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赫く散る花 - 桂 -

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一、







 まだ郷里にいた頃、男から恋情を打ち明けられることがよくあった。
 顔立ちが女のようなのが良くなかったらしい。
 桂にしてみれば同性からの告白は気持ちが悪いばかりで、どれほど秀麗な文章であっても、どれほど熱い言葉であっても、心動かされることなく断り続けた。
 ある日、桂は藩校を出ようとしたところで上級生たちに呼び止められた。
 桂を呼び止めた上級生の数は四人。その四人全員と面識があった。面識があるといっても、二言、三言やりとりをしたことがあっただけだ。恋心を抱いていると告げられ、応えることができないと謝罪した、つまり、桂が振ったことのある者たちだった。
 嫌な予感がした。
 しかし、穏便に断る方法がとっさに思い浮かばず、まわりに助けを求めることができそうな者もおらず、仕方なく、言われるままに四人についていった。まえにふたり、うしろにふたり、まるで桂を護衛するかのように歩いていた。
 案の定というべきか、人目のないところへ連れていかれ。
 まえを歩くふたりの足が止まった直後、うしろを歩いていた者に背中を押された。
 桂は地面に倒れた。だが、すぐに身体を反転させた。
 四人が迫ってきていた。
 逃れようと立ちあがりかけたが、とらえられ地面に押し戻された。四人がかりで押さえつけてきた。当時の桂は病弱で、痩せていて、筋力は人並み以下だった。自分より体格の良い者たちに襲われて、恐怖感を覚えなかったといえば嘘になる。けれど、恐れおののいているだけでは、彼らの好きなようにされてしまう。
 桂は怯みそうになる自分の心を叱りとばしながら、必死で抵抗した。
 すると。
 頬に強烈な衝撃を感じ、頭のなかが真っ白になった。
 殴られたのだ。
 次の瞬間には、殴られたところがカッと発火したように熱くなった。
 直後。
『顔は殴るな、もったいない!』
 桂を殴ったのとは別の者が怒鳴るのを、聞いた。
 ふざけるな、と思った。
 湧きあがってくる怒りで頭がどうにかなってしまいそうなほど腹がたち、よりいっそう激しく抵抗した。
 その後、顔見知りの後輩がやってきて血相を変えて他の者を呼ぼうとしたので、四人は慌てて桂を解放してその場から逃げた。
 だから、顔を殴られた以外はたいした被害を受けずに済んだ。

 けれど、それからかなりの年月が流れた今でも、あの四人の顔と名前は鮮明に思い出せる。
 一生、ゆるさない。


 惣兵衛の屋敷の塀の横に車を止め、桂は外へ出た。
 朝の冷涼な風が頬をなでる。
 すでに銀時は来ていた。堅い表情で、桂に視線を投げかける。
 桂は眼を逸らさずに近づいていく。手のなかの車の鍵を強く握りながら。
 胸を負の感情が重く支配していた。それはいったいなんであるのか考える。
 そして、その正体に気づく。
 失望、だ。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio