東方無風伝 4
「彼は何処からどう見ても、人間よ。貴方達妖獣のように獣の特徴があるわけでもない。だからと言って、妖怪の気配は無い。ならば人間ではなくて?」
「いや、西行寺殿。私だってそれは解っています。ただ、彼は何処か人間のようで人間ではない。人間に近い存在で別の存在なような気がするのです」
「それは、彼が外来人だからでしょう。最近の外の世界の人間は、幻想郷の人間とは違う。そう言う違和感があってもおかしくないわ」
「外来人は、紫様の仕業か私は知りませんが、最近その数を異常と言う程に増しています。幻想郷で生きていれば、彼らと接する機会は多いです。西行寺殿とて、例外ではないでしょう。風間殿は、私が出会ってきた外来人とも、確かな違いがあります」
「どんな違いがあると思って?」
「それは……」
「西行寺、いい加減にしろ。これは俺の話だ。西行寺が口出しすることではない」
「黙ってなさい」
西行寺と眼が合う。その眼に睨まれた途端、本能が恐怖を感じ、身体が竦み上がった。
一瞬。ほんの一瞬のことだった。
「彼は、人間だけど、それを客観的に見て、自分を人間だと思っていない。自分を『人外だと思い込んでいる人間』のように、私は感じます」
「それは違うわ。彼は自分が人間だと認めているわ」
「しかし、彼の言動にはどうにも既視感があるのです。それこそ、紫様のような」
俺とあいつが似ている、ねぇ。そんなこと有ってたまるか。
「気のせいよ」
「いえ、違います」
「彼は、人間のくせに悟った様な口ぶりなだけ。彼は未熟児なのよ。完成と始まり。それは極端にあり、どちらも同じこと。だから、貴方に既視感があるだけ」
「……」
完成が八雲紫を現し、そして始まりは俺を現しているのだろう、西行寺は。俺も安く評価されたものだ、と思うが、それは言い得ているとも思う。
人間になって、まだほんの数週間。俺の人生は始まったばかりなのだから。
「帰ったら紫に伝えなさい。私の玩具(おもちゃ)は、貸すことはあってもあげたりはしない、と」
「何時からそれが貴方のモノになったのかしら?」
妖艶で、甘美で、恐怖で、生で、死で象られた声が響いた。



