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家庭教師情報屋折原臨也8

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 場所を私室から職場へと移し、臨也は気付け代わりに自分用に苦めの、静雄用に甘めのコーヒーを淹れていた。
 その間、静雄は初めて見る部屋に視線を巡らせていた。正面を見ればテレビがあり、背後には少し離れた壁沿いに大量の整理されたファイルが納められた棚があり、左手にはパソコンが二台置かれたデスクがありその先のガラス張りの壁はブラインドが閉じられている。夏休みに行った“家庭教師”としての臨也の家ではないことは来たときから分かった。

「そんなに珍しいものでもあった?」
ゆらゆらと湯気経つカップを二つと水を絞ったタオルをトレーに乗せて来た臨也は、それをトレーごとテーブルの上に置いた。

「いや、ここは初めてだなって」
「普通だったら君みたいな子が来る場所じゃあないしね」

ここは情報屋の事務所だよ。臨也はそう言った後カップに口をつけた。

「さて、ドタチンからはどれくらい聞いてる?」
「……情報屋が本職ってこととか、人間愛?をもってるってことか、臨也が倒れるまで何をしてたとか」
「情報屋ってどんなものかはわかるよね」
「あぁ、なんとなくな」

静雄はコーヒーを手に持ったまま答えた。
 臨也はカップをテーブルに置き、椅子の上に片足を上げてそこに腕を乗せて続けた。

「一応言っておこうか。基本的に俺の仕事は人が求めてる情報をその人に売ることだけど、取引の仲介もするよ。中身はまぁ火器に銃器に動物などなど。麻薬は扱ったことは無いし扱う気もない。ナイフは仕事柄恨みをよく買うから護衛のためにね。ときどき脅しに使うこともある。それと人間愛って言い方されるのはあまりいい気分じゃないけど、確かに俺は人間が好きだよ。愛していると言っても過言じゃない。人種も民族も国籍も何もかもを越えてね。俺の予想通りに動く奴もいればそうじゃない奴だっているし、簡単に動く奴もいればてこでも動かない奴もいる。同じ存在は二つとしてない。だから見ていて飽きない。まぁ、なかには外れる奴とか例外がいたりするんだけどさ」

最後の一文を、臨也は静雄の方を見ながら言った。
 静雄はコーヒーを飲みながら、長い臨也の言葉を咀嚼した。

「お前は人間が好きで情報屋をやってるわけだな」
「そうでもないとこんな仕事やってられないよ」

足を下ろして組みながら臨也は言った。

「家庭教師は丁度いい情報源として使ってるんだ。高校生の噂話や世間話は一虚一実で面白いからね。そんな噂でも活用できることもある。あとは学を落とさないためにもかな。馬鹿じゃやっていけないだろうし」
「悪かったな、使えない高校生でよ」
「君が悪いという必要性はどこにもないよ」

そう言われればそうだ。静雄は特に返さずコーヒーを啜った。

「あとは君を襲ったやつらに関していろいろ探ってたことだけど、彼らが俺を知っていたのは前にその組織を追いつめたのが俺だったから。結局そこは一度解散したみたいだけどしぶといみたいで今度は君に目を付けたみたいでさ。おもにその異常なまでの膂力に関して」
「……こんな力の何がいいってんだ」

静雄は思わず手に力を入れてしまった。がちゃんとカップが崩れ、まだ幾分か熱いコーヒーが手を濡らした。こうなることを予想していたのか、臨也は慌てることなくトレーにあるタオルを手に取り、静雄の手に当てた。

「悪い……」
「気にしないで。第一者から見ればそれは確かに要らないかもしれない。でも人体に関する研究をしている人たちにとっては興味がそそられる対象なんだよ。それは経験しただろう。それに君のことだから普通の方法じゃ捕まえられない。だから凶行に及んだってわけ」

幸い制服のズボンには付かなかったが、ジャケットやシャツの袖に幾らか付いてしまった。ある程度はタオルで抜いたが、ちゃんと洗わないとしみが残りそうだった。

「うまいこといけば交渉材料にも使えるだろうね。組織再興のためにもさ」

ついでにかけらをタオルに集めて包み、テーブルに置いた。
 臨也は椅子に戻り、息を吐いた。

「さて、一応一通り答えたつもりだけど」

何か質問とか、他に訊きたいことはある。臨也は問いかけた。

「別に」

小さな声で静雄は答えた。まだ頭の中の処理が間に合っていなかった。自分が交渉材料になるとは思いもしなかった。そんなフィクションじみた話が実際に起こることなんかないだろうと思うが、その考えはきっと自分がそっち側にいないから思うことなのかもしれない。

「君を襲ったやつらに関しては俺が何とかしておくよ。一度潰した組織がまた再興になったら情報屋としての信用が落ちるからさ」

臨也は立ち上がって、デスクに置かれたパソコンを指で叩きながら言った。

「俺も手伝う」

静雄は立ち上がってすぐに返したが、断られた。

「受験生は家で大人しく勉強していないとだめだよ、静雄君」

臨也は再びソファに近づき、ソファの足下にあった鞄を拾い、静雄の背を押して玄関へとすすめた。

「おい、何しやがる」
「そろそろ帰った方がいいと思うよ。夜の新宿は物騒だから」

そう指摘されて時計を見ると、もうすぐ九時になろうとしていた。反論できず、静雄はしばらく押し黙った。

「ちゃんと食って寝ろよ。じゃあな」
「分かってるよ」

まるで親のようなことを言い捨てていく静雄に苦笑しながら、臨也は見送った。