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君に届け!

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そんな2人の様子に気付いたのだろう、静雄がダン、と手をテーブルに叩きつけた。それだけで、厚さ15センチはありそうな重い木のテーブルが真っ二つに割れて、乗っていた皿や湯のみがずずずと畳に沈んでいく。
「なにかあるんだな?」
「静雄さん、手が、」
「俺に出来ることが、なにかあんだろ?」
「そうじゃなくて、手が! 怪我とか、」
「言え」
「怪我を見るのが先です!」
今この手が振り下ろされたら自分など簡単に吹っ飛ぶ、という事実は帝人の頭にはない。渋々差し出された手を取って見ると、怪我はなく、こぼれた醤油が袖についているだけだった。
一方、畳の方はちょっとした惨状になっていたが、そちらに意識を向ける者はいない。 むしろ、静雄の力を目の当たりにして尚まったく無頓着な帝人の方に、トムと正臣が蒼白になっていた。
ふと、取っていた手に両手をぎゅっと握りこまれる。真剣な顔で、どこか苦しそうに表情を歪ませて、静雄がぽつりと吐き出した。
「言ってくれ。頼む」
「静雄さん……」
いまさら、どうにもならない。けれど、静雄に嘘を吐きたくないとそう思った。どうせ自分の気持ちはバレているのだ。一度でも二度でも、振られることに変わりはないならもうどうでもいいかと、投げ遣りな気持ちが帝人を襲う。
「……静雄さんが、欲しいんです」
けれども口に出すと急に、胸につかえていたものが取れた気がした。こんなに簡単なことだったんだと思い、今度はちゃんと誤解を受けないよう、友情ではなく恋愛感情なのだと想いを込めてはっきりと言葉にする。
「静雄さんを、僕にください。…お願いします…」
すぐ傍で正臣が「いや、それちょっとちがくねぇ?」と呟くのが聞こえたが、帝人は顔を上げることが出来なかった。
怖い。静雄の反応が、怖くてたまらない。
待っていた時間はそう長いものではなかったけれど、帝人にとって、それは今まででいちばん長い時間に感じられた。
不意に、頭をそっとなでるような感触がして、思わず顔を上げる。怒っているようにしか見えない顔が、帝人をま正面から見据えていた。
が、帝人は知っている。これは照れている時の顔だ。
「本当に、そんなもんでいいのか…?」
吐き出す声がかすかに震えていて、それが帝人を勇気づける。と同時に、あまりにも軽い静雄の言いように不安が押し寄せた。
「だって、…全部なんです…、僕は、あなたが、…全部欲しいんです…」
静雄を束縛したいわけじゃない。すべての時間を奪いたいわけではない。
けれど、彼がつらい時そばにいて慰めるのは自分でありたいと、そう思うのだ。静雄の支えでありたいと、いつか自分を頼ってくれたらと、―――そんな風に思うこと自体おこがましいのかもしれないけれど。
「いちばん近くにいて、同じ時間を共有して、僕のものなんだって、…そう、言いたいんです…」
とつとつと想いを吐き出せば、どこか自嘲めいたものを匂わせて静雄が笑った。
「やるよ」とそっけない返答に、まじまじとその顔を見つめる。
「生命も、この力も、今後の人生も。全部、お前にやる」
「…そんな、簡単に、言われたくないです…」
「簡単じゃねぇよ。お前は、…お前なら、一生大事にしてくれるだろ?」
一瞬、言われた言葉のその意味がわからなくなって、帝人は静雄を窺うように仰ぎ見た。 強い視線の先で、自動喧嘩人形と恐れられているその顔が、柔らかな笑みをつくる。
「一生、大事にします」
「じゃあ俺は、たった今からお前のもんだ」
「はい!」
「……えええと、もうなにをどう突っ込めばいいんだか……」
「あー…、まあ、俺も同じ意見だべ…」
にこにこと、そして照れくさそうに見詰め合う2人のそばで、その上司と親友はどこか呆気に取られていた。馬に蹴られる気分というのはこういうものなんだろうかと、しみじみと痛感しながら。
「…もういっそ、このまま籍入れちゃってもいいんじゃないっすかね…」
「だな…」
「『竜ヶ峰静雄』、…か? 悪くねぇな」
「無理ですよ、静雄さん。僕、まだ未成年ですもん」
「そっか、…そうだよな。てことは、あと3年待てばいいのか?」
「僕は別に、『平和島帝人』でもいいですよ」
真面目に考え込む静雄に、くすくすと笑みを溢す。さっきまでの死にたい気分が嘘のように消えていて、我ながら現金なものだとおかしくなった。
ひょっとして夢なのかな、と思って手の甲をつねってみるが、痛みはちゃんとそこにある。ついでに静雄の顔を引っ張ってみると、なにしてんだと頬を噛まれた。甘噛みだがちょっと痛い。本当に、本当に現実なのだと思うと、溢れ出る愛しさで胸がいっぱいになった。
「すき、…です。静雄さん」
思わず言葉が口を吐いて、心がほわ、と温かい気分になる。不安定になって、感情が制御できなくて―――同じ『好き』という気持ちにからくるものなのに、信頼関係があるかないかでこうも違うんだなぁと、それがなんだか不思議に思えた。
「俺も、…同じだ。いや、同じよりもっと、…好きだ…」
与えられた言葉は欲しかったもので、それが帝人の心を優しく包み込んでいく。そして、伝えたくてたまらなかった気持ちが、心が、今やっと伝えたい相手に届いたのだと、そう思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
「まさかと思うけどあの2人、静雄が下だったり、…いや、まさかだべ?」
「えええええ!!? ちょ、サラっと爆弾落とさないでくださいよ!!」
「うーん、いや? なんつーかなぁ…」
「田中さん!!」
傍らで見守る他人の思惑など知った様子もなく、彼らの愛すべき友人と後輩は、幸せそうに笑い合っている。こんな形の愛もありかと、年齢も立場も異なる彼らは、互いに肩をすくめつつ苦笑を漏らした。
―――この二人がもし今後喧嘩をすることがあったとしても、絶対に間には入るまいと、心に固く誓いながら。
 
 

 
作品名:君に届け! 作家名:坊。