【かいねこ】桜の季節に共に笑おう
その後、前のマスターの姿を見ることもなく。
もしかしたら、マスターと少し揉めたのかもしれないけれど、マスターはそんな様子を見せなかったし、それについて、何も言わなかった。
ただ、いろはさんのことを遠回しにからかってくるのには、閉口したけれど。
「マスター、桜!」
いろはさんが指さす先に、薄紅の花が見える。
天気がいいからと、二人でマスターを引っ張りだして、近所の公園に来たのだ。
大きな公園の中には、桜並木もある。沢山の人達が、満開の花の下を、楽しげに歩いている。
「おー、すげーな」
「次のお休みには、もう散り始めますかね」
「いや、散り際もいいもんだぜー」
突然、いろはさんがぴょんぴょん飛び跳ねながら、頭上に手を伸ばした。
「何してんだ、あいつ」
「さあ・・・・・・あ、危ないっ」
転びそうになったいろはさんを、とっさに抱きとめる。
「危ないよ、いろはさん。どうしたの?」
「あ、ごめんなさい。桜の花びらを、取ろうと思って」
そう言って開いた手のひらに、一枚の花びらが乗っていた。
「地面につく前に、花びらをつかめたら、願いが叶うんですよ」
「あ、そうなんだ。それで」
「・・・・・・お前、そういうポエミーな情報を、どっからつかんでくるんだよ」
マスターが呆れたように聞く。
「知らないんですか?そんなんだから、彼女が出来ないんですよ」
「うるせぇ!その程度で彼女が出来たら、苦労せんわ!!」
わーわー騒ぐ二人を余所に、一瞬強く吹いた風が、花びらを舞い散らせた。
つと手を伸ばして掴むと、ひやりとした感触。
開いてみれば、手のひらに花びらが乗っていた。
作品名:【かいねこ】桜の季節に共に笑おう 作家名:シャオ