
いるのもトダカだから、誰も真似ができない。悟浄や鷹あたりは、多少のカクテルは作れ
るが、それでもお客様の好みの微調整は無理だ。そこいらが、できないとなると、お客様
に満足していただけるか、どうか、そういう問題が浮上する。
「明後日は開店休業だろうから、まあいいだろう。それ以降だ、悟浄。」
「一週間か・・・・木金を、どうにか乗り切るしかねぇーな。」
「予約客次第だな。どうなんだ? アスラン。」
「問題になるのは、エザリアさんと議長辺りですかね。どっちも予定が入ってます。」
「エザリアママンには、僕が、ごみんなさいするから。」
イザークの母親のエザリアは、キラと悟空を指名する。だから、ふたりして、「ごみん
なさい。」 と、詫びれば文句は出ない。
「ついでに、議長にもしてくれ。キラ。」
「それは、レイとふたりでやればいいよ。てか、ギルさん、ママに会いたがってたんだよ
ね。どうする? みんな。」
レイが母親代わりをしてもらっていると報告したので、そのニールに議長は興味深々だ
。今回、ようやく挨拶が出来ると、そちらも楽しみにしていたらしい。
「「「「やめろ。」」」」
虎、鷹、悟浄、アスランが同時に、拒絶だ。あの変態には会わせないほうがいい。気に
入られたら拉致しやがる、と、内心で決め付けていたりする。
「キラくん、どうせ、ニールはトダカさんの看護で出てこられませんから。」
「そうだよね。」
そういうことでいいや、と、キラはあっけらかんとして事務室に走った。おやつを取り
に行ったらしい。その証拠に、「おやつぅ~おやつぅ~」 と、歌って移動している。
「衣装合わせが終わったら、打ち合わせをして、今日は早めに終わります。八戒さん、明
日の内装を弄る件は、どうなりました?」
「明日、午前中から夕方までに終わらせてくれるように手配しています。監督には、僕が
来ますから、そちらは夕方までゆっくりしていてくださいね? アスラン。」
今夜から、まあ、イベントのあるアスランたちには、ゆっくりしてもらうつもりで、八
戒が店の改装については引き受けた。
そこへ、怒鳴り声と共に、坊主が飛び込んでくる。
「ごらぁぁぁぁぁぁーーー八戒っっ。てめぇー。」
「よく似合うじゃないですか? 美人は得ですねぇー三蔵。」
坊主の衣装は、清時代の官服だ。破戒僧として有名な坊主が、官僚の服を着るなんてい
うのは、かなり嫌味が入っている。もちろん、選んだのは、八戒だ。
「こんな格好できるかーーっっ。」
「じゃあ、女物でもよければ変えますよ? 」
「正装で来るぞ、それでいいだろ? 」
坊主には坊主の正装がある。で、無駄に徳の高い坊主なんで、頭に冠も乗っけている豪
華バージョンだ。あちらの衣装には違いないが、それは・・・・と、誰もが難色だ。それ
を着られる人間は限られていて、見る人が見ると地位とか所属とか、モロバレする代物だ
からだ。
「我侭なんだから。わかりました、もう少し、地味なのにしてあげます。長包ならよろし
いですか? それともベストがいいですか? 」
「これ以外なら、なんでもいい。」
はいはい、と、八戒は引き受けたが、まあ、そっちのほうが派手な獅子の刺繍なのは、
明日のお楽しみだ。
トダカの魔女の一撃事件は、本宅に居たドクターに、神経ブロックの麻酔薬を打ち込ん
でもらって、しばし安静ということで片がついた。腰が悪いトダカは無理すると慢性化す
るので、しばらくは自宅で安静だ。ちょうど、ニールが里帰りしていたから、そちらはそ
ちらで看護してもらうということになった。これといって手のかかることはないが、シン
とレイも、トダカ家に頻繁に帰るつもりをしている。
「残念だったなーママに僕のお妃さまをやって欲しかったのに。」
帰り道のクルマで、キラは、そう呟いた。本当なら、綺麗どころを、全員、自分のお妃
様設定で侍らせるつもりだったからだ。
「ギルさんでもいいだろ? 」
「すっごく不気味ちゃんだよ? アスラン。それでノリノリだよ? 」
「いいんじゃないか? 俺は別に、それでもいいさ。」
「一人ぐらいユーレイは必要? 」
「いや、俺もかなり笑えるぞ? 明日は化粧もするらしいからさ。」
「アスランは似合うと思うんだよね。ムカつくことに。」
「なんで、そこでムカつくんだ? おまえが言い出したんだろ? 」
アスランは運転しながら、キラの言葉に反論する。キラが、アスランは女装、と、真っ
先に決めたのだ。
「だって、きみは僕のダーリンでしょ? 僕が皇帝なら、きみは皇后じゃない。」
きっぱりはっきりとキラは、そう言って笑っている。まあ、そういう理由なら、女装も
しょうがないと思うアスランは、とんだキラバカだ。
作品名:こらぼでほすと 一撃4 作家名:篠義