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憧れと曖昧な恋

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「せめて今夜は彼の側に付いていてあげれば?本当に臨也って怜悧狡猾」
「言われなくてもそのつもりだし」
会話のキャッチボールは続いていて、次第に声が遠くなった。
何かを話しているが聞き取れない。玄関を出ていく音がしたと同時に
ガチャリとドアの開く音がして一筋の光が部屋の中に差し込んだ。
ゆっくりと枕に沈んだ頭を動かすと臨也さんの姿がそこにあった。
「やあ」
臨也さんだ。臨也さんがいる。
「…あの、ここは……」
「俺のマンションだよ」
両腕には包帯が巻かれているし足の自由も効かない。
左頬にはガーゼの貼られている感覚。右目は包帯に覆われていて視力を失っていた。
臨也さんは僕の横に座った。まだ頭に靄がかかっているみたいだ、思考が回らない。
「……………」
「無理はしない方がいい」
ああ、そうだ。思い出した。どうしてこんな状況になったのか。
夜、近所のコンビニの帰り道見知らぬ不良組に暴行を受けたのだ。
「お前が折原臨也だな」って。酷い勘違いだ。すぐに否定をしたけれど、
彼女とホテルに入る写真を抑えられて問答無用で暴行を受けた。
「ガキのくせに人の女に手を出しやがって」他にも酷い暴言と暴行。
意識が遠のき、誰かの靴の音が聞こえてきて、瞳を閉じた。その先は覚えていない。
気が付いたらベッドの上だ。
「どうし…」
声が掠れている。喉も乾いていた。
「ごめんね、俺のせいで」
「…どうして、貴方が謝るんですか」
らしくない。臨也さんはなにも謝る必要などないのに。それともわざとだろうか。
この人はわざとこんなことを僕に言って僕の反応を楽しむために口にしたんだろうか。
「襲われたのは俺にも非がある。勿論君にもね。だから忠告をしてあげたのに」
脳裏に浮かんだのは彼女の影。
「彼女ねあれでも付き合っている男がいるんだ。君も知っての通り柄の悪い奴でね」
彼女は言った。「私は臨也さんを愛しているの」例え彼の愛が自分に向かれなくても
それでもただ、愛しているの。
僕にはそれが寂しさを紛らわすために彼女自身が自分に言い聞かせているようにも思えた。
ただ、寂しかった。そんな言葉が悲しく僕の胸に響いた。
「興味があったんだよ、俺のお気に入りだって思ってたみたい帝人君」
「お気に入り?僕が?」
「そ」
臨也さんの手が、伸びて僕の頬に触れた。
「どうしてそう思ったのかな。帝人君と俺ってそんなに親しくないし」
親しくない、か。少しショックだ。
「ああそういえば俺のマンションの前で鉢合わせしたって言ってたから
ちょっかい出したくなって遊んでみたくなったのかな、女心は俺にも掴めない時が山ほどあるし」
本当に?
「お気に入りだなんて大げさ、そんな筈ないのにね」
ええ、本当に。そんな筈ないのに。どうしてそう思ったんだろう。
確かに僕は臨也さんに憧れを抱いている事は自覚しているが気に入って
もらいたいとかそんな事は考えた事もなかったし思ってもみなかった。
「……あの…治療費……」
「今はそんな心配はしないでまずは体を治す事を考えようよ」
「でも……」


「ねえ、赤い糸って知ってる?」


あまりにも突然過ぎて突っ込みもが追いつかない。たっぷりと間が空いた。
ましてや頭が上手く働かないこの状況では何も考えが浮かばなかった。
なので僕は素直に話しに乗る事を選んだ。
「運命の人とは繋がっているっていう、あの?」
「そう、運命の人」
赤い糸で繋がっている者同士はいつか必ず結ばれる。ドラマや映画によく使われる手だ。
「意外ですね、臨也さん信じてるんですか?」
「うん。俺実は見えているんだ。自分のこの小指と繋がっている糸の先が」
臨也さんは右手の小指を立てて微笑んでいる。からかわれているのかな、僕は。
「そうなんです、か」
何も見えない。臨也さんの右手には人差し指にはめられている見慣れた指輪だけだ。
「あ、信じてないな」
「信じろと言う方が無理な話ですよ」
「気になる?」
視線に気が付いた彼はそう言って再び小指を僕の目の前で見せた。
「興味はありますけど」
「帝人君には見えないの?」
「普通の人は見えませんよ」
「だよね」
どうして、僕にそんな話を…
「聞いてもらいたかったんだ、君に」
心の声が、見透かされた。
「………」
「ねえキスしてみようか、俺と」
突発発言第二弾。今度こそ本当に驚かされた。大きく目を見開いて臨也さんを
凝視したのもつかの間ぎしり、とベッドに膝が乗り抗議の声を上げる事も叶わず
僕の唇は塞がれた。臨也さんの、唇に。
え、なに。なにされているの。
痛みが走る腕を伸ばし彼の背中を叩いてもその唇が離れる事はない。
歯列を割って侵入してくるざらりとした舌の感覚に体が震えた。
逃げようとした舌はあっさりと絡みとられ吸われ臨也さんのなすがままにされている。
「ん…ふ…ん!」
どうして、なんで。
どうしてこんな事になっているの。
苦しい、苦しい!!
覆いかぶさってくるような体勢に長いまつ毛。触れ合っている唇に眩暈がしそうだ。
熱い、熱い。苦しい。何もかも。もう一度背中を強く叩くとようやく唇が離れて肺の中に新鮮な空気を取り込んだ。
「なんで…なんで…!!こ、こん…こんな…」
「声、震えてる」
「あ、当たり前…」
胸が、痛い。苦しい。心臓がもの凄い早さで鳴っている。
「ちょっとキスしてみたくなって。そんな怖い顔しないでよ。ちょっとした冗談だよ。
冗談。帝人君も嫌ならもっと本気で抵抗すればよかったのに」
「し、しました、僕は抵抗しました!」
「結構柔らかいね唇」
ぺろりと自分の唇を舐めた臨也さんに胸が騒いだ。
何これ、なに。
わからない、今本気でこの人何考えてるか分からない。
なんでさも平然とさらっとそんな事を言ってのけるんだ。
「さてと、他には何かご要望はあるかな?」
「………今すぐ出て行ってもらえませんか。ついでに水を持ってきて下さい。
そしてすぐに出て行って下さい、すいません…今臨也さんの顔見たくない…です」
酷く、喉が渇いている。カラカラだ。唾を飲み込むが彼の唾液が舌がこの口の中に
あった事実に居た堪れなくなった。今すぐに口の中を濯ぎたい。潤したい。
臨也さんは肩をすくめた。踵を返し彼の手がドアノブに触れた。
「臨也さん」
動きが止まる。
「臨也さんの、運命の相手は…もう見つかったんですか?」
やや間が合って。振り向いた臨也さんはやっぱり笑ったままだった。
「秘密」
パタンと閉じられたドアの音がやけに耳に残った。
しばらく臨也さんが消えたドアを見つめていた。
体が熱い。心臓も早鐘のごとく鳴り響いている。
大きく息を吸って、もう一度吐く。
臨也さんの唇の温もりが、今でもはっきりと残っていて。
信じられない、嫌じゃなかった、気持ち悪いと思わなかった自分に。
…何が、したいんだよ、あの人は…!
なんでこんなに胸が痛いんだ。
なんでこんなに苦しくて堪らないんだ。
違う、違うんだ。その理由は知りたくない。
きっと違うんだ、これは恋なんかじゃない。
憧れの気持ちから少し、少し嫉妬しただけなのだ。
臨也さんの小指に繋がっている赤い糸の相手に。


僕の赤い糸の先は誰にもわからない。僕にだって、わからない。

作品名:憧れと曖昧な恋 作家名:りい