こらぼでほすと 休暇1
本来、ティエリアの降下期間は一ヶ月だったが、ヴェーダのアクセスに関するキラから
の提案に協力することになり、その作業が終了するまで、と期間は延びた。キラ曰くは、
七月一杯で、どうにかする、つもりらしい。今のところは、分担して、システムへ組み込
ませるプログラムを構築しているところだ。これが終了して、こっそりと、ヴェーダに侵
入して、生体端末に察知されない作業領域を確保するという一番重要な部分に入る。そこ
までは、バラバラの作業だから、ティエリアは、歌姫の本宅で親猫の看病をしつつ働いて
いる。
「ティエリア、昼飯だぞ。」
地下にある作業場に、ニールがやってきた。ようやく、梅雨の最後の豪雨も落ち着いた
ので、親猫当人は、かなり樂になったから、毎日、きっちり三食をティエリアに届けてく
れるようになっている。もはや、看病とかどうこうじゃなくて、紫子猫の世話を焼いてく
れていたりするぐらい元気だ。
「あなたの分もあるんでしょうね? 」
「あるよ。区切りまで行ったら、こっちに来い。」
周囲に展開しているスクリーンを確認して、そこまでを保存する、と、ティエリアも席
を離れる。背後には、作業台があり、そこに昼ご飯が用意されている。ここんところの楽
しみは、この食事と親猫との会話だから、ティエリアもいそいそと席に着く。
「ニールが作ったんですか? 」
「いや、おにぎりにしたのは、俺だけど、おかずとかは用意して貰ったよ。」
食べ易いように、ごはんはおにぎりにしてくれている。水筒に入っていた味噌汁も、き
ちんと椀に注がれているし、ちまちまとしたおかずもある。
「いただきます。」
「はい、いただきます。」
食事の挨拶をして、おにぎりに手を伸ばす。黄色いノリタマの振りかけられたのが、テ
ィエリアのお気に入りだ。
「そろそろ、俺、トダカさんとこへ移動できそうなんだが、おまえさんは、どうする?
」
ニールの体調が落ち着いたので、ドクターから許可は出た。しばらく、お里になってい
るトダカ家に戻り、そこで過ごしてから、寺へ帰るのが、いつものパターンだ。
「俺も一緒に行く。ここへは、通えばいいだろう。端末さえあれば、作業は、どこでもで
きる。」
「じゃあ、トダカさんに連絡しておくよ。ああ、着替えをマンションから運ばないといけ
ないな。」
「俺がする。」
「いや、どうせ、俺のも用意するからいいよ。おまえさんは、作業のほうを優先しな。」
ティエリアの着替えは、マンションのほうに置いてあるから、それだけは運ばないとい
けない。ニールのは、多少、トダカ家にも置いているから、足りないものだけ寺から運ぶ
だけだから、大した事はない。
「あなただけで勝手に動き回るのは危険だ。」
「どうせ、ハイネかレイにアッシーを頼まきゃならないからさ。一人で動き回ることはな
いよ。」
寺とマンションとトダカ家を回るとなると、今のニールには無理がある。まだ、体調は
完全ではないし、夏の湿気と温度は、かなり堪える代物だからだ。
「それならいい。だが、俺もついていく。」
「はいはい。そうだ、作業が終わったら、デートしような? 」
「デート? あなたが出かけられるぐらいに調子がよくなったらだ。それまでは、大人し
くしていてください。俺の指示には、従って頂く。」
「一週間もすれば、身体は落ち着くさ。どうせ、寺の留守番があるから、それぐらいで戻
らないといけないしな。・・・・・・のんびりしてるよ。」
「留守番? 三蔵たちは、また本山とやらに出かけるのか? ニール。」
以前も寺の留守番をしたことがある。寺の主人である三蔵が、もうひとつ管理している
寺があって、そちらへ仕事で二週間ばかり出かけた。その留守番を、ニールが請け負って
いる。以前は、ティエリアと刹那とアレハレルヤも、それで寺に滞在していた。
「ああ、七月中盤って言ってたから、それぐらいだと思う。」
つまり、今回は、親猫と二人きりで留守番か、と、内心で喜んだ。この親猫と二人きり
なんてのは、なかなか難しい。ティエリアの担当は、梅雨の時分とか秋の台風の時期なん
てのが多いから、二人きりになったとしても、親猫が寝込んでいることが多いから、なか
なか外出もできたことがないからだ。
「留守番なら、俺も手伝う。」
「仕事が終わったらな。てか、二人だから、そんなに用事もないさ。ハイネあたりは、居
候すると思うけど、あいつも仕事で飛び回るから常時じゃないしな。」
特区に戻っている時は、ハイネも寺へ居候するし、年少組がおやつを食べに来たりする
から、そこそこ人の出入りはあるだろう。だが、悟空が居ないと、そのおやつの分量が劇
的に減少するから作るのも楽なものだ。ティエリアの用事が終わったら、どっかへ出かけ
ような、なんて、ニールは予定を口にしている。
「ニール、おにぎりを最低でも二個食べてください。」
ちまちまとおかずをつついているだけの親猫に、ティエリアは強引におにぎりを持たせ
る。
「二個は無理。残りは、おまえさんが食べな。」
「じゃあ、俺は、もう食べない。あなたが食べないのなら、俺も食べない。」
箸を置いて、きっと睨むと、親猫は苦笑して、おにぎりにかぶりつく。同じ量を食べて
くれ、とはティエリアも言わないが、最低限は食べてもらいたいから、こうやって脅す。
「もう一個も食べるから、食べろ。」
もうひとつを、自分の取り皿に置いて、親猫が、そう言うと、ティエリアも箸を持つ。
親猫の体調を考慮されているから、あっさりしたメニューだ。
「これは、なんだ? 」
「じゅんさいって野菜。煮こごりになってるんだな。たぶん、おまえさんが好きな味だよ
。」
小さなガラスの器に入っているゼリーのようなものは、初めて見るものだ。恐る恐るテ
ィエリアが口にすると、確かにちゅるりと喉を通る。
「あなたは、俺の好みをよく知っている。」
「そりゃ、一緒に食事してればわかるさ。俺の分も食べていいぞ? 」
ほら、と、もうひとつのを渡されて、それもちゅるりんと食べる。『吉祥富貴』に滞在
するようになってから、ティエリアも食事がおいしいと思うようになった。栄養がどうと
か、カロリーが、どうとかいうのではなく、おいしいもの、というのができた。ひとえに
、親猫が、いろいろと試してくれたからだ。
「これ、もっと食べたいぞ、ニール。」
「晩メシの時に、材料があったら、何か用意する。こっちも、身体にいいんだが? 」
オクラの酢の物を、ニールは差し出したが、ティエリアは、「いらない。」 と、断る
。ねばねばは、どうも苦手だ。身体にはいいらしいが、無理して食べたいものではない。
「くくくくく・・・・・なんで、これはダメかねぇー。トロロは食べられるのに。」
「それは、苦味がある。」
「苦味? 青臭いってことか? 」
「その違いは、よくわからないが、どうも好きではない。」
「まあいいさ。じやあ、これは、俺が二人分食べる。」
の提案に協力することになり、その作業が終了するまで、と期間は延びた。キラ曰くは、
七月一杯で、どうにかする、つもりらしい。今のところは、分担して、システムへ組み込
ませるプログラムを構築しているところだ。これが終了して、こっそりと、ヴェーダに侵
入して、生体端末に察知されない作業領域を確保するという一番重要な部分に入る。そこ
までは、バラバラの作業だから、ティエリアは、歌姫の本宅で親猫の看病をしつつ働いて
いる。
「ティエリア、昼飯だぞ。」
地下にある作業場に、ニールがやってきた。ようやく、梅雨の最後の豪雨も落ち着いた
ので、親猫当人は、かなり樂になったから、毎日、きっちり三食をティエリアに届けてく
れるようになっている。もはや、看病とかどうこうじゃなくて、紫子猫の世話を焼いてく
れていたりするぐらい元気だ。
「あなたの分もあるんでしょうね? 」
「あるよ。区切りまで行ったら、こっちに来い。」
周囲に展開しているスクリーンを確認して、そこまでを保存する、と、ティエリアも席
を離れる。背後には、作業台があり、そこに昼ご飯が用意されている。ここんところの楽
しみは、この食事と親猫との会話だから、ティエリアもいそいそと席に着く。
「ニールが作ったんですか? 」
「いや、おにぎりにしたのは、俺だけど、おかずとかは用意して貰ったよ。」
食べ易いように、ごはんはおにぎりにしてくれている。水筒に入っていた味噌汁も、き
ちんと椀に注がれているし、ちまちまとしたおかずもある。
「いただきます。」
「はい、いただきます。」
食事の挨拶をして、おにぎりに手を伸ばす。黄色いノリタマの振りかけられたのが、テ
ィエリアのお気に入りだ。
「そろそろ、俺、トダカさんとこへ移動できそうなんだが、おまえさんは、どうする?
」
ニールの体調が落ち着いたので、ドクターから許可は出た。しばらく、お里になってい
るトダカ家に戻り、そこで過ごしてから、寺へ帰るのが、いつものパターンだ。
「俺も一緒に行く。ここへは、通えばいいだろう。端末さえあれば、作業は、どこでもで
きる。」
「じゃあ、トダカさんに連絡しておくよ。ああ、着替えをマンションから運ばないといけ
ないな。」
「俺がする。」
「いや、どうせ、俺のも用意するからいいよ。おまえさんは、作業のほうを優先しな。」
ティエリアの着替えは、マンションのほうに置いてあるから、それだけは運ばないとい
けない。ニールのは、多少、トダカ家にも置いているから、足りないものだけ寺から運ぶ
だけだから、大した事はない。
「あなただけで勝手に動き回るのは危険だ。」
「どうせ、ハイネかレイにアッシーを頼まきゃならないからさ。一人で動き回ることはな
いよ。」
寺とマンションとトダカ家を回るとなると、今のニールには無理がある。まだ、体調は
完全ではないし、夏の湿気と温度は、かなり堪える代物だからだ。
「それならいい。だが、俺もついていく。」
「はいはい。そうだ、作業が終わったら、デートしような? 」
「デート? あなたが出かけられるぐらいに調子がよくなったらだ。それまでは、大人し
くしていてください。俺の指示には、従って頂く。」
「一週間もすれば、身体は落ち着くさ。どうせ、寺の留守番があるから、それぐらいで戻
らないといけないしな。・・・・・・のんびりしてるよ。」
「留守番? 三蔵たちは、また本山とやらに出かけるのか? ニール。」
以前も寺の留守番をしたことがある。寺の主人である三蔵が、もうひとつ管理している
寺があって、そちらへ仕事で二週間ばかり出かけた。その留守番を、ニールが請け負って
いる。以前は、ティエリアと刹那とアレハレルヤも、それで寺に滞在していた。
「ああ、七月中盤って言ってたから、それぐらいだと思う。」
つまり、今回は、親猫と二人きりで留守番か、と、内心で喜んだ。この親猫と二人きり
なんてのは、なかなか難しい。ティエリアの担当は、梅雨の時分とか秋の台風の時期なん
てのが多いから、二人きりになったとしても、親猫が寝込んでいることが多いから、なか
なか外出もできたことがないからだ。
「留守番なら、俺も手伝う。」
「仕事が終わったらな。てか、二人だから、そんなに用事もないさ。ハイネあたりは、居
候すると思うけど、あいつも仕事で飛び回るから常時じゃないしな。」
特区に戻っている時は、ハイネも寺へ居候するし、年少組がおやつを食べに来たりする
から、そこそこ人の出入りはあるだろう。だが、悟空が居ないと、そのおやつの分量が劇
的に減少するから作るのも楽なものだ。ティエリアの用事が終わったら、どっかへ出かけ
ような、なんて、ニールは予定を口にしている。
「ニール、おにぎりを最低でも二個食べてください。」
ちまちまとおかずをつついているだけの親猫に、ティエリアは強引におにぎりを持たせ
る。
「二個は無理。残りは、おまえさんが食べな。」
「じゃあ、俺は、もう食べない。あなたが食べないのなら、俺も食べない。」
箸を置いて、きっと睨むと、親猫は苦笑して、おにぎりにかぶりつく。同じ量を食べて
くれ、とはティエリアも言わないが、最低限は食べてもらいたいから、こうやって脅す。
「もう一個も食べるから、食べろ。」
もうひとつを、自分の取り皿に置いて、親猫が、そう言うと、ティエリアも箸を持つ。
親猫の体調を考慮されているから、あっさりしたメニューだ。
「これは、なんだ? 」
「じゅんさいって野菜。煮こごりになってるんだな。たぶん、おまえさんが好きな味だよ
。」
小さなガラスの器に入っているゼリーのようなものは、初めて見るものだ。恐る恐るテ
ィエリアが口にすると、確かにちゅるりと喉を通る。
「あなたは、俺の好みをよく知っている。」
「そりゃ、一緒に食事してればわかるさ。俺の分も食べていいぞ? 」
ほら、と、もうひとつのを渡されて、それもちゅるりんと食べる。『吉祥富貴』に滞在
するようになってから、ティエリアも食事がおいしいと思うようになった。栄養がどうと
か、カロリーが、どうとかいうのではなく、おいしいもの、というのができた。ひとえに
、親猫が、いろいろと試してくれたからだ。
「これ、もっと食べたいぞ、ニール。」
「晩メシの時に、材料があったら、何か用意する。こっちも、身体にいいんだが? 」
オクラの酢の物を、ニールは差し出したが、ティエリアは、「いらない。」 と、断る
。ねばねばは、どうも苦手だ。身体にはいいらしいが、無理して食べたいものではない。
「くくくくく・・・・・なんで、これはダメかねぇー。トロロは食べられるのに。」
「それは、苦味がある。」
「苦味? 青臭いってことか? 」
「その違いは、よくわからないが、どうも好きではない。」
「まあいいさ。じやあ、これは、俺が二人分食べる。」
作品名:こらぼでほすと 休暇1 作家名:篠義