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天の花 群星

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 山道を進む幾人もの足音が響き渡るなか、坂本の調子外れの歌声が晴れた秋空へと昇っていく。
 だが、その歌は坂本の悲鳴とともに途切れた。
「高杉に蹴られたな」
 足を止めず、坂本のいるほうをふり返りもせずに、桂がぼそっと言った。
「ああ、そうみてーだな」
 銀時もやはり前を向いて歩き続けながら、隣の桂に返事をする。
「つーか、アイツ、こりねェよな。何回同じことやって何回高杉に蹴られてんだよ」
 こんなふうに坂本が行軍の最中に機嫌良く歌いだし、うるせェと苛立った高杉が坂本をその背後から思いきり蹴飛ばすことが、これまで度々あった。だから坂本の悲鳴が聞こえてきても、ゆるやかな上り坂を行く志士たちは誰ひとりとして立ち止まらない。
 山の木々が紅葉するにはまだ少し早くて、太陽は天頂を西に少し下ったところから明るい光を放ち、歩き続けているうちに身体は熱くなり汗をかいていた。
「こりないのはバカだからだ」
「ああ、頭カラだからな」
 その上、蹴られても踏まれてもすぐに何事もなかったかのように立ち直る強さがある。そう銀時は思ったが口には出さなかった。今ここで坂本を褒めるようなことはしたくない。
「なァ」
「なんだ」
「予定通り進んでんのか」
「おそらくな。日が暮れるまでには野営する予定の地点にたどりつけるはずだ」
「今日も野宿かァ」
「野宿じゃない、野営だ」
「野宿も野営も言葉が違うだけで、やってることは同じだろーがよ」
 そう銀時が言い返すと、桂は黙りこんだ。気になって、眼をちらりと隣にやり、様子をうかがう。桂の端整な顔は強張っている。銀時としてはいつもの軽い冗談のつもりだったのだが、桂は非難されたと受け止めたのだろう。この幼なじみは生真面目で短気なのだ。
 銀時の属しているこの攘夷軍は、天人の大軍に攻められて籠城している藩から助けを求められたのに応じて出立し、南北に長く伸びるように連なる山々を南の方角へと進んでいる。
 天人が宇宙から襲来して江戸城に大砲を撃ち込み開国させ、国を憂いた侍たちが刀を手に立ちあがり、各地で天人軍と攘夷軍との戦が起きるようになってから、長い年月が経つ。
 攘夷軍はひとつではなく様々だが、銀時の属している軍は数多くある攘夷軍の中でも強いことでよく知られている。
 この軍は三つの集団が合流してできた軍だ。その内訳は、桂が率い銀時もいた軍、坂本の率いた軍、高杉の率いた軍である。
 桂と坂本はそれぞれがそれぞれの郷里を離れて江戸へ剣術修行に出た際に知り合って友人となり、それぞれが別々の時期に戦に身を投じ、異なる攘夷軍で活躍していたのが、偶然再会し、どうせならと坂本が提案して桂がそれを承諾したことから、それぞれの率いていた軍がまず合流することになった。
 そののち、高杉が自分の率いていた軍の者たちと衝突して、自分の意見に賛同する者のみを引き連れて軍を抜けて放浪していたときに、銀時や桂と幼なじみであるというよしみで合流したのだった。
 ひとつの軍に指揮官が三人いる状態であるが、組み合わせが良かったのか、船頭多くして船山にのぼるということもなく、むしろ三人いることで連戦連勝を誇るほどの強い軍となっている。
 その三人の中で行軍に際しての宿営地や食糧確保などを考える役割を担っているのは桂である。ただし、これは桂が自分からやりたいと申し出てやっていることではなく、単に他のふたりがやらないからやっていることである。
 だから今回のこの行軍にあたっての宿営地の選定をしたのも、やはり、桂だった。
 桂はもちろん同志たちができるだけ疲れないよう考えただろうから、銀時の不満めいた台詞が不愉快だったのだろう。
「……まァ、どーせ野宿じゃたいして眠れねーだろーから、今夜は不寝番でもやろーかなァ」
 銀時はとぼけた口調で言った。
 すると、桂の表情が少しゆるんだ。
作品名:天の花 群星 作家名:hujio