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知らない彼

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普通の日


長い廊下を今にも跳ねそうな音が響く。
その音を紡いでいるのは、年齢は少年と呼ぶには大人に近いような、しかし青年と呼ぶにはいささか早い印象を受ける男であった。
学ランの下に赤いインナーを重ね、黒髪で切れ長の瞳にすらりと長い手足を持ち、そして、光の加減によって赤く見える眼が印象的で、恐らく美形と称される容姿をしていた。

いま、彼が歩んでいる場所は大学院であり、彼の年齢に対しては不自然な場所である。しかし、彼は慣れた様子で歩を進めていく。

廊下は彼が進む方向に対してやや薄暗くなっており、すれ違う人が減るにしたがって、また彼に対して訝しげな顔を向ける人も減っていく。
そして彼はつき当たりの扉の前で立ち止まった。

「帝人さん!」

やや大きめな音を立て、扉が開かれる。
そこにいたのは、扉を開いた彼よりやや幼い印象を受ける・・・だが、青年だった。
私服の上に白衣を重ね、身長は彼とほぼ同じ、であろうか。しかし、ひょろりと表現できそうな体格は圧倒的に彼をさらに幼く見せている。
黒髪にやや大きめの瞳、そして大きく彼と違うのは青みがかかった瞳であろう。
帝人と呼ばれた青年は、顕微鏡に向けていた視線を胡乱に扉へ向ける。

「足音がしたけど、やっぱり君だったんだね」

―臨也くん
溜息とともに吐き出した、赤い瞳の彼を指すであろう名前を呼ぶ。


「足音だけで俺って分かってくれるの?さすが帝人さんだね」

嬉しいなぁと、その特徴的な眼を細めて臨也は帝人へ近づいていく。


それを一瞥すると、お茶入れるよと帝人は立ち上がり、茶を沸かす用にしているビーカーを手にしながら、コーヒーでいいかと臨也に尋ねた。

「帝人さんが入れてくれるのなら何でも。・・・でもその実験器具でお湯を沸かすのはどうかと思うよ」

「お湯沸かす以外に使ってないから大丈夫だよ。ちゃんと消毒もしてるし」

嫌ならいいよと帝人が告げると、誰も嫌なんて言ってないよと臨也は口の端を上げて笑った。

作品名:知らない彼 作家名:晃月