こらぼでほすと 一撃8
イドテーブルに置いてある。少し話を聞いてから飲むつもりだ。
「お待たせいたしました。」
「・・・おい・・・」
「これは、日々の努力です。ママもやってみます? 」
歌姫様は、風呂に入りパジャマで現れた。それはいいのだが、その顔には、美容マスク
が貼られていて、はっきり言っておもしろい。美貌の維持は、基本です、と、歌姫様は洗
面所から、同じパックを持ってきて、ニールの顔にもペタリと貼った。鼻と目、口の部分
は切り取られているから会話は可能だ。
「俺、美貌とかないんだが? 」
「私のママは美人ですわ。三蔵さんが離さないし、ハイネも入り浸っているし、フラガさ
んは会えば口説くなんて、美人だからです。本当は、美容液やマッサージもしてさしあげ
たいところですけど、今日は、とりあえず、これで保湿いたしましょうね?」
「ありゃ冗談だ。からかってんだよ、あの人たちは。てか、おまえさん、今、本気だった
な?」
「もちろん、本気です。明日はオフですので、ママのフェイシャルケアをして過ごそうと
思ってます。うふふふふ・・・・少し荒れてますから、入念にお手入れさせてくださいま
せ。」
「やなこった。そういうのは、キラにやってこい。」
「キラは、ただいまラボに引き篭もっています。 マザーの改良で、私の相手をしてくれ
ません。」
「だからって俺で遊ぶな。」
「ママぐらいですよ? 私と遊んでくださるのは。」
『吉祥富貴』のオーナーだから、スタッフとは、ある程度の距離は置いている。年少組
とはつるんで遊ぶこともあるが、ウィークデーともなると、各人、本業があるから付き合
ってはもらえない。
そういや、悟空が歌姫の相手してやれ、と、言ってたなあ、と、ニールも思い出した。
仕事で飛び回っていたから、ストレスフルなのだろう。
「そんなに溜め込んでるのか? 」
「・・・・いろいろと・・・・」
「休みは何日だ? 」
「明日と明後日です。それから、ユニオンに参ります。」
「もうちょっと休みを取れ。おまえさんがダウンしたら、うちは壊滅するぞ。」
「体力には自信がございます。それに、私が平和について発言することが、何より重要で
す。」
自分の立場はわきまえている、というラクスの態度は立派だが、それでは精神的に辛い
だろう。横になっているニールの横に座って笑っているラクスは、やはり疲れた雰囲気だ
。それを隠すための美容パックなのだろう。
「もちろん、それは、おまえさんの仕事だけどな。疲れたり辛い時は休め。キラに、そう
言えばいい。あいつだって男なんだから、おまえさんに護ってもらうばかりじゃ申し訳な
いって思うはずだ。『疲れたから癒せ』って我侭言っていいんだ。それぐらい受け止める
度量は、キラにはあるんだからな。それと、俺にも隠さなくていい。愚痴りたいなら、こ
こで存分に愚痴れ。聞いてやるから。」
まあ聞いてやるだけなんだけどさ、と、おどけて付け足したら、抱きつかれた。ほら、
やっぱり愚痴りたいんだろ? と、ニールは口元を歪める。
「・・・・少し・・・・精神的に疲れました・・・・・これから、ユニオンに行くのが、
とても億劫なんです。」
「うん。」
「あちらが提案していることは、一部正しいのですが、私には納得できるものではありま
せん。ですが、今は、事を荒立てるわけにはいきません。」
「うん。」
「・・・・笑っているのも疲れます・・・・・本当に笑いたい・・・・」
「ああ、そうだな。」
「ママ、私だって・・・・キラとゆっくり過ごしたい。」
「だから、そうしろよ。マザーの調整なんて、一日二日のことじゃないんだろ? 明日、
ラボへ行って来いよ。」
「でも、ママとも過ごしたいのも本当です。」
「じゃあ、キラを呼び戻して、俺とキラにお手入れしてくれ。それなら、いいんだろ?」
「・・・・よいのでしょうか?」
「かまわねぇーよ。俺が許す。キラが拒否ったら、俺に廻せ。叱ってやる。」
そう言い放つと、上に乗っかっている歌姫様は笑い出した。そう肯定してくれる意見が
欲しかったからだ。
「やはり、ママは最強ですわ。・・・明日、キラに連絡してみます。」
「そうしろ、そうしろ。」
「じゃあ、オイルマッサージをして、それからパックして、眉も揃えてさしあげますわ。
それから、時間があれば、ネイルもやりましょう。」
「それは、オママゴトみたいなもんなのか? ラクス。」
「女の子のたしなみです。」
そう言って笑っているラクスの雰囲気は軽くなった。美容マスクを外した顔からは、本
物の笑顔が現れる。
「嗜みねぇーまあ、いいけどさ。寝られそうか? 」
「ええ、ぐっすり寝て体力を回復させないと、明日は忙しいですもの。」
「じゃあ、どいてくれ。クスリ飲んで、俺も寝る。」
ニールも美容パックを外すと、どっこいせ、と、サイドテーブルに手を伸ばす。起き上
がるのは、面倒なので、そのまま飲もうとしたら、ラクスが身体を支えて起こしてくれた
。コーディネーターは伊達ではない。ニールぐらいだと、歌姫様でも支えられるらしい。
「ママ、なんなら口移しで? 」
「バカ、キラと同じこと言うな。おまえら、思考回路似てるんじゃねぇーか? 」
「私も天然電波ですかしら。」
「多少そうかもしれないな。」
手にした錠剤をごくりと喉にやって水を含む。即効性なので、横になれば、すぐに眠気
が押し寄せる。掛け布団を肩まで引き上げて、ラクスは整えて笑っている。
「あっちの端で寝ろ。」
「意地悪だこと。」
「何が意地悪だ。部屋に帰るぞ? 」
「できますれば? ほほほほほ。」
ちょっと気は紛れたのなら幸いだ。ゆっくりとクスリが効いてくると、ニールは、「お
やすみ」 と、声をかけて目を閉じる。
「はい、おやすみなさい、ママ。」
ニールが寝息になるのを確認してから、歌姫様も少し離れたところに横になる。このベ
ッドはキングサイズで大人が四人でも眠れるサイズだ。だから、狭いなんてことはない。
作品名:こらぼでほすと 一撃8 作家名:篠義