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School Days 6月 side狩沢

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   School Days
Side Karisawa Erika

 六月

「はぁー・・・・・・なんか、めちゃくちゃな展開っすね。まさに高校デビュー!」
「そうでしょー? 私、そんな狙われる性質じゃなかったと思うんだけどさー」
「俺の学校でも有名っすよ?“来神の平和島静雄”。仲良いんすよね?」
「でも、静雄先輩も新羅先輩も良い人なんだよ、本当は」
「静雄さん狙おうとして、無駄な知識仕入れた人間が狩沢さん狙い始めたんじゃないですかね? それにしては、少し情報のまわりが早い気がしますけど」
「いやぁ、さっきのは偶然だと思うけどね。それにしても・・・・・かぁーっ! そんなポジションごめんだよぉ! 私は、隅でひっそりとBL妄想が出来ればそれだけで満足なんだからさ」
「狩沢さんはそんなタイプっすよね。生き残っていけるタイプっす」

 来神高校、放課後。まだ赤になりきらない青がまだ空に残っている時間帯。狩沢はオタク友達である遊馬崎と池袋、乙女ロード沿いを歩いていた。アニメイトやまんだらけが立ち並ぶ乙女ロードは乙女だけでなく、オタクな男子のためにも存在する道だと横に居る彼は言い放つ。
 お互いに違う学校の制服に身を包み、乙女ロードを闊歩する。手には青い袋や黒い袋が提げられている。


 二人が出会い、行動し始める数十分前。狩沢は遊馬崎との待ち合わせ場所に向かっていた。
―――――ちょ、このままだとゆまっちとの待ち合わせ・・・・・・遅れる!
小走りで校門を後にする狩沢。後ろで器用にまとめた茶色がかった黒髪が進むたびに揺れている。だんだんと気温も上がってくる六月なので、首元にはうっすらと汗が浮かんでいた。
―――――あと、この二つ先の角を右に曲がれば・・・・・・
 しかし、狩沢の思いは届かず、曲がる予定だった角の一つ前の角の手前で異変は起こる。

「・・・・・・あのー、通れないんですけど」
「通れなくしてるんだけどなぁ、お嬢さん」

 急に人影が足元に現れたので、避けて別の方に体を向けた。しかし、体を向けた先にも人影があり、走っていて息が乱れていた狩沢は下に向けていた頭を上へと持ち上げて道を確認しようとすると、自分の周りが五、六人の男で完全に埋められてしまっていることに気付く。とりあえず、通りたいのに通れない旨を伝えてみたものの、やはり失敗に終わってしまった。

「君、来神の子?」
「そうですけど」
「来神の子じゃ珍しいよねー! セーラー服」
「まぁ、気に入ってるんで」
「俺たちも気に入ってるんだよね、セーラー服ってやつ」
「この先の乙女ロードにオススメの店ありますよー、セーラー服売ってる店」

 男はなおも狩沢に向けていやらしい目線を送りながら喋り続ける。狩沢はそれに気付きながらも気付かない振りをして、男たちと会話を続けていた。
 周りを歩く人間はこの異様さに気付きながらも、狩沢と同じく気付かない振りをしていた。
 この街では助けようとする人間なんて居ない、誰かが言ったような気がした。

「俺たちは、セーラー服単品だけが好きって訳じゃないんだよねー」
「そうそう。セーラーだけじゃ物足りねぇんだよ」
「重要な“オマケ”。コレが肝心でさぁー・・・・・・」

 一人の男が狩沢に一歩近づく。狩沢は反射的に体をビクッと動かしてしまい、その反応を見た男はいやらしい笑みを浮かべてセーラー服で見え隠れする白い細腕を掴む。
 狩沢は腕に力を込めて掴まれた腕を振り払おうとするが、やはり男と女の力の差は歴然としており外れそうな素振りは見えない。
 そんな狩沢の気丈な性格に、自分にとって面白い玩具を発見したような煌々とした笑みを浮かべた男はもう一方の手で狩沢の腕を掴む。そして、そのまま自分の腕を持ち上げた。
 男が腕を上げたせいで、狩沢の腕も当然持ち上がる。
 男は狩沢が先程からずっとこうくるだろうかと予想をつけていたベタなセリフの一つを言い放った。

「これから一緒に楽しいことしないかなぁ?」


 後に狩沢はこの時のことを今は知らない先輩にこう話したという。
{別に、あんまり怖くなかったよ。これが男同士でBLならホント最高だったんだけどねー。萌えるじゃん。でも、これじゃNLでしょ? 私、一応大丈夫だけど、やっぱり個人的にBLが好みなの。ん? 腕掴まれて逃げられない状況にあったって? 大丈夫! 何がって? いや、なんとなく大丈夫な気がしてただけ。だって、私には―――――がいるでしょ?}


 男たちは狩沢の腕を掴んだ男を先頭にすぐ横の路地裏に入っていこうとする。狩沢は、腕を振りほどいて遊馬崎の待つ場所へ行きたかったが、どうしても男が腕を放してくれない。
 一人、黙々と困っていた。

―――――どうしよう。ゆまっちとの約束、完全アウトだよ。時間。

 狩沢が男に連れられ、一歩路地裏に踏み込んだと同時に後ろで人を殴る音、人が殴られる音、そして数秒後に人が倒れる音が聞こえた。
 男たちが一斉に殴られた仲間の方を振り向く。狩沢は少し遅れて倒れた男の方を見た。
 殴られ倒れた男の横に、学ラン姿の男が一人だるそうな顔をして立っていた。
 狩沢はその男をどこかで見たことあるような気がしていたが、思い出せずきっと気のせいだろうと思考を働かすのを止めた。実はそれは、気のせいでなかったことが分かるのはだいぶ後のことになるのだが。

「てめぇ! みっちんに何してくれてんだ!」

 一人の男が仲間を殴られて怒りで、学ランの男に食って掛かる。

「おめぇらこそ何やってんだ。その子、嫌そうにしてるように見えるんだがな」
「めちゃくちゃ嫌です。っていうか困ってます」

 狩沢は男の声にすかさず返事をした。
 学ランの男子生徒は少し目を丸くしたが、また同じように男たちに向かって話し出す。

「ほら、嫌だって言ってんだろ。腕、離してやれよ」
「黙れガキが!」

 腕を掴んでいる男とは別の男が男子生徒に殴りかかる。彼はその攻撃をさっと避けると反撃に拳を殴りかかってきた男の腹へと打ち込む。殴られた男は小さく呻き声をあげてその場に倒れた。
 残った男たちは呆然とその場に立ちすくし、腕は攻撃をする様に構えながらも次にどう出るか迷っていた。
 来神高校生徒だろう学生は口を開く。

「お前らブクロのやつか?」
「っ・・・・・・あぁ、それがどうした!?」
「平和島静雄って知ってるだろ?」
「あ、あの、池袋最強って言われてる・・・・・・!」
「自動喧嘩販売機・・・・・・」
「この前なんか、十人以上の男に絡まれて全員吹き飛ばしたらしいぞ・・・・・・」

 男たちは口々に平和島静雄の噂を口にする。

―――――この人、静雄先輩の知り合い・・・・・・?

 狩沢は疑問を浮かべながらもじっと黙っていた。そして、周りに時計がないか目線だけで探す。あぁ、ゆまっちを現時点で何分待たせたことになっているのだと、その場にはそぐわない心配をしながら。

 男たちの言葉に軽く笑みを浮かべながら返事をする。
作品名:School Days 6月 side狩沢 作家名:大奈 朱鳥