his special
「残念、不正解。あらかた君は自分の存在が俺という人間を変えてしまうんじゃないかってことを案じているんだろうけど、そんなことはあり得ないよ。むしろ逆だといってもいい」
いつものように相手の考えを推測して並べ立て、自分のペースに引き込んで行く臨也さんの話し方。僕の存在ごときで自分は変わらないと言ってるのかとも思えるような台詞だけれど、今のは違う。違うとすぐにわかった。
「確かに俺は人間が好きだ。愛してる。人間という生き物以上に興味深いものなんかないとずっと思ってた。でも実際こうして、それ以上に好きなものができてしまったんだよ。それは事実として受け止めるべきだと思わない?」
「そ、そうです、けど」
「それがどういう結果を生むのかは、俺にだってわからない。もしかしたら波江の言うように君を不幸にしてしまう可能性だってあるし、もちろんそうならない可能性だってある。──わからないんだよ、何せ、前例がないから」
つまり、それまで特定の誰かをこんなに本気で好きになったことはない、って、
「もちろんそうならないように、俺らしくなく努力もするつもりだけど。帝人君もさ、俺にわからせてよ。示して見せて、ただひとつの『前例』になってさ」
ま、前例といっても最初で最後だろうからあんまり関係ないけどね。
さらりと何気なく付け足された言葉に、真っ赤になりそうな顔を必死に押しとどめた。
あまりにも歪で一風変わった彼の愛情に付け加えられた「特別な自分」の存在のおおきさに
僕は蚊の鳴くような声で「ハイ」と呟くことしかできなかった。
作品名:his special 作家名:和泉