School Days 7月 side狩沢
School Days
Side Karisawa Erika
7月
「絵理華―! 今日、一緒に帰らない? サンシャイン通りに新しい店出来たんだって!」
「あぁー・・・・・・ごめんね。今から委員会あってさ」
「アレ、何か文化祭入ってたっけ?」
「うん。文化祭実行委員」
梅雨も明けて、夏真っ盛りと言う感じのこの時期。
来神高校の文化祭実行委員は九月の文化祭に向けて七月の初めから活動を開始する。
文化祭を行うのは九月の半ばでまだまだ先の話だからそんなに早くしなくていいのに、という生徒の声は多くある。しかし、実際準備を始めて文化祭まで割りと時間はないらしい。噂では、迫ってきた夏休みを僅かばかり返上して文化祭のために休みと体力と気力を捧げるとか。
「そんなに大変そうなら入らなかったら良かったぁ~・・・・・・」
狩沢は一人階段を上りながら小さく呟く。
頭の中には先程の光景がフラッシュバックされていた。
「え!? 今日、委員会来ないの!?」
「ごめーん! 用事入っちゃってさー」
「・・・・・・それ、何ていう用事?」
「部活の仲間と打ち上げです!」
「夏休みにしろ、夏休みに! あと三週間もしないうちに夏休み入るじゃん」
「夏休みがまだ始まってない今行くのがいいんだって」
狩沢は同じく文化祭実行委員のペアの男子に呼ばれ、何の用事だと聞くと今日の委員会には来られないという話だった。
安い笑みを浮かべながら顔の前で拝むように手を合わせる。そんなもんで許せるか、と小さな怒りの種を自分の中で発育させる狩沢。
二人が話してる後ろで同じ部活の仲間らしい男子生徒数名が騒ぎながらこちらに声を掛けてくる。
「おーい! 早くしねぇと置いてくぞ!」
「悪ぃ、悪ぃ! じゃっ、あとはよろしくなっ」
「ちょっとー!」
目の前にいた男子は自分の机の上から鞄を掴むと、一目散にドアに向かって走っていった。
追いかけようと体を動かそうとした時には既に、彼の姿は教室から消えており廊下の遠くでバタバタと走り去る音が聞こえた。
「っていうか、何でこんな上の階なわけ!? 全く・・・・・・」
校舎の五階の最奥にある文化祭準備室。夏には厳しいかなり陽の当たる教室だ。
職員室によってから教室行かねばならなかった狩沢は息も絶え絶えで階段を上り、目的の教室の前で少し息を整える。
音を立てて教室のドアを開けると、そこはまさにアウェイ。
僅かに顔を引き攣らせながらも自分の学年、クラス、名前を言って近くの席に座る。
「あー、もう一人はどうした? 欠席か?」
「あ、はい。なんか母親が危篤らしいです」
狩沢のついた適当な嘘が重い内容過ぎたのか少し教室がざわめいたが、担当の教員が手帳を机に叩いた音で静かになる。
しかし、再び教室がざわつくきっかけとなる声が教室に響いた。
「おーい、絵理華ちゃんじゃない!? こっち、こっちー!」
自分の名前を呼ぶ声がして、そちらのほうに振り向いてみると見知った顔がいた。
音が鳴りそうなぐらい勢いよく手を振ってこちらに笑顔を見せてくれているのは間違いなく岸谷新羅であることを狩沢は認識する。
「新羅せんぱーい! 新羅先輩も文化祭実行委員なんですか?」
「ううん。僕は違うよ。委員なのはこの二人」
新羅が指差した先には確かに二人の男子生徒が椅子に座っていた。
「静雄先輩! 会うのは久しぶりですねー」
「あぁ、お前もな」
狩沢は座っていた席を立って、新羅は静雄に近い席に座る。
―――――うわ、平和島静雄と口聞いてるぞ。あの女子
―――――あいつ、何者なんだ!?
―――――もしかして権力者なのか
周りの生徒からは驚きや恐怖の言葉が囁かれる。
ここで、狩沢は教室に入ってきたときの異様な空気の原因が分かった。
―――――そっか、静雄先輩だ。
狩沢は静雄が校内で避けられているのを知っている。しかし、本人がそれを知りつつも甘んじて受け止めていること。少し怒りやすいが根は優しい人間であることを知っているので何も問題は無かった。
周りの人間は静雄先輩がどんな人だか知らないんだな、と少し可哀想に思えたほどである。
担当教員は静雄の怒りの琴線に触れないように教室を静めるのに苦労している。
「お前・・・・・・」
「あ、先月の・・・・・・」
声を掛けられた方向を見ると見知った顔があった。
―――――そういえば、先月どうでもいい連中に絡まれてるところを助けてくれた人
この様子を見て、意外にも狩沢が全員と知り合いであったことに驚きを隠せない新羅は二人に向かって声を掛ける。
「え、門田君。絵理華ちゃんと知り合い?」
「いや、知り合いってほどじゃないが」
「先月、チンピラに絡まれてるところを助けてくれたの」
「おい、またノミ蟲絡みじゃねぇだろうなぁ・・・・・・」
静雄は自分の最も嫌いな人間の姿を思い浮かべ、怒りで座っていた席の机に思わず力を込めてしまう。
直後、残念な音を立てて机は二つに折れ重力に従い静雄の足元へと落ちる。
「あぁー・・・・・・これ弁償か?」
「学校側の責任でいいんじゃない? きっと静雄保険きくって」
「なんだそれは」
笑顔で話す新羅に冷静と思われる門田のツッコミが入る。
新羅はそれを全く気にせず先程の話題に戻った。
「っていうか、そんなことがあったんだね。ところでお互いに名前知らないの?」
「あの時は、私急いでたから名前聞く暇なかったんだー」
「あー、俺は門田京平ってんだ。よろしくな」
「こいつの名前は狩沢絵理華だぞ」
「いや、別にそこ静雄が言わなくていいから」
担当教員と委員長と思われる人物が誰が何を担当するか決める間、四人は適当に手を挙げて同じ役割の担当になり、時間があれば小さめの声で話した。
教員から配られた紙を真ん中に四人がそれを囲んで今後どのように完成させていくかを話し合っている最中、狩沢は思い出したように口を開く。
「新羅先輩」
「ん、なに?」
「新羅先輩は文化祭実行委員じゃないのになんでここにいるんですか?」
「そういえば俺も聞いてねぇな。何でだ、新羅」
「んー・・・・・・言ってもいいかもしれないけど、静雄怒るかもよ?」
「あぁ!?」
眉間に皺を寄せ、静雄は低い声で新羅を睨む。
新羅は怯えたように手で静雄を落ち着かせようとし、門田は溜め息をつく。
「えーと、門田先輩は知ってる?」
「あぁ。まぁな」
「新羅。俺だけ教えてねぇってどういうことだよ」
「そんな怒らなくてもその時が来たらちゃんと教えるって」
新羅は苦笑いをして静雄を宥める。
その時っていつだろう、と狩沢が頭に疑問符を浮かべていると試合が始まる開始の合図のベルが鳴り響くように“その時”の訪れを告げる扉を開く音が準備室に響いた。
「やっほー、シズちゃん」
「いざやぁぁぁぁぁぁぁ」
教室に突然姿を現した臨也の姿を見た瞬間、静雄の怒りのボルテージはマックスに到達する。
作品名:School Days 7月 side狩沢 作家名:大奈 朱鳥