廃都アトリエスタにて
すーはーすーはーと頻りに深呼吸を繰り返す臨也はそれはもう健気でかわいいのだが、残念ながらその覚悟が決まることはないと帝人は知っている。
帝人は僅かに上半身を臨也に傾け、臨也の後頭部に手を回し――
チュッ
「廃都アトリエスタにて、永遠の愛を誓う。」
帝人からの不意打ちにより、完全に臨也はフリーズ。
それに気を悪くするのは当然帝人だ。何故ならこのおまじないは一人では成立しない。
「臨也さん!」
ビクンッと臨也の身体が大きく跳ねる。いたたまれなさに距離を取ろうとする臨也を逃がすまいと帝人が彼の肩を押さえる。
「臨也さんは?」
そして視線を一身に注ぐ。それの意味が分からない臨也ではないはずだ。
「廃都アトリエスタにて……永遠の愛を、誓う…。」
刹那、カラーンコローンと二人の頭上から鐘の音が響いた。
あまりにも予想外の事に二人して咄嗟に上を仰ぎ、次いで顔を見合わせた。そして、降ってわいた非日常に二人して笑いだす。
「どうやら僕たち、祝福されたみたいですよ?」
「うん、良かった…。」
そして二人して再び抱きしめあった。
地図から消えた街の時計台の上で
どこにでも転がってそうな幸せを運ぶジンクス
廃都アトリエスタにて
永遠の愛を誓う
***
「帰ろうか、帝人君。」
「あれ?あのプロポーズは取り消すんですか?」
「ぷ!プロポーズって!!?」
「ここで一緒に暮らそうって。」
「え…ああ、うん。
いや、あれをプロポーズにしちゃいけないと思うんだ。」
「ふぅん?」
「待っててね、帝人君!今度はちゃんとしたプロポーズをするから!!」
「はい。いつになるか分かりませんが、ちゃんと待ってますよ。」
作品名:廃都アトリエスタにて 作家名:烏賊