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鉄の棺 石の骸11

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 2.

 そうして彼は、今ここにいる。
 進路が一つに定まってから、ずっと目指してきたモーメント研究の道。その第一歩を、彼は踏み出したばかりだった。念願叶って、モーメント研究所に就職したのである。
 朝焼けに照らされたビル街を、彼は一人てくてくと歩く。すっかり若葉色に染まった街路樹が、風に揺られてしゃらりしゃらりと葉を揺らす。この先をもう少し歩いて行けば、すぐに彼の職場に到着するだろう。 
――モーメントについて学んでいく中で、彼は不動遊星がモーメント研究に遺した功績について一層深く触れることになった。

『人々の心が正しい方向に向かい、モーメントと共に繁栄できる未来を作る』

 これは、モーメントについて学ぶ者が、まず最初に教えられる基本理念の一つだ。この理念は、あの決闘の最中に遊星がZ-oneに向かって語りかけた言葉から採られている。あの日、決闘と言葉で熱く語られた遊星の真摯な思いは、Z-oneだけでなく、シティ住民、果ては地球上の人々の心に届いた。
 モーメントはエネルギー機関であると同時に、人の心を読み取る機械でもある。かつての未来で、モーメントは人の負の心を読み取り、世界中のネットワークが暴走した。最後にはモーメントがマイナス回転を起こし、地球上から人類を文明ごと一掃してしまった。同じ過ちを、この世界で繰り返すなんてことは、絶対に避けなければならない。
 彼の時代においても、モーメントの研究や開発は一筋縄では行かないものだ。モーメントの機嫌次第では、研究所のメンバーがみんなして長期間カンヅメになったりもする。モーメントが、未来の警告を前提に研究され始めたのを皮切りに、「フォーチュン」などの様々な対策法が編み出された。その対策法をより完璧なものへと進化させるのも、モーメント研究者の使命の一つなのだ。その使命は、今手にしている鞄よりも遥かに重い。
 時には、自らの生活を犠牲にしかねないほどの激務ではあった。人への生半可な憧れだけが動機では、恐らく長くは続かない。それでも彼の研究生活は、彼にとっては大変充実したものだった。彼自身が信じているものがそこにあったから。

――あの人を生んだこの世界が好きだ。
――あの人が守り抜いてくれたこの世界が大好きだ。
――あの人がいてくれたからこそ、希望をもって言えるのだ。私はこの世界を守りたい、と。

 遊星のように恰好よくはないけれど、自分なりに何かを守ることはできるはず。彼は強く信じていた。それは昔も今も変わらない、彼の信念だ。
「……しかし、何か少し物足りないような……」
 彼の果たす使命は確かにここにある。年を経るに連れて、理解者も少しずつ増えてきた。彼の話を真剣に聞いてくれて、彼の方からも相手の話を理解したいと願う、そんな友が。それでもあと何人か、見つかっていない人がまだいるように思えるのだ。彼にとっては何よりも大切な、そんな人たちが。
 この広大な地球のことだ、そんな人に生きている間に巡り合えるかは分からない。それでもきっと、この世に生きて存在している。あやふや過ぎてはっきりとはしないが、彼は何となく、そう感じていた。
「彼らを探し出すことも、私の使命、か。そういうことにしておこう」
 生きがいはいくつあってもいいものだ。
「――さて、今日も一日、頑張りましょうか」
 彼はゆっくりだった歩調を少し早める。もうそろそろ、研究所の建物が見えてくるころだ。今の彼が生きていく場所は、すぐそこにある。


 未来は姿を変えた。かつての時間軸では避けられなかった破滅を、今度の時間軸の人々は、様々な形で食い止めようとしている。ある人は科学的な面で、またある人は正しい心の形を人々に示すことで。
 努力の結果、破滅の未来が完全に回避されるとは必ずしも限らない。もしも、未来からの警告が人々の記憶から風化して消え去ってしまえば、その日から再び破滅への道に突き進む可能性だってある。かつての時間軸で、人々の心が負の方向に傾き、人類滅亡の要因を作り出したように。
 それでも、人は願うのだ。今この時代を生きる人たちや、過去に人類の将来を託された人たち。かつての時間軸で生きていた人たちも。
――未来に希望を、と。


(END)


2011/3/31
作品名:鉄の棺 石の骸11 作家名:うるら