だから俺は、
「ロマーノ」
スペインが宗主国として振る舞わなかった訳が少しだけ分かった気がする。きっとそれでは、あいつの望みは叶った瞬間永久(とわ)の形骸に成り下がっていたのだ。権力国力暴力、その他諸々の力を振り翳されることはなく、俺は至って俺のままである。影響は受けても、歪曲はされていない。それは俺を誇らしい気分にさせた。スペインも同じ気持ちだと嬉しい。当分それを言ってやる予定は無いが。
俺の名前に込められる甘さは相変わらずだった。変化したのは、俺がそれに同等の心をもって返すようになったこと、加えて、スペインから来るその甘さが日常生活のそこかしこに見られるようになったということだった。スペイン曰く、「ロマーノもこれでもかってぐらい漂わせてて、俺どうしたらいいか分からなくなるわあ」だそうだけど。そう言われる度にこちらがどうしていいか分からなくなり、あいつに自慢の頭突きをかますのも相変わらずといえば相変わらずである。俺に言わせればあいつとの触れ合いだって、心がいっぱいいっぱいで全く訳が分からなくなる。これにも慣れる日が来るのだろうか。だが、俺がそれに慣れたとしても、スペインは俺をこのままに呼び続ける気がする。だってあいつは、想いが通じた今も変わらず、俺の名前をそういう風に呼ぶのだから。ほら、今日も。今日もスペインは、俺を呼ぶ。ありったけの愛を込めて、甘やかに愛しげに、「ロマーノ」と。