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 観光名所や普通の心霊スポットならいざしらず、タワーマニアでもなければ知らないような曰くのついた場所にわざわざ夜を選んで出向いてくる人間なんてそういないわけで。ぼくが目的地に着いたときには当然ながら辺りには人っ子ひとりいなかった。
 改めて確認するまでもなく、昨日も野良猫にすら出会わなかったんだけど。
「本日の五重塔は…と」
 カメラを取り出し、ぱしゃりと一枚。ライトアップされてるわけでもないので写りは悪いが仕方ない。
 改めて眺めてみても、それは正直言ってただの五重塔だった。
 しゃべるといったって顔があるわけでもないし、もちろん歩きまわるったって足があるわけもない。
「やっぱり嘘…だったのかなぁ。まぁ、ケンイチさんの情報って当たり外れあるし…」
 しゃべるだけならそれこそ、心霊スポットと考えてしまえば真偽はともかく納得は出来る。
 それが、建造物が歩きまわるとなってはさすがにちょっと…ねぇ。いくらぼくでもそれくらいはわかる。
 今回の旅行も、移動含めて三日で組んでるから今日が無理なら明日は昼間にしか来られない。
 あーあ。せっかくわざわざあのスターバックスにまで行って、京都だからってわざわざ、まっちゃ…くりいむ…ふ、ら、ぺ、ちーの…?を買うくらい浮かれてたのになぁ。
 試しに買ってみたら持っててやたら冷たいしカップに汗かくしでちょっと困っているところです。
 昨日と同じ轍は踏まないぞって思ったのになんか焦っちゃって同じ物頼んじゃったし…まっちゃ、てぃー、らて…にしたかったのに…せめてナプキン持ってくれば良かった…
「それを持ったまま中に入らないでくださいね」
「…え?」
「雫をたらされたら冷たいですから」
「あぁ、そうですよねすみませ…ん!?」
 ちょっと待て、思わず自然に会話しちゃったけど今ぼくの回りには誰もいなかったはず…!
 ばっ、ばばっ、とまるで尻尾を追う犬のようにぐるぐると辺りを見回しているともう一度声が聞こえた。
「突然何故回ってるんです?」
「!!」
 反射的に声のしたほうを…見上げた。
「えっ!?顔!?」
「はじめまして、五重塔です」
「あ、これはご丁寧にどうも…ぼくはタワーマニアの」
 ってちょっと待てったら!相手のペースに乗るなぼく!
 だがいくら冷静になってみても、話しかけてきたのはどう考えても五重塔だったし、その五重塔にはさっきまでなかったはずの彫りの深い顔がついていた。
 …自分でも何を言っているのかよくわからない。
「えっと…五重塔さん?」
「なんですか?」
「…顔があるんですね?」
「顔があるんですよ?」
「……しゃべるんですね?」
「顔がありますからね」
 さも当然のことのようにそう返事されて、ぼくはもはや何も言えなくなってしまった。
 普通は五重塔…というかタワーに顔なんてないよね?
 あったとしたらそれはマスコットであって本体じゃないよね?
 …ぼく間違ってないよね?
「ところであなた、こんなところに何しに来たんですか?」
「え? あー…」
 いくらなんでも本人(本塔?)に「肝試しに近い好奇心です」なんて言えない…
 ぼくは苦し紛れに「観光です」と答えた。
 その途端、五重塔の表情が変わった。
「…困るんですよそういうの」
「え?」
「私は寺社仏閣なんかじゃないのに!由緒とかないって言ってるのに!それなのに私にお供え物をして写真を撮っていく人が後を絶たないんですよ!」
「え、あぁ、だ、大丈夫です!あなたに由緒がないのは知ってますから!そういう観光ではないので!」
「えっ…じゃあどういう観光で?」
「ぼく、タワーが好きなだけなんです。世界中のタワーを制覇したいと思ってるだけで…ほら、五重塔さんも背が高いし。それで…」
「…そういう人達って他にもいっぱいいるんですか?」
「少なくはないと思いますけど…なんでですか?」
「なんかついこないだも似たようなことを言う変な人が来たな、と…」
「もしかしてタワークライマーケンイチさんですか?」
「そうそれ!ケンイチだかカメヒコだかガブリエルだか知らないけど…」
 言いながら五重塔は露骨に嫌そうな顔になってぼくを見た。
「まさかあれの仲間ですか?あのときもいろいろむちゃくちゃされたし正直勘弁して欲しいんですけど…」
「あ、いや、あの人は『タワークライマー』ですがぼくは『タワーマニア』ですから。ぼくは見るだけで十分です」
「見るだけ…登らなくていいんですか?つまり中には入らないと?」
 ケンイチさんが何をしたのか知らないけど、あの人の名前を出した途端にぼくは警戒されてしまったらしい。眇めるような目で問う五重塔にぼくはついしどろもどろになってしまう。
「えっ…見たくないといったら嘘になりますけど、まぁ、見なくても、はい」
 主目的はすでに果たしてるわけだし…見たいけどさ。見せてくれるっていうならすごく見たいけど…
「…私の頼みを聞いてくれるというなら中に入ってもいいですよ」
「えっうそ!?」
「だってあなた、口と顔で言ってることとやってることが逆ですし」
「うっ……」
「それで、どうでしょう?頼みを聞いてもらえますか?」
「ぼ、ぼくに出来ることなら是非!『お供え禁止の声掛け』とかはいろんな理由で無理ですけど…」
「そんなたいしたことではないですよ。タワーマニア、ということは京都タワーにはもちろん行っているんですよね?」
「えぇ、まぁ…」
「でしたらちょっと持ってきて欲しいものがあって…」
作品名: 作家名:泡沫 煙