東方無風伝 4
「紫様!?」
「あまり、うちの式神を苛めないでくれる?」
空間が引き裂かれ、異質で不気味な異空間から、自身の僕(しもべ)を擁護しながら奴はその姿を現す。
八雲紫。あの妖怪が登場したのだった。
「随分と遅い登場ね、紫」
「あんなに警戒されていたんだもの。出て来づらかったのよ」
そう言う八雲紫の目線は俺に注がれる。俺が彼女を警戒していたのを、彼女は気付いていたのだ。
「初めまして、風間」
「……お前さんが、八雲紫か」
白(しら)を切る。俺は八雲紫とは初対面。と言うことにするのだ。まだ俺が人間になって、出逢ったのは今が初めてのことだ。昨日のあれは、直接会ったわけでもないしな。
「警戒するなんて、私何か酷いことでもしちゃったかしら?」
「昨日の今日だからな。警戒して当たり前だろう」
昨日のあれは、お前がやったのはお見通しだぞ。この言葉にはこのような意味が含まれている。
「話に聞いた通り、おかしな人間ね」
誰から聞いた話なのだろうね。まぁ、西行寺と八雲紫は知り合いのようだし、恐らくは其処からだろうと思うが。
又は、嘯いただけなのか。八雲紫ならば、どちらでも十分に有り得そうなことだ。
「でも、貴方は人間では無いわよね?」
「人間だとも。七割くらいは」
「じゃあ残りの三割は何かしら?」
「人間分割増中」
「あら困ったわ。前言を撤回しなくちゃ」
「当社比マイナス三十パーセント」
「純度百パーセントの人間には興味ないわ」
「原産地は珍しい外の世界。なんと貴重なことか」
「最近は供給量が多くて、需要が追い付いてないのよねぇ」
「クーリングオフは出来ません」
「別にする気なんてないわよ。そうでなくちゃ、連れてきた意味が無いと言うものよ」
意味がなければ困る。
最近の外の世界の行方不明者は、以前と比べて異常なまでに増えた。家出なんかではない。それなら俺は解る。だが、完全なまでの神隠しが起きていたのだ。これは八雲紫の所業の筈。
こいつが無意味に人間を攫うとは思ってない。何かしらの理由が有る筈だ。



