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【DQ6】ぼくがゆめみたゆめをみた

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 ちょうど祭りの始まるところだった。時間軸で言えば精霊の冠をとって来たところらしく、村長が笑顔で背中を叩く。年に一度の祭りに浮き足立つ村のみんなも残らず笑顔だった。踊りの火の為に組まれている木だとか、運ばれてくるいい匂いをさせている料理だとかがまるで同じで、なんだかあの日が戻ってきたような気になってしまう。自分の世界と重なりそうで重ならないのは、自分がここでは外の人間なのだということだ。それでもそこは現実の世界にしてはとても優しかった。
 あんなに突っかかってばかりだったランドも照れからか頭をがしがし掻きながら、ねぎらってくれた。背中を叩いた手は力強く、温かかった。現実世界でいちばんに自分を嫌っていたランドがそうだから、他の村人達にも外の人間への敵意らしきものはまるで見当たらなかった。怖くなってしまうくらいに居心地がいい。
 ―――ターニアの姿は見えなかった。
 妹がいるはずのそこにいたのは、一人の女性だった。穏やかだが落ち着かない気持ちにさせられる笑みを浮かべている。
「もうどうなってもいい?」
 にいっと吊り上げた唇から牙が覗いているように錯覚する。答えられずに黙り込むと、女性はうふふ、と軽やかに笑った。
「わからないかしら」
 黙って首を振る。女性は軽く肩を竦めて笑ってみせた。
 ―――わからないなら、わからないでいいのよ。
 吊り上げたかたちをしたままの唇から、殆ど聞き取れないくらいの声が漏れる。いかにも優しげな声だった。それでも会話を終えてしまうのが何か恐ろしく感じられた。
 言葉をなくした自分に女性は再び微笑む。誰かに似ているような気がした。ひどくきれいなひとのように思えたけれど、反対に咄嗟に目を背けたくなるようなたぐいのものであるようにも思えた。すい、と指が自分の顔に伸ばされる。薄闇の中で指先が白く浮かび上がっていた。
 その指が視界を覆う。真っ暗になった。きつく押さえつけられている感じもしないのに、光が差し込む隙間もないのだろうか。
「近い未来と、遠い未来」
 いたわるような優しい声だ。
「本当はどちらが見たいかと聞くつもりだったのだけれど。そうね、きっとこの方があなたは見たいでしょうね。会えたのに、会えるはずだったのに、会えなくなってしまったのはつらいもの」
 視界を覆う手と、反対の手が頬に添えられるのを感じた。どちらのものともしれない記憶が蘇る。ちいさな頃に誰かからもらった、優しい感触。溜息とも微笑みのものともつかない吐息が洩れる。
「彼の夢は、今はお終いにしましょう。あなたの夢を見ていらっしゃい」





 とばりがひらけたとき、目の前に女性の姿はなかった。
 眩しさに目を細める。どうやら教会正面の飾り窓に光が反射しているらしい。となると、いたはずの家からいつの間にか外に出てしまったことになる。手で影をつくりながら辺りを見渡す。―――機織り小屋だ。それに、牛小屋がくっついている家も近くに見える。
 なら丁度村に入ってきたところに戻されたということだろうか。
 祭りの気配はない。いちばん高いところに昇った太陽が燦然と輝いている。 青々と葉を茂らせた木々が、吹き抜ける風に緩やかに枝を揺らしていた。
 大きく息を吸い込むと、高地の澄んだ空気が肺に満ちた。身体の内側から洗い流されるような清々しさだ。ゼニスの城を訪れてから殆ど一直線にデスタムーアの城を目指していたからか、この夢の世界特有の感覚がずいぶん久し振りに感じる。かりそめのものでも、なんとなく気持ちが落ち着いた。
 ぷに。
「?」
 固いゼリーに似た感触が足に触れた。下を見ると、スライムがそのぷにぷにした身体で、一生懸命自分の足に体当たりしている。
 ―――ルーキー?
 格闘場で託されたあのスライムなのかと、名前を呼びかけてみる。体当たりしていたスライムはぴたりと動きを止めると、なにやら拗ねた表情で自分を見上げた。ルーキーよりもずいぶん勝ち気そうだった。ぴきー、とやや鋭く鳴く。今は魔物マスターの職についているわけではなかったけれど、寂しがっているのだとはなんとなく知れた。
 ごめんねと屈んで手を差し伸べると、そのスライムは飛び跳ねて近くなった頭にぶつかってきた。……怒ってるのかもしれない。もしかしたらどっちもかも。
 スライムは反動を上手く使っていっそう高く飛び上がる。そのまま器用に空中で体勢を整えると、もう一度頭に思い切り体当たりしてからちいさく跳ね、やっと肩に落ち着いた。ゴム鞠みたいな体からは考えられないくらいの身軽さだった。
 すごいなあ、と素直な賞賛の声が洩れる。スライムは得意げに頭のとんがりをぐっと伸ばしてみせた。
 肩にスライムを乗せたまま立ち上がった。頬に顔を摺り寄せてくるのを撫でてやるうち、ふと自分の中に疑問が生まれる。
 ―――スライム?
 村の中に魔物。それも夢の世界にいたぶちスライムでさえない。
 変な感じに心臓が脈打っている。焦りのたぐいではない。祭りの前日のような、なにかもっと別の感情からくるものだ。胸が堪らなく苦しくなる。レイドック城の中に、かたわれの記憶を見つけていたときみたいに。あのときと違うのは物寂しさがないことだ。
 追い立てられているのではない―――そう、自分は急き立っていた。
 胸をどきどきさせたまま道を通り抜ける。自分は此処にいるよと叫びたくなる気持ちを抑えながら、一歩一歩歩いて行く。
 スライムの次に目に入ったのは、並べた杖を丁寧に磨いているのはキラーマシン2だった。青いボディは曇り、関節部もきしきしと音を立てていたが不思議と見窄らしくは感じられない。その隣で虫干ししているらしい巻物をファーラットがじっと見つめている。何をしているのかな、と思ったが、ふわりと飛びかけた一枚をすかさず掴まえていたのを見て納得する。手伝いをしているのだろう。
 道具屋があった近くでは、くさったしたいがひとかかえもある大きな壺を抱えて歩いていた。向かう先には井戸がある。きっと汲むための力や細かい加減ができない仲間達の分を汲みにいくのだろう。
 教会の前できょろきょろとしていると、モンスター達の方もこちらの姿を見つけたらしく、指のあるものは指を差し、ないものは口をあんぐりと開けていた。言葉を話せるものが囁く。
 ―――あいつだ。
 ―――あいつじゃないか。
 彼らは大急ぎで駆け寄ってきた。スライムやファーラットのように勢い良く抱きつくものも、ウィンドマージのように穏やかにそれを見守るものもいた。表情はひとのそれより顕著ではなかったけれど、みんなどこか優しげな雰囲気を纏っていた。
 それが堪らなく懐かしい。
 知らず、ぼろぼろと泣いていた。手で涙を乱暴に拭う。懐かしい、懐かしい。どうしてなんだろう。分からない。何処かで覚えているものが、堪らなく胸を締め付ける。
 これは大勢の誰かと、それから自分の夢だった。穏やかな優しい彼ら。もしかしたら共に生きることができたかもしれない、そうはできなかった、できなくなった彼ら。叶わなくなった夢。
 泣いている自分をファーラットが不思議そうに三つの目で見上げていた。足元のちいさな体を抱き上げる。
 モコモン。