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こらぼでほすと 休暇1

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 酢の物の器は、ニールのほうへ引き寄せられた。そんなふうに、何やら細々としたこと

を言い合いつつ、食事するのが、今のところ、ティエリアの癒しになっている。





 翌日、午後近くにトダカがアマギを引き連れて、歌姫の本宅までニールを迎えに来た。

だが、そこにはニールが待っているだけで、紫子猫の姿がない。

「ティエリアくんは? 」

「ハイネが、別荘へ拉致って行きました。」

 一緒にトダカ家へ行くつもりだったティエリアだったが、キラから打ち合わせさせて欲

しいという連絡が入って、そちらに向かった。それなら、俺も手伝おうか? と、ニール

は申し出たのだが、ティエリアが断った。組織に関することに、親猫の手は使いたくない

からだ。手伝って貰うと、どうしたって組織の現状まで知られてしまう。それは、マズイ

と思ったらしい。

「そろそろ佳境なのかな。シンたちも、別荘に行ってるんだ。」

 もちろん、最終のヴェーダに細工する段階となると、ティエリアとキラ、アスランだけ

では手が足りない。だから、手隙のシン、レイ、ハイネも借り出されている。

「俺も手伝おうって言ったんですが、断られました。」

「そりゃ、娘さんはダメだ。まだ、体調は万全じゃないからね。それに、三蔵さんが、イ

ライラしてるからさ。とりあえず、寺に顔を出して、それから、うちに帰るよ。」

 日常生活担当のニールには、そちらのことは手伝わせたくないのは、ティエリアだけで

なく、『吉祥富貴』のスタッフも同意見だ。組織の仕事など、今更、見せないほうがいい

。見せれば、それだけで、いろいろと気付いてしまうし、それを気にして体調が悪くなる

のは目にみえている。

「途中で、食事して行こうか? 娘さんは食べたいものはあるかい? 」

「別に、これといってはないです。」

「じゃあ、いつもの店でいいな。」

 トダカも、そちらには関与させるつもりはないから、さくさくと家に戻るほうへ促す。

いろいろと独立治安維持部隊の情報が流れているようなところへ、ニールを晒すつもりは

ないからだ。





 別荘のほうでは、ラボの一室で、ヴェーダとのアクセスについての最終打ち合わせが始

まった。シン、レイ、ハイネ、ダコスタがフォローに回るため、そちらとの詰めもする必

要があった。

「僕とティエリアで、ヴェーダに仮想空間をドッキングさせる。その瞬間に気付かせない

ために、生体端末の目を眩まして欲しいんだ。やり方は、こう・・・・。」

 キラが、そこにディスプレイを、いくつか展開させて、フォローしてくれるほうに指示

を出す。ヴェーダの容量はかなり大きいから、小さな穴を開けるぐらいは造作もない。そ

れを広げて、仮想空間に繋げてしまえば、歪に広がったという認識はされないだろう、と

いうのが、キラの考えだ。その小さな穴を開ける瞬間を知られずに作るために、別方向か

らのサイバーテロを仕掛けて貰う。これは成功しなくていいし、騒ぎは何箇所かに多発す

るほうがいい。そちらに集中した瞬間が狙い目だ。

「だが、それだと、こちらの経路を辿られたら、アウトだぞ? キラ。」

 ハイネが、マトモな意見を述べる。攻撃自体は、簡単なものだが、それを誰がやったか

、辿られてはマズイ。

「もちろん、僕が、それ専用の回線を作る。いくつも経由させて、ヴェーダにも細工する

から問題ないよ、ハイネ。ロクロクちゃんは、すでに、ヴェーダには潜ませてあるからね

。」

「ああ、そうか、あっちにもロクロクが乗っかってたな。」

 全制御型システム 通称ロクロクちゃんというのが、すでに、キラによってヴェーダに

仕掛けられている。これは、相手のシステムを乗っ取ることはできないが、ある程度は、

こちらからのオーダーが通せるようになっている。これも、ヴェーダに乗せたのは、ヴェ

ーダ本体も生体端末も認識していない。すでに、ヴェーダの一部になっている。

「キラさん、それじゃあ、派手にウイルスを仕掛けてもいいわけですか? 」

「うん、システムクラッシャータイプのを、いくつか用意してるから、派手に展開させて

くれる? レイ。シンは、ウイルスタイプでお願い。」

「まさか、アスアスじゃないですよね? キラさん。」

「アスアスもあるよ。あれぐらいじゃないと、ヴェーダは本気で防御しないもん。」

 アスアスは、一号から五号まであって、システムを破戒したり停止させたりする最強の

ウイルスだ。キラご自慢のウイルスで、プラントや連合のマザーにも仕掛けてある。何か

しら、キラたちが攻撃された場合に爆発するようになっている。暇に任せてスーパーコー

ディネーターが作り上げたウイルスだから、普通の人間では太刀打ちはきかないが、ヴェ

ーダほどの演算処理システムがあれば、対応するだろう。

「だが、キラ。もし、ひとつでも最深部まで侵入したら、ヴェーダは機能停止に追い込ま

れるぞ? 」

「だから、そこまでのウイルスじゃないってば、ティエリア。多少、プログラムは書き換

えて排除できるぐらいの緩さにしてあるから。」

 本気のアスアスじゃないから、大丈夫、と、キラは請け負う。システムが壊れたら、そ

れはそれで問題だから、そこは加減するらしい。

「決行は? 」

「うーん、仮装空間の詰めをやったら決行なんだけど、ティエリアのほうはできてる? 



「あと三個残っている。」

「じゃあ、それを全員で分担してやって整ったら決行。あ、その前に、アスラン、あっち

こっちのマザーのほうにも攻撃を仕掛けてくれる?」

「了解。ダコスタ、手伝ってくれ。」

 ヴェーダだけに攻撃を仕掛けるのではなく、あちこちも攻撃しておく。サイバーテロな

んてものは日常茶飯事のことだから、ちょっと派手なのをやっておけば、どこかのバカが

騒いでいるぐらいの印象は与えられる。

「これが終わったら、ティエリアもお休みだからね。それまで、がんばろ? 」

 ニールの看病とシステムの構築で、ほとんどゆっくりしていないティエリアを労って、

キラは肩を叩く。

「わかっている。キラ、それから、みんな、組織のことで手を煩わせてすまないが協力し

てくれ。」

 『吉祥富貴』側には、あまり益のあることではない。これは、組織に対する陰ながらの

援助だから、ティエリアも素直に礼を言って頭を下げる。これで、ヴェーダの利用領域が

広がれば、組織は動きやすくなる。分断されている組織内部の各セクションとの連絡や情

報交換も樂になるはずだ。

「MSのほうは、どうなんだ? 紫子猫ちゃん。」

「徐々に機体のセッティングは始まっている。来年の始めには、一機目がロールアウトす

る予定だ。」

 組織のほうも三年目にして、ようやくMSの組み立てが始まった。ロールアウトしてか

ら、細かいセッティングや機体とエンジンのマッチングなどの作業が始まる。そうなるる

と、ティエリアも地上に降下するのは難しくなる。

「つまり、今年の終わりがラストってことか? 」
作品名:こらぼでほすと 休暇1 作家名:篠義