三回の、願い事
終日
帝人君が成仏してから一ヶ月が過ぎた。
あの後、浪江が出勤してきてあまりの俺の情けなさに1週間の有給を申しでて帰って行ったり、新羅とセルティが二人揃って1週間に一度様子を見に来るようになったりといろいろあった。
静ちゃんなんかには自販機等を投げられるどころか、「蚤虫から蚊に進化してやる」と嬉しくもない宣言をされてしまった...。ある意味屈辱。
まぁ、帝人君がいなくなって生きる希望を見いだせなくなった俺に、皆なんだかんだ言っても心配してくれているのだとわかるけど、素直に喜べなかった。
「...はぁ。前はあんなに楽しくて仕方がなかった世界なのに...帝人君がいない世界というだけでもう何も感じない...。やっぱり帝人君の側に行きたいよ...」
いつもココアを飲んでいた帝人君の定位置だったソファーに横になりつつ、ボソッと口から本音が飛び出た。
帝人君がいなくなってから独り言が本当に増えたと思う。
だが、今回はくるはずのない独り言に返事が返された。
「悲しい事言わないでください。僕は臨也さんがいるこの世界が大好きで大切ですよ?」
(帝人君っ?!!)
一度だって忘れたことのない、大切な声をきいて思わず飛び起きた。
「....っ!!み、かど...くん?」
「はい、ただいまです」
目の前には一か月ぶりに見る、帝人君の優しい笑みがあった。
「帝人君っ!!!!!」
「うわぁ!い、臨也さん?!!」
思いっきり抱きしめる。その身体は幽霊にしては妙に温かく、生前と変わりなかった。
(幽霊でもいい!側に...側にいてくれ...!)
「帝人君、好き...愛してるんだ。幽霊でもいい...側にいてくれ。帝人君なら人外だって愛せる。いや、帝人君以外愛せないよっ!!」
「く、苦しいです!!もっと力抜いてください。それに僕、もう幽霊じゃないですよー!」
(幽霊じゃ...ない?)
「幽霊じゃないってどういう事?」
「詳しく話しますからまたココアいれてください」
* * *
二人で前の様に向かい合って、お互いココアとコーヒーを一口含む。
飲み物を用意している間に、帝人君が消えることなく目の前にいる事実をようやく認めた俺は、冷静さを取り戻す事ができた。
「それでどういうことなの?」
「あ、はい。実はあの後神様の元に戻ったんですけど、臨也さんが最後の願いである”忘れてほしい”っていうのを叶えてくれなかったじゃないですか。そのせいで、願い事が一つ余っちゃったから、神様が変わりに違う願いを一つ叶えてくれることになったんです。で、僕と臨也さんが望む事が同じだったので、僕を生き返らせて二人一緒にいられるようにしてくれたんです。」
「...それ、本当...?」
「はい、またよろしくお願いしますね」
「もちろんだよ!!!」
にっこりほほ笑んだ帝人君を思いっきり抱きしめた。
俺は今まで信じていなかった”神”とやらに、本気で感謝した。もう、放してなんてやれない。帝人君がいない世界を知ってしまったから、もう大切すぎて放してなんかあげれない。
「.....ん?」
そんな幸せをかみしめている最中、俺は不意に帝人君に違和感を感じた。
「あれ?帝人君さぁ。前より身長縮んだ?それに前より柔らかいような...?」
「...はっ!そうでした!!そういえば僕女の子になっちゃったんです!!」
「はぁ?!!!」
いきなりのカミングアウトに思わず変な声があがってしまった。
(生き返ったうえに...性転換?!なんなんだ!この非日常は?!!)
でも、よく見ると見た目は帝人君と大差ないが、胸のふくらみがその存在を主張していた。
「生き返らせるついでに、同性愛じゃ大変ろうって神様が...。臨也さんは男の方がよかったですか...?」
心配そうに見つめてくる帝人君に、ただでさえ惚れてしかたないのに、クラクラやられそうだった。
「っ...。そんな事あるわけないでしょ!帝人君は男でも女でも関係ないほど愛してるんだからね!でも、女性になったんなら正式に俺と家族になれるね」
正直帝人君ならば、性別などどちらでも構わないけれども、結婚ができるという点に関しては女性化万々歳だった。
「あ...嬉しいです。これから二人で生きていきましょうね!」
「もちろんだよ、帝人君」
どちらもかけることなく、二人で生きていくこの世界。
二人の新たな人生に祝福を________________。