知らない彼
「はい」
「帝人さん、ありがとー」
いつの間にか置かれていた彼専用のマグカップを渡してやる。
コーヒーに口をつけながら彼は実験中断させてごめんねと言ってきた。
しかし、その表情はどこか嬉しそうだ。
(全くそんなこと思ってないくせに、よく言う・・・)
自分もコーヒーを喉に流しながら、帝人は砂糖が少し足りなかったかなとぼんやり思う。
そもそも臨也が来た時点で実験は一旦中止になることは確定だ。
彼はその大人びた外見からは想像できないほど、帝人に放っとかれることを嫌う。嫌うだけならまだしも、横から話しかけてきたり、実験のデータを勝手に見たりと帝人の集中力を奪うことにかけて天才的な才能を発揮するから性質が悪い。
「いいよ。そろそろ休憩しようかと思ってたところだったし」
これは嘘じゃない。
「それより、先生って呼ぶようにって毎回言ってると思うんだけど・・・」
「えーそれは無理」
だって、帝人さんて、先生って感じ全然しないもん。と彼はその綺麗な顔を楽しそうに歪めた。
もんって何だ。