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「つるちゃんつるちゃん!ぼくちょっとすごい体験しちゃった!」
 そう言いながら彼が興奮して帰ってきたのは、今回の旅行の二日目のことだった。
「何々?って聞く前にもっと聞きたいことあるんだけどなあ」
 自他共に認めるタワーマニアの俺達は、もちろんこの連休も二人でタワー巡りの旅にきていた。
 今回の目的は京都タワー。彼のたっての希望でここに決めた。
 まだ行ったことのないタワーはたくさんあるのに、やけに京都を推すな、とはその時から思ってはいた。
 それがいざ来てみると、彼はどうやら他に気になることがあるようで、京都タワーを見てもどこか上の空。そして夜は一人でこっそりとどこかへ出かけていくのだ。
 (部屋が同じだからいくらこっそりしても意味はないというのに)
 彼が友達離れを始めた、というのなら良いことだとは思うが、それにしたって行き先も言わずに出かけていくというのはどうだろう。
 そう思いはしたが、昨日は移動の疲れで俺が早々に眠ってしまい、彼の帰宅を待つことが出来なかった。
 ならば今日聞いてやろうと日中話を振ったが、あの手この手ではぐらかされて結局聞き出すには至らなかった。
 それでも挙動不審になってまったく誤魔化せていないのは彼らしいとも言えるけど…
 ともかく、そっちがそう来るならと俺は部屋で彼が帰ってくるのを待っていたのだ。
 そんなもろもろを詰め込んだ声で問いかけると、彼もさすがに気づいたようでとたんにしゅんとした声になってこう言った。
「あっ…そうだよねごめんつるちゃん…あのね、ぼく…つるちゃんに内緒で昨日今日と、あるタワーを観に行ってたんだ」
「タワー?タワーだったら俺に秘密にすることはないんじゃない?」
「その…前にそのタワーの話をしたときにはつるちゃんあんまり乗り気じゃなさそうだったから」
「…あぁ、もしかしてあれ?曰くつきの五重塔」
 ふと浮かんだ言葉をあげると、彼は虚を突かれたような顔になった。
「あれ…覚えてたの?」
「うんまぁ、一応。タワーの話だしさ。でも正直よくは覚えてないや。どんなタワーなんだっけ?」
「なんかね…歩くんだって」
「……え、五重塔が?」
「うん。しかもしゃべるんだって。…いや、しゃべるのは昔からなんだけど」
「…はぁ?」
「つまりね、最近曰くが増えたんだって。もともと『夜になると塔から人の声が聞こえる』って話はあったらしいんだけど、最近になって急に動きまわるようになったんだって」
 このとき俺は、最初にこの話を聞いたときになんで興味持たなかったのかを思い出した。曰くがあまりにトンデモだったからだ。
「それ、どこからの情報?」
「タワークライマーケンイチさん」
「……あぁ…」
 納得。
「でね、面白そうだから行ってみたんだけど、昨日はとくに何も起きなくてさ。塔自体は普通の塔だし。とくに所以も謂れもないとこだし。でも今日はなんかすごいことになっちゃって」
作品名: 作家名:泡沫 煙