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鉄の棺 石の骸番外11~類は友を呼ぶ~

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1.

 彼にしてみれば、本当に、たまたまだったのだ。
 彼と彼のチームメイトたちは、当分の間滞在する予定でこの街にやって来た。その初日、真っ先に彼の目に飛び込んできたのが、デュエルグッズショップの看板だった。もうその時点で彼の心は店の中身に興味しんしんだったが、決闘者のプライドを賭けて、完全に誘惑される寸前に踏み止まった。彼らがこの街に来たのは、大きな目標を果たす為であり、無秩序にグッズを買いあさる為ではないからだ。
 しかし、気になるものはどうやっても気になるものだ。なので彼は、プラクティスとチューンナップの合間を縫って、一度だけ店に立ち寄ることにした。あくまで一度だけだ。必要以上に店に入り浸って気を散らす訳には行かない。
 彼が店に飛び込んだ時、店には先客がいた。白い服を着た青年は、ガラスケースの中のグッズをあれこれ覗き込んでは、ああでもないこうでもないと悩んでいた。傍から見ると、それは何ともおかしげな仕草だった。
 青年の目の前のガラスケースを、何気なく彼はひょいと覗き込んでみた。そこには、不動遊星関連のグッズが、ぴしっと縦横揃えて陳列してあった。もしかして、と彼は思った。
「もしかして君も、不動遊星が好き?」
「……!」
 青年は、弾かれたように、ばっと勢いよく彼の方を振り返った。その瞳と言ったら、思いがけないところで旧友に会えたような輝きようだった。
「君もってことは、もしかして……」
「うん。僕も大好き」
 まさか、こんなところで同類に会うとは思わなかった。彼が言うと、同感だ、と青年もうなずいて笑った。
 二人は、最初の目的も忘れて、しばし遊星語りを楽しむ。
 青年も、休暇を使ってここに遊星グッズを買いに来たのだという。数少ない休暇も、一度連絡が入ればお終いだという彼は、この街で科学者をやっているのだと話してくれた。
「職場のみんなは、不動遊星と聞くと、『ああ、博士の』って口を揃えて言ってくるのですよ。職業柄仕方がないにしても、もうそれが歯がゆくて歯がゆくて」
「遊星が公式大会に顔出したのって、そんなに多くないからね。僕としてはちょっと残念だけど、彼が決めた道もまた、素晴らしいものだと思うよ」
 ふと思いついて、彼は胸ポケットから自分の宝物を取り出して青年に見せてみた。長く身につけて色あせてしまっているが、刺繍されたロゴは未だにしっかり残っている。
「レプリカなんだけどね。僕が子どものころに初めて買ったのが、これ」
「チーム・5Dsのワッペンですか」
 青年は、熱心にワッペンを見つめていた。まるで、価値ある宝石を目の前に広げられたかのように、矯めつ眇めつ眺めている。
「うん。今でも僕のお守りなんだ。チーム・5Dsは、第一回WRGP後も何人かライディングデュエルで活躍してたよね」
「ええ。ジャック・アトラスに、クロウ・ホーガン、そして龍亞ですね。彼らもまた、決闘者として名を残しました。あ、もちろん、私が一番好きなのは遊星ですよ」
 青年の品定めは、ようやく終わったようだ。店員を呼んで、ガラスケースに並べられていたパンフレット一冊を指差して、早速会計に入る。ほどなくして、WPGPのパンフレット――チーム5Dsの全員のサイン入りだ――を、青年は大事そうに胸に抱えていた。
「君のおかげで、買いたい物が決まりました。ありがとう」
 二人の楽しい時間は、長くは続かなかった。青年の携帯端末に連絡が入ったのだ。慌ただしいやり取りを端末の先の誰かと一つか二つ交わし、それが終わると、残念そうな顔で青年はパンフレットを丁寧に、床に置いてあった鞄に仕舞い込んだ。
「もう行かなきゃいけないんだ」
「はい。これが私の仕事なので。今日は色々話せてとても楽しかったです」
 青年は、最後に一つにこやかな笑顔を残し、別れの言葉もそこそこに駆け足で店を飛び出して行ってしまった。あっという間に遠ざかっていく青年をそのまま見送っていた彼だが、やがて、はっと気がついた。
「……しまった。連絡先くらい聞いておけばよかった」
 今更聞き出そうにも、本人はもう遥か彼方だ。名前は教えて貰ったけれど、これでは連絡を取ろうにも取れない。
 せっかく話が弾んでたのに、残念なことをした。あれとかこれとか、話したい話題はまだまだあったのに。そんな風に彼は思った。