赫く散る花 - 桂 -
あと一歩半ぐらいで衝突する距離で立ち止まり、右腕を上げた。
「……ふたりで惣兵衛を追っていても埒があかぬかも知れん。俺は別の方法で調べてみるから、惣兵衛は貴様ひとりで追ってくれ。車は必要なくなったら昨日の駐車場に置いておけばいい」
銀時が差し出した手のひらに、車の鍵を落とす。
「では、まかせた」
そう言うと、即座に踵を返した。
「ヅラ」
背後から銀時に呼ばれた。
いつものように訂正しようと思ったが、やめる。
どんな反応も見せずに歩き続けた。
日が暮れるまで、情報が得られそうなつてを訪ねてまわったが、残念ながら空振りに終わった。
一応、万事屋に顔を出した。
惣兵衛の屋敷から帰ってきていた新八と神楽も、特に収穫はなかったそうだ。
銀時はまだ帰ってきていなかった。
だが、桂は銀時の戻るのを待たず、万事屋を後にした。
潜伏先としている二階家の二階に帰宅すると、晩飯を作って食べ、終わると後片づけをし、明日の朝食の下準備をしてから風呂に入った。
そして、風呂からあがると、茶を淹れて一服する。
昼と比べて気温はずいぶんと下がっていて、湯冷めしてしまいそうだ。
寝間着の上になにか羽織ろうかと考えた時、外の階段を昇る音が聞こえてきて、しばらくすると呼び鈴が鳴った。
桂は湯呑みを机に置き、立ちあがる。
玄関のほうへ行く。
「誰だ?」
廊下を歩きながら誰何する。
すると。
「俺だ」
銀時の声。
一瞬、桂は歩く足を止めた。だが、すぐにまた歩き始め、やがて土間の草履をひっかけて戸のほうへ近寄る。
「なんの用だ?」
戸は開けずにたずねる。
「惣兵衛と癒着してる幕府高官が誰か、わかったぞ」
「なんだって」
桂は眼を見張った。惣兵衛の尻尾はなかなかつかめないと思っていたのに。急いで鍵を開け、戸を勢いよく引いた。
銀時を家のなかにうながす。
「惣兵衛が動いたんだな?」
「ああ」
返事しながら、銀時はブーツを脱ぐ。
桂は先に土間からあがり、廊下を進んだ。
うしろから聞こえてくる足音で、追いついてきているのを感じる。
居間に足を一歩踏み入れた。その時、真後ろにいる銀時の気配になぜか違和感を覚えた。
気になって、ふり返ろうとした矢先。
腕が伸びてきて後方へと引き寄せられる。
「銀と……!」
き、を言うことはできなかった。口を手で塞がれてしまったせいで。
作品名:赫く散る花 - 桂 - 作家名:hujio