ぐらにる 流れ5
ごそごそと、胸のポケットを探って、彼は自分のアドレスと軍の所属が書かれた名刺を取り出し、それに、個人の住所とアドレスを書き足した。それを、俺の胸ポケットに放り込んで、それからキスを仕掛けてきた。
・・・・情に絆されてる場合じゃないんだけどな・・・・・・
渡された名刺を活用するかどうかはわからない。いつか、時間ができたら、休暇の時に顔を出すかもしれない。そんなことを考えていたら、パンツの後ろポケットに手を差し込まれた。
「おいっっ。」
「違う、ニール。鍵だ。それで、私の部屋に自由に出入りできる。時間の都合がついたら、来てくれ。」
今度は、発信機はついていないよ、と、クスクスと笑って、外からポケットを叩いた。用意周到な・・・・と、呟いたら、「それがマスターだ。」 と、返事された。
「これを渡しちまったら、あんたはどうするんだよ? 」
「オフィスに合鍵を置いている。」
「いつになるかわかんねぇーのに。」
「だが、きみは、来るつもりなんだろ? それなら待っていられる。」
「・・・・わかった・・・・・」
濃厚なキスの後で撃鉄で、彼の後頭部を殴りつけた。さすがに、ここに置き去りはまずいので、駐車場まで運んで、彼が乗ってきたと思しきクルマに投げ込んだ。
・・・たぶん、正当な商売じゃないことは気付いてるんだよな? グラハム・・・・・・
それでも、彼は、それについて言及しなかった。万が一も考えて、所有しているものも調べたが、写真一枚も取っていなかった事がわかって、ほっとした。自分の携帯端末も、そこで、分解した。中に入っていた小さな部品を外して、それを彼のスーツの上着のポケットに放り込んだ。鍵は、本当に鍵だけだった。傘も、後部座席に投げ込んだ。どうせ、明日から、観光がてらに、あの部屋からは出てしまう。部屋の解約と荷物の移動をエージェント経由でやってもらうことだけ連絡すれば、すぐに、あの部屋も空き部屋になる。
そこから、どうするのかは、俺次第だ。いつか、また、息抜きがしたくなったら、出向くかもしれない。それよりも前に、戦場で戦うかもしれない。
・・・・時間があればな・・・・・・
こればかりは、どうなるかなんてわからない。ただ鍵だけはなくさないように、財布の中に放り込んだ。これは、息抜きのためのアイテム。いつか、そういう気分になったら、いや、この厄介な男の顔が見たくなったら、それで、息抜きの扉を開けばいい。