天の花 群星
銀時は桂から眼を逸らし、花火が消えたあとの夜空を見あげる。
いつの間にか手のひらを強く握っていた。
痛いほどに拳を握ったのは、そうでもしなければ手を伸ばしてしまいそうだったからだ。
桂のほうに手を伸ばしてしまいそうだったからだ。
どうして、と思う。
どうして桂の自分に対する想いと、自分の桂に対する想いは違うのか。
それは今まで何度も自分のなかで繰り返してきた問いかけである。
自分の想いの正体に気づいた、認めざるをえなくなったときから、何度も何度も、どうして、と思った。そう思わずにはいられなかった。
桂にとって自分は特別なのだろうと思う。だからこそ、銀時が不寝番を他の者と代わったときに、桂はもうひとりの不寝番と代わって屋根の上にやってきたのだろう。
けれど、その特別というのはあくまでも友人という意味においてにすぎない。
桂にとって自分は特別な友人なのだ。
しかし、自分はそうではない。立場としては友人だが、胸のなかにある想いは友情ではなかった。
ふたりきりでいるときに、ふいに手を伸ばしてつかまえて引き寄せたくなる。
無性に抱きしめたくなる。
その温もりがほしくなる。
欲望が疼いて、身体が熱くなって、桂の熱がほしくなる。
その肌に触れて、唇を落としたくなる。
だが、そんなことをすれば、きっと桂は自分をゆるさないだろう。
桂にとって自分は特別であっても、その想いは友情でしかないのだから。
どうして、自分の想いとは違うのか。
どうして、ふたりきりでいるときに感じるものが違うのか。
わからない。
わかりたくない。
その違いが決定的なものであると認めると、胸が痛い。悲しくて、胸がひどく痛む。
そんなガラではないと思うのに。
「……あー、クソッ」
銀時は悪態をつく。
「すげー寒ィな。俺ァ帰るぞ」
「そうか? 俺はそんなに寒いとは思わんが」
「ならテメーはここに残れよ」
「いや、ひとりきりでも見ていたいほど花火が好きなわけではないし、俺も帰る」
そんなふうについてくるからテメーはタチが悪いんだ、と銀時は言いそうになったが呑みこんだ。
銀時は不機嫌な表情で口を閉ざしたまま、歩きだす。
その隣を桂がいつもの生真面目な顔をして、歩く。
花火の打ちあげられる空の下、ふたり、肩を並べて歩いた。
お互いの距離は、歩いているうちに手が自然にぶつかってしまいそうな近さだ。
実際、ほんの一瞬、ぶつかった。
けれども、何事もなかったかのように歩き続ける。
つかまえることなぞできない。
本当はきっと近くなんかないのだ。
自分の手には届かない花なのだ。