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鉄の棺 石の骸11

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1.

 明かり一つない都市の上空に、らせん状の巨大な城が浮かんでいる。最後のモーメント、「アーククレイドル」だ。別名を神の居城ともいうそれは、自らの巨体をもって街を丸ごと押し潰そうと、刻一刻と迫りくる。
 落ちゆくアーククレイドルの周辺を、白いアンモナイトと紅い鳥がぐるぐると宙に舞っているのが見える。彼らは、アーククレイドルの遺跡やシティのビル街の合間を縫うようにして飛び回る。時に地上に突き落とされ、時にビルの壁面に叩き付けられながらも、二人は決闘を止めようとはしない。
 彼らの傍には、巨大なモンスターの一団が控えている。片方には鎧のような奇妙な天使、もう片方にはドラゴンの群れ。モンスターは数を増減させつつ、様々な攻撃を上空で繰り広げている。炎や風が轟々と渦巻き、モーメントの光で幻想的に見える城を、一瞬だけくっきりと照らし出す。地上の人間は、神にも等しいような彼らの戦いを、ただ見守り、応援するだけだ。
 アーククレイドル事件。未来人を名乗る集団が、アーククレイドルをネオドミノシティに衝突させ、シティを消滅させようとした事件だ。当時のネオドミノシティは、永久機関「モーメント」開発の聖地でもあった。未来人の目的は、そのモーメントの抹殺だったのだ。
 彼らの未来では、モーメントと人の心が引き金になって世界が滅亡したのだという。モーメントは、人の心を読み取る特性がある。モーメントが人の負の感情――例えば、欲望など――を読み取ってしまった結果、その後の滅亡へと続く道筋を造ってしまったのだと、未来人Z-oneは語った。これ以上のモーメントの進化を阻止する為に、未来人は地球上からシティもろともモーメントを葬り去ろうとしたのだ。
 他にも未来人が関わったとされる事件は後世にも伝えられている。だが、まず真っ先に挙げられるのがこの事件だ。それほどまでに、この事件が当時の人々に与えた衝撃は凄まじかったという訳なのだろう。
 Z-oneに対抗したのが、伝説の決闘者、不動遊星だった。彼らはカードゲーム「デュエルモンスターズ」を用い、それぞれに未来を賭けて戦った。二人の決闘は、記録で残されている以上に熾烈なものだったのだと歴史書に記されている。この決闘に不動遊星が勝利して、シティは消滅の危機から救われた。Z-oneの方も、彼の警告が全世界に広められた結果、後世のモーメント研究に新たな指針をもたらすこととなった。彼ら二人の存在があってこそ、今この世界はこうして生き延びている。
 彼らの決闘は、決闘史のみならず人類の歴史上にも深く刻まれた。どの学校でも必ず、歴史の授業でアーククレイドル事件について習うくらいに。また、当時の決闘がテレビで繰り返し放映されるくらいには。


 夜空を舞う紅い鳥を、彼はテーブルに頬杖をつき、心躍らせてじいっと見入っている。番組が始まってから、ずっとこの調子だ。傍にいる両親の呆れ顔も、今の彼は視界にも入れていない。
「もう何回も見ただろう……?」、と父親がぼやくのも、どこ吹く風だ。彼はこの決闘に飽きる気はさらさらない。彼が初めて不動遊星をテレビで見かけてからずっと、毎年この時期になると繰り返される光景である。もう風物詩と言ってもいいかもしれない。
 初めて目にした時からずっと、遊星は彼の尊敬する人だった。この伝説の決闘者が決闘史に残した功績は大きい。フォーチュン・カップでは当時のキングを打倒し、サテライト初のデュエルキングとなった。第一回WRGPでは、親しい仲間たちと組んで「チーム・5Ds」として出場し、数々の強豪チームを下してWRGP史上初の優勝を果たした。それだけではない、遊星は決闘で世界をも何度か救っているのだ。アーククレイドル事件もそうであるし、その前に起こったダークシグナー事件でも、遊星は仲間と共に戦って解決してきた。遊星自身は、英雄や救世主と呼ばれることをあまり好まなかったが、それでも彼にとって遊星は憧れそのものだった。叶うならば、遊星のような人になりたいと、彼はずっと思っていた。

 彼が大人になるよりも先に、不動遊星は老いてこの世を去った。突然の悲報に、世界中の決闘者が驚愕し、その死を悼んだ。彼の方はと言えば言葉に表せないほどの悲しみようだった。もしも両親が宥めすかしに失敗していれば、彼の両目は泣き過ぎて溶けてしまっていたかもしれない。それほどまでに彼は数日間ひたすらに嘆き続けていた。
 その時もあの決闘の記録映像がテレビで流れていた。涙でぼやけていた彼の視界には、赤と白の点にしか見えなかったけれど。

 テレビで繰り返し放映されずとも、彼の脳裏には事あるごとに、夜空を駆ける紅い鳥の姿が克明に浮かび上がる。
 困難な状況に出くわした時。人生の岐路に立たされた時。彼は未来を賭けた伝説の決闘を思い出す。
 遊星は、決闘者としてシンクロ召喚の進化のあり方を示し、クリアマインドという新たな境地を後世に伝えた。科学者としては、モーメントの新システム「フォーチュン」を開発し、都市機能を正しい方向へと導いた。遊星の無限の可能性は、死後何年経とうとも、今の世の中に深く息づいている。
 さて、自分はこの先一体何がしたいのか、と彼は一生懸命考えた。
 例えば、プロ決闘者。それは彼の時代でも花形の職業だ。プロを育成する為のカード専門学校は、世界中に何校も存在している。開校当時は一種の驚嘆をもって迎えられたそれは、今では歴史ある名門校として存続している。カードデザイナーや、D-ホイール技師などの方面を志望する者もいるが、ほとんどの学生は決闘者の道に進む。
 自分の道は、一体どこにあるのだろうか、と彼は悩んだ。
 考えは、どこまでもくるくると旋回し続ける。あの時のZ-oneと遊星のように。途中までまとまりかけては霧散し、時にスタート地点に逆戻りしながら、それでも彼なりに結論を出そうとする。 
 やがて頭の中の決闘にも決着がつき、彼の意思は一点に定まった。……自分のやりたいこと、それは。

作品名:鉄の棺 石の骸11 作家名:うるら