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420と138とマスターと

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ボーカロイドというものを、知っているだろうか。ソフトをパソコンにダウンロードすると、そこに現れるのは可愛らしい女の子やカッコイイ男の子のCG映像。様々な声や仕草がプログラミングされたそのソフトに、マスターと呼ばれる所有者は歌を打ち込み覚えさせていく。
調教と呼ばれるプログラミング次第では、まだ技術の甘い初期のものでさえ人間が歌っているのと錯覚しそうなほど素晴らしい歌声でなめらかな旋律を披露してくれた音楽プログラムソフト。
爆発的な人気を誇ったその新しい存在は瞬く間に認知され、そして二次元の画面の中に存在した彼らが、三次元へと望まれるようになるためにそう時間が必要ではなかった。
 娯楽はより高度に。自分たちの好奇心を満たしてくれるものならば、どんな散財も探求も厭わない人間は、この暇な世界にはいくらでもいる。
 自分好みの形をし、自分好みの歌を歌う、本当の人間のようなお人形。そんな彼らに様々な機能を付け加え、ついに自立思考まで可能にしたのはある一人の天才の手によるものが大きかったといわれている。
 そして人は、歌を歌うだけではなくなった人形たちを傍に置いた。その存在に、何らかの安堵を求めて。
 それは決して、人の変わりにはならないと分かっていながら。




 朝の透明な光が、窓の外から室内に入り込んでいる。今日は、雲ひとつない晴れ。そろそろ街は起きだし、駅へと向かう道に人の姿が増える頃合だろう。
 あわただしく人々が動き回る時間に、そんなもの関係ないとでも言うようにゆったりとした戦慄の歌が一つの建物の中で響いていた。
 その声の主は、人ではない。ボーカロイドの歌声だ。しかし人と聞き違えるほど滑らかな歌い方は、相当な技術を持ったマスターであるのだろう。
 2次元のボーカロイドはそう高価な物ではない。もちろんそれなりの価格ではあるが、一般人が欲しいと思って手に入れられない金額ではなかった。
 それが三次元に現れるとなると、値段は桁違いに跳ね上がる。
 歌声も、仕草も、その外見も。ただ娯楽のためだけに作られた彼らであるが、簡単に買える代物ではない。もちろんその中にはピンもあればキリもあったが、大抵のものは驚くほど高価だ。
 特に、有名作者によって作られた逸品であればなおのこと。
 ボーカロイドマニアの中で、有名な製作者がいる。名前は決して後悔されない。正体は謎に包まれ、ただMとだけそのボディのどこかに刻まれているだけだ。
 けれどもそんなものを見なくても、彼の作ったボーカロイドは人目見ただけで見分けることができる。まさに人間と見間違うばかりの、他とは郡を抜いた性能のよさは他の追従を決して許さなかったから。
 そしてそんな彼が作り出したものの中に、TGRシリーズというものがある。
TOKYO GAISYA REVAIVALシリーズという、日本人からしてみれば眉をひそめそうなネーミングのそのシリーズは、日本の和の心を重んじ、演歌を主体としたイメージで制作されており、ネーミングセンスのなさに比べてこれがなかなか評判がいい。
世間ではこのシリーズは、頭文字3文字の響きと日本の有名な演歌歌手の代表作になぞって『津軽』と呼ばれている。
そんな有名人であり天才ボーカロイド製作者でもある謎の人物Mは、今日もそんな世間の評価など気にすることなく、歌が響く自宅兼研究所である白い建物の中をゆっくりと歩いていた。
天才ボーカロイド製作者――竜ヶ峰帝人は、少し赤い目を擦りあくびを漏らす。
帝人自身でも自覚している童顔ではあるが、そうしているとさらに幼く見えることまではさすがに自覚はしていない。
昨日は思わず徹夜をしてしまった。あと少し、あと少しとついつい伸ばしてしまうのは自分の悪い癖だ。結局気がつけば、いつものように外は明るく起床の時間を告げていた。もちろん、寝ていない帝人にとっては関係のないサイクルではあるが。
早くベッドに入って、寝てしまいたい。かくんかくんと揺れそうになる頭を必死で抑え、帝人は自室へと向かう。
帝人が歩を進めるにつれ、声は徐々に近づいてくる。
この広い建物には、基本的に帝人しかいない。研究所とは言っても、帝人が自由に使える場所が欲しかっただけで、帝人からしてみれば巨大な作業場があるようなものだ。
だから、手伝いがいるわけでもない明け方のこの時間であれば、帝人以外がこの建物にいるほうが珍しいといえる。それが人間であれば、の話だが。
そして、歌が止まる。
「帝人」
歩く帝人を呼び止める、少し低い声。それに、帝人は少しだけ目元を緩ませた。
「シズオさん」
帝人の目の前には、一人の男。いや、人間の男にしか見えない、一体のボーカロイドがいた。
津軽シリーズは男性体も女性体も和装だ。日本はもとより海外でも人気で、既に3桁のナンバーが製造されている。
そして、今帝人と向かい合っている青と白のグラデーションの羽織に袖を通さず粋に肩にかけただけという格好の男性体も、もちろん『津軽シリーズ』だった。
ただし、一つ普通の津軽シリーズと違うとすれば、その髪の色だろうか。 
津軽シリーズは総じて、髪の毛はアジア特有の黒に染められていることが多い。
もちろん、津軽シリーズをおよそ着物とは呼べない改造ゴシック着物にして、髪を青だのピンクだのに染めたがる所有者はいる。そんな注文は、決して珍しいものではない。だが、その津軽が纏っている普通の着物とでは、僅か金髪は不似合いとも言えただろう。
 「おはようございます、シズオさん」
 ナンバー420に対し、帝人はそう呼びかけた。それが彼の名前というわけではない。帝人が、そう呼びたくて読んでいるだけだ。
 「おはよう」
 穏やかな声が、その呼びかけに答える。津軽シリーズは総じて感情が表に出ないものが多いが、この420も同じく少し目を細めた程度だった。
 420は津軽シリーズの一つである。普段は帝人の設計図をもとに工場でたくさんの職人が関わり生産されるボーカロイドシリーズであるが、この420は帝人が自らの手だけで作り上げたものだった。
 顔も、体も、人格構成も。誰の手を借りることなく、一人で。
 普通、ボーカロイドの製作者はそんなことはしない。なぜならばそれには、膨大な時間と膨大な費用がかかるからだ。
 けれども帝人は、自らの手だけでボーカロイドを作り出した。
 それだけでも賞賛されることであるのに、それも、2体も。さらに言うならば、ボーカロイドの歴史に残る最高傑作だと言わしめるものを、だ。
 その一つは、津軽シリーズのナンバー420。
 そして、もう一つは・・・
 たたたっと、地面をかける音。その後に続いたのは、跳ねるような明るい声だった。
 「おはようっ!」
 「うわっ!」
 背中からかかった衝撃に思わず帝人は多々良を踏む。それを支えたのは、420。背後から抱きついたのは、420と同じボーカロイド。
 サイケデリックシリーズのナンバー138。それが、もう一体の帝人が作った最高傑作のボーカロイドであった。
 「おはよう」
 ショックングピンクと白のカラーリングが基調となるサイケデリックシリーズ特有の格好をしたその黒髪は、跳ねた調子の声で自分よりも頭一つ小さな帝人に抱きついた。
 「イザヤ」
作品名:420と138とマスターと 作家名:霜月十一