My favorite place
目の前にある胸元のシャツをキュッと掴む。
そうすると、ポンポンと頭に感じる優しい感触。
これがオレらの合図
My favorite place
「…で?」
「一昨日のジャングルジムで最下位だった。」
「あーあん時の栄口動き鈍かったよな。」
ポンポン
「この間の数学の小テスト35点だった。」
「あれは俺10点だった!」
(それはもう少し焦った方が…)
「…この間の練習試合で田島が打率10割だった。」
「あれはキモチかったなぁ!てか、それって嫌なこと?」
「嫌じゃないけど、また田島においてかれちゃったみたいで悔しい。」
そういうと、また慰めるように頭を撫でる。
「栄口だって、バントの失敗なかったじゃん。」
「うん、田島がすごかったから、オレも負けらんないって思って頑張った。」
「…そっか。」
ポンポン
「あとは?」
「あとは…水谷が1組の村田さんに告られた。」
「あれ?栄口、村田のこと好きだったけ?」
オレはフルフルと首を横に振って答える。
「オレ全然告られたことないのに、水谷ばっかずるい!」
そういうと田島はゲラゲラと笑い始めたから、目の前の腹目掛けて
1発お見舞いした。
「ってーよ!殴んなよ!」
って言いながら、まだ笑っている。
ちょっと不機嫌にすると、またポンポンと頭を叩かれる。
「あー笑った!次は?」
「…次は、もうない。」
「ゲンミツに?」
「ゲンミツに。」
オレは顔をあげて田島を見る。
そうするとフッと優しく笑って、最後にポンッと頭を叩いた。
「おし、じゃあ反省会終わり!なんか食いに行こうぜ!」
「うん!」
オレと田島は立ち上がって部室を出た。
***
いつからだろう。
オレの反省会に田島が付き合ってくれるようになったのは…。
オレは気持ちにムラがあって、時々暗い気持ちが抑えらなくて溢れ出しそうになることがある。それが怖くて、少しでも減らしたくて…そんな時には1人で自分の気持ちと葛藤していた。
ある日の練習試合後、みんながいなくなったのを確認して、部室棟の裏で1人座って考えていた。
今日は休みの日だから人も少ないし、ここなら誰も来ない。
うずくまって、悶々と自分の気持ちに向き合っていた。
「何してんの?」
いきなり声を掛けらたので、びっくりして顔をあげると、そこには真剣な表情をした田島が立っていた。
「あっ田島かぁ。ちょっとオレ腹壊しちゃって休んでたんだよ。
情けないよなぁ。でももう大丈夫だか――」
自然に笑って田島を見ると、田島の目が一層鋭くなったので、言葉を呑み込んでしまった。
「栄口」
田島はオレの前に座ると、じっとオレを見つめて言った。
「何してたの?」
田島の真っ直ぐな瞳が、何もかも見透かされているような、そんな気分になる。
オレは渋々口を開いた。
「…1人反省会。」
ボソッと呟くと、田島は眉をひそめた。
「それって何すんの?」
「嫌なこととか、ダメなこととか、自分の中に溜まったことを消化する時間。」
「ふーん。それって1人じゃないとダメなの?」
オレはコクンと頷いた。
「何で?」
聞かれて言葉が詰まる。
だって、こんなの聞きたい奴もいなけりゃ、聞かれるのだって勇気がいる…
当たり前のことだろ。
表情に表れていたのか、田島は「そーゆうもんかぁ」と呟いて暫く考え込むと、急に閃いたように言った。
「栄口!さっきの続けて!!」
「えっ!?」
「ほら、こう下向いてさ、そしたら俺なんか見えないだろ?」
田島に見つかった時点で、もうオレの中では終了していたのだが、
あまりの気迫に押されてしまい、オレは先ほどのようにうずくまった。
すると、ふわっと暖かいものに包まれる。
(えっ?)
頭をあげようとすると田島がそれを制する。
「いいから、俺のことは気にしないでいいから。」
そういってポンポンと頭を叩かれるのが妙に心地よい。
「栄口が言ったこと忘れるし、誰にも言わない。だから俺もここに居ていい?
栄口の邪魔は一切しないから。」
その時の田島の行動は意味がわからなかったが、面白がっている様子もない。
オレは良く解らないまま、言われたとおり反省会を始めた。
しばらく田島は一言も話さずに、ただオレを包んで頭を撫で続けていた。
オレは1人でブツブツと言ってるのも虚しくなってきて、
「田島はどう思う?」
と問うと、
「えっ俺しゃべっていいの?」
と、きょとんとしながら答えた。
その日「ありがとう」って言って、そのまま帰った。
オレは田島が参加するのはこれが最初で最後のつもりだったのだが、それ以降、田島はオレの反省会を目ざとく見つけては参加するようになった。
オレはオレで、田島がいてくれた方が気持ちがすっきりするし、反省会の時に流れる2人の時間が好きだったから、田島が現れるのを当たり前のように受け止めるようになっていた。
そうしたら、いつの間にか反省会は週1ペースで開催されるようになった。
オレは田島のおかげで、前より深く悩まなくなったのだが、この時間を失いたくなくて、
下らない愚痴をこぼす時間となった。
そうすると、ポンポンと頭に感じる優しい感触。
これがオレらの合図
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「…で?」
「一昨日のジャングルジムで最下位だった。」
「あーあん時の栄口動き鈍かったよな。」
ポンポン
「この間の数学の小テスト35点だった。」
「あれは俺10点だった!」
(それはもう少し焦った方が…)
「…この間の練習試合で田島が打率10割だった。」
「あれはキモチかったなぁ!てか、それって嫌なこと?」
「嫌じゃないけど、また田島においてかれちゃったみたいで悔しい。」
そういうと、また慰めるように頭を撫でる。
「栄口だって、バントの失敗なかったじゃん。」
「うん、田島がすごかったから、オレも負けらんないって思って頑張った。」
「…そっか。」
ポンポン
「あとは?」
「あとは…水谷が1組の村田さんに告られた。」
「あれ?栄口、村田のこと好きだったけ?」
オレはフルフルと首を横に振って答える。
「オレ全然告られたことないのに、水谷ばっかずるい!」
そういうと田島はゲラゲラと笑い始めたから、目の前の腹目掛けて
1発お見舞いした。
「ってーよ!殴んなよ!」
って言いながら、まだ笑っている。
ちょっと不機嫌にすると、またポンポンと頭を叩かれる。
「あー笑った!次は?」
「…次は、もうない。」
「ゲンミツに?」
「ゲンミツに。」
オレは顔をあげて田島を見る。
そうするとフッと優しく笑って、最後にポンッと頭を叩いた。
「おし、じゃあ反省会終わり!なんか食いに行こうぜ!」
「うん!」
オレと田島は立ち上がって部室を出た。
***
いつからだろう。
オレの反省会に田島が付き合ってくれるようになったのは…。
オレは気持ちにムラがあって、時々暗い気持ちが抑えらなくて溢れ出しそうになることがある。それが怖くて、少しでも減らしたくて…そんな時には1人で自分の気持ちと葛藤していた。
ある日の練習試合後、みんながいなくなったのを確認して、部室棟の裏で1人座って考えていた。
今日は休みの日だから人も少ないし、ここなら誰も来ない。
うずくまって、悶々と自分の気持ちに向き合っていた。
「何してんの?」
いきなり声を掛けらたので、びっくりして顔をあげると、そこには真剣な表情をした田島が立っていた。
「あっ田島かぁ。ちょっとオレ腹壊しちゃって休んでたんだよ。
情けないよなぁ。でももう大丈夫だか――」
自然に笑って田島を見ると、田島の目が一層鋭くなったので、言葉を呑み込んでしまった。
「栄口」
田島はオレの前に座ると、じっとオレを見つめて言った。
「何してたの?」
田島の真っ直ぐな瞳が、何もかも見透かされているような、そんな気分になる。
オレは渋々口を開いた。
「…1人反省会。」
ボソッと呟くと、田島は眉をひそめた。
「それって何すんの?」
「嫌なこととか、ダメなこととか、自分の中に溜まったことを消化する時間。」
「ふーん。それって1人じゃないとダメなの?」
オレはコクンと頷いた。
「何で?」
聞かれて言葉が詰まる。
だって、こんなの聞きたい奴もいなけりゃ、聞かれるのだって勇気がいる…
当たり前のことだろ。
表情に表れていたのか、田島は「そーゆうもんかぁ」と呟いて暫く考え込むと、急に閃いたように言った。
「栄口!さっきの続けて!!」
「えっ!?」
「ほら、こう下向いてさ、そしたら俺なんか見えないだろ?」
田島に見つかった時点で、もうオレの中では終了していたのだが、
あまりの気迫に押されてしまい、オレは先ほどのようにうずくまった。
すると、ふわっと暖かいものに包まれる。
(えっ?)
頭をあげようとすると田島がそれを制する。
「いいから、俺のことは気にしないでいいから。」
そういってポンポンと頭を叩かれるのが妙に心地よい。
「栄口が言ったこと忘れるし、誰にも言わない。だから俺もここに居ていい?
栄口の邪魔は一切しないから。」
その時の田島の行動は意味がわからなかったが、面白がっている様子もない。
オレは良く解らないまま、言われたとおり反省会を始めた。
しばらく田島は一言も話さずに、ただオレを包んで頭を撫で続けていた。
オレは1人でブツブツと言ってるのも虚しくなってきて、
「田島はどう思う?」
と問うと、
「えっ俺しゃべっていいの?」
と、きょとんとしながら答えた。
その日「ありがとう」って言って、そのまま帰った。
オレは田島が参加するのはこれが最初で最後のつもりだったのだが、それ以降、田島はオレの反省会を目ざとく見つけては参加するようになった。
オレはオレで、田島がいてくれた方が気持ちがすっきりするし、反省会の時に流れる2人の時間が好きだったから、田島が現れるのを当たり前のように受け止めるようになっていた。
そうしたら、いつの間にか反省会は週1ペースで開催されるようになった。
オレは田島のおかげで、前より深く悩まなくなったのだが、この時間を失いたくなくて、
下らない愚痴をこぼす時間となった。
作品名:My favorite place 作家名:野沢 菜葉