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【腐:ゴトタツ】月の夜に

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戸締りの確認のために外に出たら、夜は既に深く月が明るかった。
そういえばニュースで何か言っていたような気もする。
いつもだったら月の明るさなんて別にそう気になるものではないのだろうが今日は何故か。
ふらりと歩く。
クラブハウスの屋上に続く梯子を見つけて、俺はため息をついた。
こんな夜、いくら月が明るいとは言っても梯子は危ないだろうと思いつつ、もしかしたら達海が片付け忘れたのかもしれないとも思う。
だから俺は、梯子に手をかけてそれを上った。
半分くらいはそこに期待の人物がいるだろうことを確信して。
「達海」
「よう、後藤」
仰向けに寝転がった達海は、首だけ俺のほうに向けるとにやりと笑う。
頭の辺りには空き缶。こんなところで酒なんか飲んだら降りるとき危ないぞ、と言おうと思ったらドクターペッパーの缶だったので言葉を飲み込んだ。
空気は蒸し暑いと感じるものの風が気持ちいい。
達海はジャージを下に敷いている。
俺はその傍らに立つと。
「天体観測でもしてるのか」
と聞いた。
「いや、別に」
達海は上半身を起こすと俺を手招く。
俺が膝を着くとここに座れ、とでも言うようにその場を叩いた。
達海が上を見上げたので俺も座って後ろに手を着くと空を仰いだ。
星のことなんてこれっぽっちもわからないが、まあ悪くない気分だ。
横に視線を向ければ、喉元を晒した達海がイタズラが成功した子供のように笑う。ので。
左手を伸ばしてその頬に触れたらくすぐったそうに首が傾いだ。
頬を親指の腹で撫でて、中指で耳の後ろに触れる。
薄く汗をかいた肌が僅かに熱いと感じる。
触れる、ということが心地いい。
達海が。ここにいるという感触。
それにいまだ、慣れることが出来ていない様だと思う。
達海が監督をしている、その事実とそれを覚悟した達海が責任を果たさずどこかへ行ってしまうことなどないとわかっているのに、時々。
忙しい日常に紛れて、振り返ったら達海がいなくなっているんじゃないか、なんておとぎ話みたいなことを思う。
馬鹿馬鹿しいと笑われるだろうとわかってはいても、十年の年月は自分ですぐに認識出来るような。そうそう埋まるものでもないようだ。
そんなことを思っていたことが顔に出てたんだろうか、達海は口端を上げると、俺の腰の辺りに抱きついてきた。

作品名:【腐:ゴトタツ】月の夜に 作家名:しの