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知らない彼

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「あ、やっぱり来てたんだね」
帝人が扉を開けると、予想通りの学ラン姿が目に入った。
「今日は6限までだったよね?また授業サボったの?」
問う帝人に、しかし、臨也の反応はない。
常ならばよくもここまで舌が回ると感心するほど、一方的に語り続けることが多い臨也だったため、帝人は訝しげに臨也を窺った。
「どうかした?」
逆光のため、臨也の表情は帝人からは見えにくい。
少しでもよく見ようと、帝人は掌をかざす。
「・・・帝人さんは、俺のこと、嫌い?」
彼にしては珍しい、弱い声色が帝人の耳に届く。
「え?」
帝人はさらに戸惑った。彼の表情が見えないから余計に彼の意図が読めない。
「何かあったの?」
「質問に答えてよ」
先ほどより強めの声だった。帝人は2、3度瞬いて、口を開いた。
「嫌いじゃないよ」
「じゃぁ俺も家に泊めて」
「えっと、話が読めないんだけど・・・」

どうしたの。再度彼に問う。確かに嫌いではないが、話が繋がっているようには見えない。
せめて彼の表情をと瞳を細めてみても、それは叶わなかった。
「・・・それはできないって、前にも言ったよね?」
「それは俺が生徒で、帝人さんが教師だからって理由?」
「うん。やっぱり、そういうのはいけないと思うんだ」
彼がここに来ているのを黙認しているくせに、それを棚に上げて言う。

彼は俯いたようだった。帝人は再度心の中で自問自答する。
彼に何があったのか。しかし帝人の中で結論を導く前に彼が顔を上げる。
そのまま臨也が帝人へ大股で近づき、その左手を掴んだ。
痛いくらいに強く。
痛みに抗議をしようと口を開いた帝人だったが、言葉は音にならなかった。
臨也の表情が今まで見たことがないほど、辛そうな表情をしていたからだ。
臨也の顔が帝人の眼前いっぱいに広がっていて、帝人は自身の心拍数が急激に上がっていくのがわかった。
臨也は形のいい眉を寄せ、常ならば上を向いている口角も今は何かを耐えるように結ばれている。
何より、臨也の赤い眼に自分が映っていることに帝人の心臓は五月蝿いほどの音を立てていた。

「俺は!あんたを先生だなんて思ってない!!」
臨也の声が辺りに響く。
帝人はその大きな瞳をさらに大きく開き、そして困惑した。
彼は何と言った?自分を先生と思っていないと?以前、自分が教師らしくないと言ったことが、真実であったということだろうか?自分が教師として未熟だからそう呼べないということだろうか。
だから、彼は敬語を使わなくなったのだろうか。授業をサボっていることを知られても平気だと思ったのだろうか。

・・・自分を先生、と呼ばなくなったのだろうか。


ああ、ああ、何ということだろうか。先生と呼べと言いながら、自分の未熟さに目を背けていた己を恥じる。
帝人はあまりの混乱で自身の視界が滲んできたのを感じていた。
臨也はそれを見てさらに傷ついたような表情をする。
しかし、帝人の左手は未だ彼に囚われたままで、ぎりりと今にも音がしそうな程の強さだ。
「っご、ごめんね。僕が教師として未熟なばっかりに」
「そんなことを言いたいんじゃない。俺は・・・俺は、帝人さんに一人の男として見てほしいんだよ」
ただそれだけなんだ。
そう言ったときの臨也の顔は帝人の知るいつもの彼ではなかった。
作品名:知らない彼 作家名:晃月