鉄の棺 石の骸番外11~類は友を呼ぶ~
5.
次の日。
早速テレビをつけて、最初に映った人物に青年は仰天した。
「――あ。あの人は」
間違いない。デュエルグッズショップで会った人だ。赤いサングラスを着けてはいるが、よく見てみると確かに見覚えのある顔立ちが、そこにあった。
青年は、彼の所属チームの紹介に注意深く耳を傾ける。彼は、チーム・デルタのラストホイーラーであると同時に、優秀なメカニックでもある。愛機「デルタ・イーグル」は彼の手作り。彼は優れたクリアマインドの持ち主であり、アクセルシンクロの達人の一人……。
青年は、ようやく得心が行った。あの日彼がこの街にいた理由。チーム・5Dsのワッペンをお守りだと言って見せてくれた理由を。
「そうか。あの人はこの大会に出場しに、この街にやって来ていたのか……」
D-ホイーラーとは聞いていたが、まさか世界的に有名なチームの一員だったとは。決闘関連からしばらく離れていたせいか、青年は最近人気のチームなどの知識に疎かった。
第一コーナーの奪取から始まったそれは、お互いにメンバーを交代しつつ佳境に入る。相手チームを一人残し、チーム・デルタはついに彼を決闘に投入した。
彼の使うTG(テックジーナス)は、シンクロ召喚に特化したモンスター群だ。あれよあれよという間に、彼の場には次のシンクロに繋ぐカードが出揃う。《TG ワンダー・マジシャン》や《TG ハイパー・ライブラリアン》など、個別にファンが付いているモンスターもいるらしく、召喚に成功した時には、観客席から一際大きな歓声が上がった。
《無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へ突き進め! Go! アクセルシンクロ! カモン! 《TG ブレード・ガンナー》!》
彼とデルタ・イーグルは一瞬空間に溶け込むようにふっとかき消え、次の瞬間、相手のすぐ後ろから現れた。特徴的な緑と橙色をまとったモンスターを引き連れて。
テレビ画面の向こうの彼は、青年の知らない、気迫に満ちた顔で戦っていた。
ある時は風に、ある時は光になりながら。
相手チームのラストホイーラーもしぶとく粘っていたが、それでも彼の敵ではなかったようだ。ライフポイントを余裕で残して彼は最後の一人を打ち破っていた。
「……素晴らしい」
青年は感嘆の声を漏らした。もうそれ以外、何も言えなかったのだ。画面越しですら、あまりに迫力がありすぎて。
デルタ・イーグルは、ウィニングランの真っ最中だ。恐らく、この後勝者へのインタビューが始まるだろう。
彼にまた会いたい、と青年は思う。会って、もっと話したい。遊星のこと、彼の決闘のことなど色々。しかし、青年と彼の住む世界は隔たっている。気軽に会えるような立場にはない。あの日彼と出会えたのは、本当に偶然だったのだ。今となっては、それが本当に残念だ。
テレビ画面をぼんやり見ていた青年だったが、ふと、画面の下に何かのアドレスが表示されていることに気がつく。「応援メッセージはこちら!」とメッセージがついたそれは、チーム・デルタ宛てのメールアドレスだった。
思いついて、青年は自分の端末を持ってくる。画面のアドレスを端末に読み取らせ、メール画面を開いた。
この行動が、都合よくあの人と再会できるきっかけになるとは、青年はそれほど期待していない。ただ一つ、何としてでも伝えたい思いがあるだけだ。彼に言いたいことはたくさんあるけれど、まず真っ先にすることは、この決闘の感想を率直に伝えること。「君の決闘は素晴らしかった」、と。
――次からチーム・デルタの決闘は全部録画しよう。WRGPだけではなく、これから先の決闘も、全部。
――その前に、送るメールの文面を考えよう。……そういえば、こういうファンメールを誰かに送るのは久しぶりだった。
――決闘でこんなに心躍るのは、一体何年ぶりだろうか?
チーム・デルタへのインタビューは、もう始まっている。自信あふれた彼の声をBGMに、青年はメールを一通打ち始めた。
(END)
2011/4/8
作品名:鉄の棺 石の骸番外11~類は友を呼ぶ~ 作家名:うるら