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知らない彼

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普通の日だったはずの日


いつも通りの日だった。いつものように俺は勝手知ったる廊下を進んでいく。
やや日が傾きかけた時分で、廊下に西日が差しこみ、臨也の頬を照らす。
この時間ならば実験に夢中になっているだろう彼を想像して、つい頬が緩む。
彼はあまりに集中していると、自分が来室したことにも気が付かない。今日はどうやって彼に声をかけようと、思案する。彼はどう反応するだろう。楽しみで仕方がない。
臨也の瞳が西日に照らされ、妖しく光を放つ。

「帝人さん・・・?」

しかし、扉の向こうに彼ははいなかった。
(どこ行ったのかな。この時間は9割、実験データと格闘してるはずなんだけど)

彼がよく座っている椅子の近くを見やると、中身が入ったままのコーヒーがあった。
「さっきまでいたみたいだな・・・」

そのとき、激しい音が耳を裂いた。
(エンジン音・・・?)
思わず顔をしかめて音源を探すが、すぐに見つかった。
校門近くに大型のバイクが止まっていたからだ。
バイクは再度大きな音を立ててから、静かになる。エンジンが切られたようだ。
バイクに乗っていた人物はヘルメットを外す。しかし、俺の意識は違う方向へ向かう。

(あ・・・)

そのバイクの隣、探している白衣の姿が見えた。
急激に意識がそちらへ持って行かれるのを感じる。窓を開け、彼らの会話に聞き耳を立てた。

「よー帝人、久しぶりだなー!」
「元気そうだね、正臣」

ヘルメットの下から出てきたのは、茶髪に長めの前髪、やや釣り目の青年だった。耳に光っているのはピアスであろうか。
バイクに跨ったままの青年は、雰囲気からして真面目そうな帝人とは対照的な印象を受ける。
まさおみ。その名前は聞き覚えがあった。

紀田正臣。
彼の幼馴染。
彼が上京してきたのは紀田の誘いがあったから。
高校は一緒だったが、紀田は大学に進学せず働いている。

彼から聞いた情報が頭の中に踊る。
彼は俺がそいつの話題をするたびに、苦々しい想いをしていたなんて気がついていないんだろう。

「仕事はどう?」
「おーぼちぼちってとこだな。汗を流しながら働く俺の姿に女性社員はみんな虜ってことさ。いやー罪な男、俺!」
「園原さんは講義中だから、後から合流するって」
「え、スルー?スルーなのか、帝人!?」

知らない。

「あ、帝人の家に泊まりってことで、少し差し入れ持ってきたぜ」
にかっと人好きしそうな顔をして、紀田は白い袋を指した。
帝人さんはそれを覗いてから、少し笑った。
「これ全部ビールとつまみなんだけど?」
「いいだろー?少しくらい付き合えよな!」
紀田が帝人さんの首に腕を回し、頬をつねる。痛いよ正臣と言いながらも、彼はどこか嬉しそうだ。

知らない。知らない。


あんな彼は知らない。
俺が知っている彼は、俺の言葉に対して少し困った顔をして、でも仕方ないなと言いながら、俺の願いを聞き入れてくれて。
あれは誰なんだろう。
あんな風に口を開けて、目じりに涙を溜めて笑う彼を知らない。


作品名:知らない彼 作家名:晃月