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長い長い家路

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セカンド・トライ


バトルフロンティア第二艦橋。
「アルゴナウタイ作戦、セカンド・トライ、これより開始する」
エステファン大佐の号令で、バトルフロンティアはフォールドの準備を始めた。
前回と違うのは、惑星ザナドゥの遺跡で発見された巨大な高純度フォールドクォーツをフォールドハイウェイを安定させるスタビライザーの起爆剤として使う事だ。これにより、前回の3倍、6個のスタビライザーを用意できた。
本来、ザナドゥに設置されたフォールドハイウェイ安定化装置=カテドラルの動力源だったものを取り外してしまうので、ハイウェイの不安定化は避けられない。
そこで代替のエネルギー源として、バトルフロンティアの主砲である重砲撃艦を無人モードで動力源としてカテドラルに接続する。カテドラルの消費するエネルギーは莫大なので、重砲撃艦のエンジンと言えど長時間の駆動は無理だと予想されている。
代わりに、重砲撃艦を捨てたバトルフロンティアは身軽になり、その分、フォールド空間内での加速性能が上がる。
その処置を実行したのは、砲雷長のレ・ヴァン・カイン中佐だった。
エステファン大佐にとって不愉快なユーモアセンスの持ち主だったが、重砲撃艦を遺棄するために頼りにしていたマクロスキャノンを自らの指揮で破壊した時は、さすがに堅い表情になっていた。
(カウンセラーならファロサントリックとか何かレッテルを付けるんだろうが)
エステファン大佐は、席で作戦の推移を見守っているレ中佐の横顔を盗み見た。
無表情だったが、大切なものを自ら切り捨てた悲壮感を漂わせている。
(100億光年だ…いかなる犠牲を払っても乗組員を家族の元へ送り届ける)
エステファン大佐は飛行甲板上を映し出すモニターに目をやった。
最後の切札が、アルトが搭乗するYF-29デュランダルだ。
不安定なフォールドハイウェイ空間で作戦活動をさせるのは、新統合軍史上でも初めてだ。
何が起こるか判らない。
もしかしたら、若者を犠牲にすることになるかも。
逡巡を断ち切り、パイロットの士気を鼓舞するように、エステファン大佐は精いっぱいの演技をした。
「マルーン2、アルト少尉、君とシェリル・ノームの絆に作戦の成否を託す」
エステファン大佐は飛行甲板のカタパルトにセットされたYF-29に向けて呼びかけた。
「こちら、マルーン2。全力を尽くします」
「頼んだぞ」
フロンティアに居るはずのシェリル・ノームの歌声を携帯端末に録音したアルト。いつも身につけているイヤリングのフォールドクォーツが二人の絆になっているのだろう。
なによりバトルフロンティアの乗組員全員にとって大切なのは、シェリルが歌ったとされる時間、フォールドハイウェイがわずかながら安定傾向になった点だった。
それがアルトの能力によるものなのか、シェリルの歌によるものなのか、あるいは単なる偶然なのかは判らない。フロンティアとの通信も途絶しているままだ。
一方で、アルトが乗り込んだYF-29が金色に輝くフォールド波をまとってバジュラ女王とのコミュニケーションを確立したのもバトルフロンティア側の記録に残っている。
エステファン大佐と技術陣は実行可能な手段を全て打っておくことにした。
(また、乗ることになるとは)
アルトは バジュラ女王の惑星で乗り捨てたYF-29-4号機を思い出す。
今、搭乗しているのはLAIから新統合軍に引き渡された試験用のYF-29-5号機。
フォールドクォーツが足りなかったので実戦用ではなく、様々なデータを取るためのテストベッドだった。
しかし、カテドラルから切り出したフォールドクォーツを装備し、その性能は万全の状態へと高まっている。
フォールドハイウェイの不安定化に対する切り札として、YF-29とアルトの能力で沈静化させようと言うものだった。
「しっかりやっといで。イザって時は尻拭いしたげるからさ」
同じく飛行甲板のカタパルトにセットされたVF-171EXからカーリー・シェリー中尉が語りかけてきた」
「お願いします」
アルトは言ってから唇を引き結んだ。
一応、カーリーはバックアップとなっていたが、YF-29の代役をこなせる機体は無い。気休めみたいなものだ。
「セカンドトライ、スタート!」
エステファン大佐の号令で、バトルフロンティアはフォールド空間へ突入した。

フォールド空間に突入すると、バトルフロンティアはスタビライザーの最初のセットを発射。
フォールドハイウェイを安定化させた。
次の“波”が来た。
「安定指数マイナス! 危険領域に入ります!」
観測班の報告を元にレ中佐が2セット目のスタビライザーを発射。
「スタビライザー、爆発。安定指数がプラスへ! 航路啓開」
観測班から声が上がると、第二艦橋内に静かな歓声が広がった。
ファーストトライは、ここでつまずいた。
「いい感じで、進んでますね?」
臨時に大統領職を代行しているウラニア・カーロイア政務次官がエステファン大佐に確認する。
「はい、目下のところ…しかし、また不安定化の波が来たようです」
「スタビライザー用意!」
レ中佐の号令が第二艦橋に響いた。

最後のスタビライザーがフォールド空間で黒い輝きを放ちながら爆発した。
「マルーン2、発進する」
アルトはYF-29のスロットルを押しこんだ。
加速する機体と肉体に、意識が置いていかれるような奇妙な感覚に苛まれながら、操縦桿を操る。
『2時方向32、不安定化の波が来る』
バトルフロンティアの観測班からの指示で機体の位置を合わせ、YF-29特有のフォールド波発振機能で波を消す。
人類の視覚では見えない不安定化の波は、渦巻状のアイコンとして可視化され、コクピットの内部に投影される。
『次、2時マイナス15』
波は次々やってきた。
バジュラの群れを迎撃した時を思い出す。
「ふっ…」
ふと笑みが漏れた。
VF-29の高性能を自分の手で発揮するのは楽しい。
「どうした、大丈夫か」
マルーン1のコールサインを与えられたカーリー中尉が通信機越しに声をかける。
「大丈夫です」
「なら、いい……さっきから動きが繰り返しになってないか?」
「はい」
不安定化の波は、バトルフロンティアの進行方向に対して時計回りにやってくる。
アルトも何となくパターンが読めるようになってきた。
「波が出現する場所も…次はここっ」
アルトの読み通り、波が現れ、YF-29によって打ち消される。
「イレギュラーな波が来るかも知れん。油断するな」
カーリー中尉が警告を発した途端。
『11時方向0から大きな不安定化の波がっ…!』
(間に合うか?)
アルトは焦った。可能な限りの加速で急行したが、フォールド波を発振する間もなく不安定化の波が直撃する。木の葉のように翻弄されるYF-29。
「バトルFコントロールっ、波が直撃するっ!」
必死で警告を出すアルト。
少しでも波を弱めようと、機体設計の許容値以上にフォールド波を発振。
(間に合わない…)
「シェリル!」

「ぎりぎりにならないと、思い出してくれないんだ」
「何言ってるんだよ、お前のところに戻ろうと必死なんだぞ」
「嘘。ヒコーキ操縦しているのが楽し過ぎて、忘れてた」
「忘れてない」
「ほんと? 目を見て同じことが言える?」
「言える」
作品名:長い長い家路 作家名:extramf